長電話の法則

『今日の運勢は…』

登校の時刻までリビングのソファーでうとうとしていると、朝のニュース番組の間で行われる毎日恒例の星座占いが始まって一気に目が覚めた。

『一位は牡牛座!恋愛運、金運、仕事運共に最高!ラッキーカラーは~』

モデルのお姉さんがコスプレ姿で踊る傍らに表示されている文字を、続けて食い入るように見つづける。

『山羊座はごめんなさ~い!十二位!すべてにおいてうまくいかな日~』

「そ、そんな…」

あまりの結果に対して声に出ていた。今日の運勢は最低らしいのだ・・・そんな俺は結果にうなだれて頭をかかえるしかなかった。
そうやって落胆の色を体全体で表現していると、

「おにい…じゃなかった。なかなか慣れないなぁ」

俺の背後から妹の声が聞こえてきた。

「わっ!なんだ…妹か…背後からなんて卑怯だぞ」

と、慌てて振り向きざまに物申す。すると、長い髪が頬にかかってくすぐったい。こっちもまだ慣れないなぁ。

「む、ちゃんと『おはよう』って言ったのに。おねぇちゃん正座占いに気をとられてて気づいてないんだもん」

「あ~ごめんごめん」

妹の挨拶を無視した件について謝ると、妹はニタニタした表情で俺に問いかけてきた。

「で、なぁ~んでそんなに占いの結果が気になるのかなぁ?」

妹はニタニタした表情のまま、俺の前方にしゃがんで顔を覗き込んでくる。

「な、そ、そんなことは…!断じて!断じてない!うん!」

「ふーん。今までは、占いなんて論理的じゃない!なんて言って見向きもしなかったのに。なぁんでかなぁ?」

何かに探りを入れるかのような妹の言葉に、俺は一瞬焦ってしまう。しかし、このままでは悟られてしまう。
とにかく女の子と言うものは厄介なのだ。まぁ、『先輩達(女体化者)』にも言えることだが。
特にうちの妹に関しては、事あるごとに井戸端会議のネタを収集しようと何かと食いついてくる。
最悪学年中の噂に成りかねない。言い過ぎかも知れないが、これくらいの警戒はしておいて損は無いはずだ。
と言うわけで、どう言い訳るか考えているのだが、それを待たずに妹が言葉を続ける。

「あっー、もしかして…」

心の中を読まれたかと思い一瞬びくっとなる。とにかく女の子と言うのは鋭いのだ。迂闊な事は言えたもんじゃない。

「もうお小遣使っちゃったんでしょ!」

「ちがうわ!」

「えーなら、またテストで赤…」

「もっとちがうわ!つーか、まだ中間テストにもなってねぇ!!」

俺が前のめりになって妹の質問に対して次々に全力で否定していくと、なにかを掴んだかのようにニヤリと笑っていた。
ん?なにか様子が変だぞ?と、こちらの警戒が追いつく前に──

「好きな人ができたんだ?」

「なっ!わわわわわ!!」

妹の狙い済ましたような質問に、ズリズリとソファーから床へ体がずり落ちてしまった。ドゲシ!と妹の質問が、ドシン!とフローリングの床が、俺に手痛いダメージを与える。
目を開けると、自分の膝小僧と白い太腿が俺の目に飛び込んでくる。我が妹に対して、スカートの中の白いものをおっぴろげる姿となってしまった。
これじゃ『図星ですよ』と言っているようなものだ。
俺は、いてててて・・・と、捲れたスカートを直しながらソファーに座りなおすと、妹が俺の真横に飛び乗るように腰掛けてきた。
ソファーがぎしっとしなって俺の体が揺さぶられる。両手を軽く広げ慌ててバランスをとると、美佳はすかさず俺の左腕に両腕を絡み付けてきてこう言った。

