---失意の先、希望の終わり 「1」
少年は、ずっと女の子になりたかった。
自分は何故女の子に生まれてこなかったのだろうか、とずっと思っていた。
女の子の着ている服が羨ましかった。
女の子の持っているものが羨ましかった。
女の子の仕草が羨ましかった。
女の子の髪の長さが羨ましかった。
女の子の小さくて柔らかい体が羨ましかった。
だがこの世界には、彼にとってまだ救いがあった。
15歳~16歳まで、つまり17歳の誕生日まで女性と交わることがなければ、体が女性になるという奇跡が。
メカニズムは未だ諸説入り乱れており判然としないのだが、ほぼ例外なく規定の歳まで女性との交わりのなかった男は女性となっている。
小学生の頃そのことを知った少年は、ずっとずっとその日を待っていた。
仕草が女っぽくて気持ち悪いと言われても、のばした髪をからかわれても、密かにもらったり買ったりした女性ものの服を着て、化粧をして、いつかこの体が女になるんだと夢を見て過ごした。
中学時代、女性化した先輩達に憧れ、いろいろと話を聞いたりもした。
相変わらずバカにされたり、気持ち悪いといわれたり、ただ自分が自分らしくするだけで疎まれもしたが、彼はずっと、毎日毎日いつか自分が女性化するときのことを考えて耐えていた。
だが、彼の夢は、心ない者の手で潰されてしまった。
-続く-
---失意の先、希望の終わり 「2」
15歳になり、あと二年の間に女になれる、いつ女になるのだろうと毎日わくわくしながら過ごしていたのだが、ある日彼は机の中に入っていた手紙、いかにもラブレター然としたその手紙に書かれていたとおり、放課後プール脇に訪れた。
彼は男性が好きだったので、無骨な字と色気のない手紙と封筒に喜びを隠せなかった。
手紙の主に会ったら、「もうじき女になれるから、それまで待ってて」と言うつもりだった。
だが向かった先にいたのは、一組の男女。評判の悪い、彼を目の敵にしていた者達だった。
彼は予想外の事態に歩みを止める。と、その瞬間を狙ったかのように後ろから羽交い締めにされ、先にいる二人にも拘束されてプールの中へ連れ込まれ、更衣室の床に仰向けに寝かされ、両足と両腕を押さえられてしまった。
場所が場所なだけに声を出しても誰も来てくれそうになかった。
もちろん抵抗はしたが、顔と腹を殴られてかなり力を奪われてしまい、評判の悪い男に足を押さえられ、もう一人の先ほど羽交い締めににされた男が彼の両腕を押さえていた。
その男は、同学年の別クラスの男子で、密かに彼が好意を寄せていた人だった。
意地の悪い下品な笑みを浮かべながら自分を押さえつけるその姿を見たとき、彼は最初の絶望を感じた。
「おまえきもちわりーんだよ」
「オレのコト好きだとかすげー迷惑なんだよ。女になってから改めて告白ーとか超気色わりぃ」
「男のくせに女になりたがるとかイカれてんじゃねぇの? きもちわりーしゃべり方しやがって、動きとかもきもちわりーんだよオカマ野郎」
容赦なく彼に浴びせられる悪口雑言。
そしてずっと見ているだけだった女が動き出し、彼に猿ぐつわをかけ、声を出せないようにしてから彼のズボンのチャックを下ろした。
彼の血の気が引く。最悪の結果が頭の中をかけめぐる。
-続く-
---失意の先、希望の終わり 「3」
二人の男がニヤニヤしながら彼を見下ろす中、同じくニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら彼の性器を下着から出した女は、おもむろにそれを口に含んで勃起させようとする。
彼は女性に興味はなかったが、体の反応は性指向とは関係なく、彼の性器を勃起させる。
彼は猿ぐつわをされながらも懸命に叫び、全力で手足を動かそうともがいた。涙を流しながら必死に暴れようとする。が、動こうとすると彼が思いを寄せていた男に頭突きをされてその力を奪われてしまう。
「あたしとヤれるんだから光栄に思いなさいよね」
女はそう言って、彼の性器を己の性器に挿入した。
行為が終わった後、男二人と女が去った薄暗い更衣室の中で、彼は座り込んでいた。
口の端が切れて血を流しており、顔は涙で汚れ、手首は鬱血し、顔は殴られたのと頭突きで赤く腫れていた。
しかしそんなことは彼にとっては些細なことだった。
これならまだ、無理矢理レイプされる方がマシだ、と彼は思っていたかもしれない。
