掌編『ゆびきり』

『ねえねえ、男はな、こうこうせいになると女になっちゃうんだって』
『なにそれ?』
『わかんない。でも隣のうちのおにいちゃんがおねえちゃんになったってお母さんたちが言ってた』
 そのおにいちゃんのことはおれも知ってるから急に恐くなってくる。
『…やだ、おれは男でいたい』
『おれも。でもえっちすれば女にならなくてすむんだって』
『えっち……? たとえばなにすればいいの?』
 スカートめくり? と聞くと、あきたかは首をひねった。
『わかんない。でも、男同士だとできないんだって』
『……じゃあもしおれたちのどっちかが女の子になっちゃったら、もう一人がならないようにえっちしよう!』
『うん!』

 ……無邪気なころの、無知ゆえのこの指切りを後悔するのはかなり後のことだった。




小さなころにしてしまったあの約束。
それは、どこまでも、おれたちの関係を狂わせてしまっていた。

「なんで……?」

ベッドの上。
真上から見下ろしてくるあいつに、おれは茫然と問い掛ける。

「約束、だろ?」
「でも彼女、いるだろ? それにそっちはもう童貞じゃ――」
「それが?」

ひどく冷たい声。
それに目を見開いてるとあいつの顔が近づいてきて。
――ちゅ

小さな音とともに唇を何かが掠めていった。




ただ、目を見開く。
おれはそのまま離れていく秋貴の顔を、見ていることしかできなかった。

「……な、んで」
「そんなこといまさら聞くのか?」

どうしてと問えば、ひどく可笑しそうに顔を歪めて、秋貴が告げる。
その声は今まで聞いたこともないもので、どんどん怖くなってくる。
――逃げなきゃ。

『約束』だろ?」
「ぁ…っ!?」

けど、両手首を一まとめにされてホールドアップしたように縫い止められてしまった。
少し乱暴なそれに驚いてるうちに、また秋貴の顔が近づいてきて。

「ひ……っ」

首筋に予想もしてなかった感触が通り過ぎていった。


おれが女になってから、今日で十日。
学校帰り、十日ぶりにこの家に来た時はまだこんなことになるなんて思ってなかった。

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最終更新:2008年06月14日 23:10
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