「だーれ?」

「違う!そんなんじゃない!」

「うそばっか!」

「う、うそじゃないぞ!お、おにい・・・じゃなかった、おねぇちゃんはうそつかないゾッ!ほら目を見て!」

「ジーーー・・・・嘘だもん!おねぇちゃん、嘘つく時いつも瞬きの回数が増えるんだもん」

どうやら裏目に出てしまったらしい。

「あーもう勘弁してー」

そんなこんなで、こんなやり取りが学校につくまで続いた。



登校後、ホームルームが始るまでの時間、クラスのにょたグループの中でたわいもない会話に花をさかせ?ていると、それは次第に今朝の星座占いの話題へと切り替わって行った。

「ねぇ、にょた子、今日の運勢どーだった?ウチは十一位…最悪…」

「僕は三位!恋愛運が一番よかったんだ~。・・・・はぁ・・・」

顔を少しばかり赤くして遠くを見つめるにょた子。その視線の先は校庭で未だ朝連に勤しむ同じクラスのサッカー部員が居た。
そんなにょた子は相変わらずのミーハーぶりであった。

「にょた子ファイト!ウチは応援しているぞ!で、にょにょ佳は?」

「うぇっ!?」

「あー・・・にょにょ佳は山羊座だったねー」

「山羊座って確か・・・」

「ふ、ふん!占いなんて論理的じゃない!ばかばかしい!」

「あれあれー?見たのかなぁ?見てないのかなぁ?」

「ほら、にょた子!それくらいにしてあげなって。あーもぉーそうふてないの!ちゃーんと対策してれば克服できるんだからね?見たのならちゃんとやりなさいよー」

「・・・茶色のネリ消なんて、今時売ってないって!」

「なんだ、しっかりチェックしてんじゃん・・・」

「うぅ!」

「ふふふ、そんな意地っ張りな所がかわいいなぁ」

って、意地っ張りな女ってあまりかわいくないんじゃ…?と俺は考察する。
って、墓穴じやんそれ!と自問自答して勝手に落ち込んでしまった。
にょた子の奴、可愛らしい顔の割りに発言が酷い!
俺がうな垂れていると、後方から男子生徒の声がにょたグループに届いた。

「おっす!」

「あ、男君おはよー!」「おはよー!」

にょた奈についづいて、にょた子もその声に元気の良い挨拶で返す。対して、物思いに耽っていた俺は、その人物が誰か分からず俯いていた顔を上げて確認する。

「男・・・!?お、おはよ・・・」

突然の男時代の親友の登場にびっくりして、おはようとうまく言えなかった。
同時に顔の表面が段々と熱くなっていくのがわかる。急に心臓の鼓動が高まって、体内から鼓膜に響き渡る。
そんな様子を悟られまいと、また俯いてしまう。

「ん?にょにょ佳、なんか今日は元気がねーなぁ。どーした?」

男は、俺に近づきながら心配そうに俺に声をかける。

「な、なんでもない・・・」

近づかれると顔が赤いのがばれてしまう。男との距離を置くために二歩程後ずさる。

「つれねぇなあ、ん?本当に大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」

察してくれない・・・・のがこの男である。男はあいた距離を詰めるため一歩近づいて俺の顔を覗き込んでくる。

「!!・・・なんでもない!」

「そそ、野暮なことは聞かないの!女の子にはそう言う日があるの知らない?」

男は「うぇ!?」と素っ頓狂な声を上げて慌てて数歩後ずさる。
そういうと、にょた子とにょた奈は俺の腕を引っ張って別の場所へ移動してしまう。
にょた奈はゴメンねと男に愛想を振りまいて、ちゃっかりフォローを入れていた。
男は困った顔を数段階安堵の表情へ近づけると、じゃな!と自分の席へ着いた。
こういう気遣いができるにょた奈に対して、俺は尊敬と嫉妬をらせんの様に絡ませた心境で見つめる。

「はぁ・・・そんなんじゃ本当にに占い通りになっちゃうよ」

俺の心境を悟られたのか否か、ため息混じりに言葉を吐いた。

「うるさい、うるさーい!」

意地っ張りな自分がいやになって、目頭がすこし熱くなる。

「こういうのツンデレっていうんだっけ?」

「にょた子ってば・・・空気読めない子・・・」

にょた奈から更に大きなため息が漏れていた。

男との距離は日に日に開いていってる気がした。あいつはいつだっていつも通り。問題があるとしたら俺の方。
互いの関係が男と女になってしまってから、何か大切な繋がりを断ち切られてしまったかのように感じていた。
しかも、男の顔を見ると顔面に火がついたみたいに熱くなる。これが恋というものならば、どうしてこんなに苦しいのだろう。恋というものは明るく楽しいものではなかったのか?