ただ、虚ろで光の消えた彼の瞳からは、失意と絶望以外のものを感じることはできなかった。
その日から、彼は笑顔を失った。
彼が唯一すがっていた夢と希望、叶うまであと数日、もしかしたら数時間だったかもしれない、彼が幸せになるための唯一の道を、彼は理不尽に奪われた。
それも、単に彼が性的マイノリティであるというだけで、それを不快に思ったというだけで、彼を失意の底へたたき落としたのだ。
だが彼は一縷の望みを持ち続け、枷のような失意と絶望を両手に嵌められながらも、生き続けた。
中学を卒業し、高校に入学し、16歳の誕生日を迎える。
彼を蔑む者のいない環境で、女性化した者に羨望と嫉妬の視線を向けつつも、つつがなく高校生活を続けた。
毎日うつむきながら暮らし、1%もないかもしれない可能性だけを頼りに生き続けた。
食は細り、どんどんと痩せていく。
絶望は時間がたっても色濃く、明るい態度など微塵も出せない彼はなかなか友達ができることもなかった。
それすらも、彼にとってはどうでもいいことだったかもしれないが。
そしてある冬の日。
彼は、17歳の誕生日を迎えた。
その次の日、彼は姿を消した。
-続く-
---失意の先、希望の終わり 「4」
彼が失踪して、もうすぐ一年が経つ。
家族は捜索願を出し、自らもあちこちと彼を捜して回った。
学校も生徒へ呼びかけたが、ほとんどの者は他人事としてしか受け取っておらず、彼を気にかける者などいなかったと言ってもいいだろう。
そして、彼の同級生が高校三年生になり、卒業まで残すところ半年となったある初冬の朝。
彼を絶望へ堕とした三人が共に進学した学校の門の前におびただしい血の後があった。
すでに冷え切って地面に染み込み、赤黒くなっている血は最初、登校してくる者達にとってなんだかよくわからなかった。
だが、一人が校庭を横切ろうとしたとき、悲鳴を上げた。
その声に驚いた他の生徒や教師が続々と校庭に集まってくる。
そして、校舎の方を見上げて皆が絶句していた。
あまりのことに悲鳴も上げられない、そんな感じだった。
そこには、屋上の鉄柵からそれぞれ三本のロープで両手首と首を釣られた三人の、惨殺死体があった。
真ん中に、無理矢理彼の童貞を奪った女が、その両隣に彼を押さえつけていた男が、吊されている。
その死体は言語に絶するほど無残だった。
男達は性器を切断され、眼球に割り箸を突き刺され、情けなく垂れ下がっている舌には無数の針が刺さっており、両手足の爪は剥がされ、肛門から引きずり出された腸で足を拘束されていた。
そして女の方は……更に惨い死体だった。
乳房を根本から切り落とされ、どうやったのか足は腿から縦に裂かれてそれぞれ三枚の肉の板になっていて、眼球はえぐり取られてその中に切り落とされた指が詰めてあり、口の中には大量の排泄物が詰め込まれていた。
そして……性器には切り落とされた隣の男の性器が挿れられ、肛門にももう片方の男の性器が挿れられていた。
腹は切り裂かれて引きずり出された腸が首を絞め、剥き出しの子宮には大量のカッターが突き刺されていた。
教師達は何事かと校庭に集まってくる生徒を止めることもできず、その場に硬直してこの想像を絶する光景に縛られていた。
そして集まってきた生徒達はこの光景を目にして、その場で阿鼻叫喚の騒ぎを起こす。気絶できた者は幸せだったかもしれない。
この惨劇は、後に歴史に残るほどの衝撃を持っていた。
-続く-
---失意の先、希望の終わり 「5」
あまりにも凄惨すぎる事態に対応は後手後手になり、ほとんどの生徒がこの惨死体を見て絶句し、あるいは叫び、あるいは暴れ出し、病院送りになるほどのショックを受けた者も少なくなかった。
この日欠席していた生徒以外はほぼこの凄惨な光景をまぶたに焼き付けられ、その後は授業にならなかった。皆、目を閉じるとその光景が浮かび上がってじっとしていられず、過呼吸を起こして倒れる者や、発狂したかのように大声を上げて失神する者などが後を絶たなかった。
目撃者に壮絶なトラウマを植え付けることになったこの事件は、警察を呼んでからもあまりの事態になかなかコトが進まなかった。
そもそも警察の人間すらあまりの凄惨さに動くことができず、言葉を失うほどだったのだから。
そして同時刻、ある人里離れた山奥で、爆発音があったと通報があった。
伝えられた山道の脇には、うち捨てられたタイヤのない車が一台有り、ドアが吹き飛んで窓ガラスが全てはじけ飛んでいた。