「はぁ・・・・」

自然とため息が漏れた。

「好きなんでしょ?」

俺は、にょた奈の言葉を否定せず無言でコクリと首を縦に振った。

「どうしよう・・・どうしたらいいんだろう」

「そんなの簡単じゃん」

それからにょた奈は俺にある提案をした。

自室のベッドに突っ伏して、にょた奈の提案を頭の中でずっと考えていた。
その提案の内容とは、長電話の法則。だそうだ。要するに、なんとか長電話出来るように持ち込んで、後は話の流れで遊びに誘ってしまえ。
というものだった。しかし、今の俺にはそれすら論外に近い提案だった。それが出来れば今こんなに苦しんでいない。

「どう理由つけて、電話かければいいんだよう・・・・」

すると、突然携帯の着信メロディーが鳴り出した。
このメロディーは電話だ。誰から?と疑問に思いながら、億劫な気分で手だけを携帯に伸ばして拾い上げ、頭だけ横にかいてんさせてそれを確認する。


そう表示されていた。

俺は、はわ!っと変な声を上げてベッドから飛び起きると、その拍子に携帯が手からこぼれ落ちる。
刹那の間に様々な思いが駆け巡る。
どうやってでればい。早くでないと切れてしまう。でもこれは良い機会。だと。
慌てて携帯を拾い上げると、ベッドの上で正座してから一つ深呼吸。意を決して携帯の受話ボタンを押した。
さて、ミッション開始である。

「もし・・・もし」

『お、にょにょ佳、もしかして寝てたか?』

ううん、とそっけなく返事をする。

『そっか、なぁ今日やっぱ元気なかったろ?』

「そんなことないって」

『うーむ。お前が嘘言ってるかどうかなんて、目を見れば分かるんだが・・・見えん』

「そりゃそーだろ。電話なんだから」

『じゃあ、質問です。にょにょ佳の瞬きの回数は「そんなことないって」から何回目ですか!』

「・・・・0回!!」

『ぶっ!そりゃお前失明するぞ!』

「あははっ!そうだな!」

そこから、調子を取り戻した俺はしばらくたわいもない会話を続けた。
ただし、その会話の端々にいかにあの事を伝えようと狙いながら。
もちろん、会話の内容なんてぜんぜん頭に入っていない。

『でさー、──の奴、俺と一緒に居たお前見てどういったと思う?』

「え?そんなの決まってるだろ。あの可愛い子誰!?紹介しろよ!だろ?」

『ぶっぶー!残念でした!』

「はぁ?そいつ死刑!」

『お前もやっと彼女が出来たのか!めでてぇ!!だってさ』

「なっ!?」

『彼女』と言う言葉に過剰反応した俺は、顔が一瞬で熱ってしまったみたいで、恥ずかしくて顔を枕に突っ伏してしまう。
その後、暫くの間、長い沈黙があった。
勝手に妄想して勘違いしそうで恥ずかしくて何も言えない俺と、急に黙ってしまった男。
お互いに何も言わない長い沈黙。
そして、その静寂を破ったのは──

『あのさ、今度俺と──』


そういえば、この時の俺は今までで一番女らしかったんじゃないかと思う。
ちなみに、俺は山羊座で最下位だったけと、男は牡牛座だった。
二つを足してイーブン。
やっと関係が元通りって感じだった。でも、俺たちにはそれで十分だった。

ところで、このやり取りの後、ちゃっかり盗み聞きしていた妹が「男君とデートなら~」と水をさしてきたのは言うまでも無かった。


続くとgdgdになりそうなので
おわり


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最終更新:2010年09月04日 23:19
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