その中には、まったく原形をとどめていない肉片と骨片だけが、血まみれになって散らばっていた。
そして汚れた車のボンネットには、ペンキでこう書いてあった。
『私は許さない 世界を呪い殺してやる』
と。
-続く-
---失意の先、希望の終わり 絶望の底、終わりの始まり
歴史に残る惨劇は、各メディアで放送されることはなかった。
だが、警察が保管していた写真がどこからか流出し、世界中に広がり、見た者を震撼させた。
誰がどういう理由でこれを行ったかというコトに関しては、証拠がなく、憶測が飛び交うだけであった。
ただ一つわかっていたこと、それは動機であろう。
それは、恨み以外のなにものでもなかった。
それから一年、この惨劇を直接目撃した者のほとんどが精神に問題を抱え、人によっては未だに入院している者までいた。
さらには、このトラウマによって自殺する者までいた。
それほどの衝撃だったこの事件も、直接目にしていない人達は一年経ってほとんど忘れていった。
その頃、あちこちで怪死事件が相次いだ。
犠牲者はほとんどが学生。しかも、どちらかと言えばガラが悪く評判も悪い、件の惨劇で殺された者達と同じ様なジャンルの者達ばかりだった。
死に方もどこかそれを彷彿とさせるようなもので、眼球を棒状の物で突き抜かれていたり、腹を引き裂かれて内臓をぶちまけていたり、性器を切り落とされてそれを己の口に突っ込まれていたり、生理的嫌悪感を最大限に引き出すのが目的とでもいうかのような惨い死に様ばかりだった。
しかも原因は不明。犯人と呼べるような存在すらなく、ほとんどが日常の中で突然苦しみだし、さんざん苦悶の悲鳴を上げた後このような無残な死体になるらしい。
そして再び以前の惨劇が人々の話題に並ぶようになった。
それと共に、惨殺事件と時を同じくして起こった怪死事件も、同時に話題に上った。
おそらく車の中で爆発物を抱いたまま爆死したと思われる自殺者の、呪いだと。
その車のボンネットに書いてあった呪いの言葉が、現実になったのだ、と。
朝だ。
…うん、寒い…
何なんだこの寒さは…
俺の息子さんの意識がなくなりそうなくらい寒い…
半開きの目で布団から顔を出してカレンダーを見た
12月22日、か
…《冬至》 最も夜が長い日。
「んなこたぁどーでもいーんだよ…」
ん? 声が高いな… んなこたぁどーでry
もう一度カレンダーを見直す。
12月22日
《冬至》
……《俺の誕生日》
「なんで俺が…」
女体化するなんて思ってなかった。
あと一年耐えられるだろうと思っていた。
「……ハァ」
とりあえず状況確認
時計の針は10を指していた
朝の冷え込みからして午後はありえないだろう。
両親は旅行中、妹は学校にいってるとして
おそらく家には俺一人…
「兄ちゃん?」
!!!!!!
まさか伏兵がいたとは…
いや、部屋の外にいるからまだセーフだ。
「マンガ読みたいから部屋入るね。」
あっけなくドアを開けられてしまった。
「えっ…」
妹の発言から何秒たっただろうか…
ウサイン・ボルトが1秒で10メートル走るとして
100メートルは走っただろう。
それくらい速いようで遅い時間がたった…
「…兄ちゃんなの?」
俺はゆっくり頷いた。
すまない妹よ…もう兄としてお前を守ることができない…
「もしかして…童貞なの?」
お前…はっきりと言いやがって…
そーだよ、童貞だよ。
ったく、愚か者が俺の顔を凝視してやがる。
これが童貞の末路だ、
何とでも言うがいい
「…かわいい」
「……は?」
何故だ、お前が出すべき言葉ではないはずだ…
「…とりあえず鏡みてきたら?」
妹にひっぱられ、俺はとうとう鏡の前に立った。
実は夢オチも考えられるのではないか?
《鏡》…通常、主な可視光線を反射する部分をもつ物体である (wiki参照
つまり俺が動くと鏡のなかの【何か】が動く…
鏡の中の妹を見た。
早くしろと言わんばかりの表情をしている。
焦ってはいけない。
夢なら鏡から【何か】がでて襲ってくるはずだ…
「もー…じれったいなぁー…」
突然妹が俺の首筋を触った。
「ふあぁっ!!」
こ、これは俺が出した声なのか?
鏡の中の【何か】も同じ行動をとった…
信じたくなかった…
しかし頭の固いwikiにもかかれていたように、
鏡は変わり果てた俺の姿を映していた…
最終更新:2011年01月05日 20:57