安価『海に行く当日に女体化』

 俺はクラスの友達と海に来ていた。とは言っても昨日から泊まりこみで、今日帰るという感じだ。
 滅茶苦茶なのだが、何故か姉貴が付いて来た。なにやら、夏休みは予定が詰まっていて、この日位しか遠出できる機会が無いのだとか。
 そして俺は、本来なら楽しいはずの海水浴も、ものすごくつまらなく感じられた。
 はしゃぐ女友達+姉貴を、即席ビーチパラソルの下から眺める。
「はぁ……」
 そんな彼女らを尻目に、俺はため息を吐いていた。
「なんだよ、随分つまらなさそうだな」
 軽薄な親友が俺にそんな事を言ってきた。
「そりゃそうだ。俺は泳げないからな」
 この場合の泳げない、というのは別に水泳が苦手という意味ではない。
 もっと別の要因がある。
「あー。でも、ほら、運がいいことにお前のお姉さん来てるんだから……」
「無理」
 なにを言いたいのかはだいたい理解した。貸してもらえ、と言うのだろう。
「なんでだよ、現に今着てる洋服だって……」
「無理なんだって。俺と姉貴じゃ……決定的に違う場所がある」
「なんだよ、その、違う場所って」
 真剣なまなざしで訊いてくるから、姉貴の、主に胸部を指さす。同様にして女友達のものも見させたうえで、
「ほら」
 俺の胸部を指さす。そこには"女になった"ということを微塵も感じさせないほどにまっ平らな、ひどく言えば平地が連なっており。
 男だったときは存在していたリヴァイアサンが消えた事により、その平地は更地になってしまったとも言えるだろう。
 こいつも、指の流れにそって、俺の胸部を見た後で申し訳なさそうな顔をする。
「あんなデカい水着……付けられん」
「は、はは……」
 頬が引きつってる。
「俺のことはいいから。ほら、呼んでるぞ。行って来いよ」
「そうか? ……じゃあ、行ってくるわ」
 そう言い残し、影から出て行く。
 楽しそうなこいつらを見ていると、とても、羨ましい。

――――――――
――――

 少しぼーっと空を眺めていたら、なにやら声が聞こえてきた。
「おーい、気付いてるかー?」
「なんだよ、姉貴。気付いてるよ」
 姉貴だけが、こっちに戻ってきて、それでいてなにやらニヤニヤしている。
「いやー、一個だけ、余ってる水着が有るんだけど……、今思い出してさ」
「余ってたって、俺は着れないだろ?」
 ため息混じりにそう言うと、姉貴はチッチッチ、とつぶやき指を横にふる。
「じゃーん! 今日私が持ってきた、余っている水着とは、これでーす」
 姉貴の宣言のもと、高らかに掲げられたその水着は、あからさまに黒く、ビキニタイプの水着とは真逆の、手足顔以外、つまり胸部から腹部まで全てを包み込む、あれ。
 胸元には俺の苗字が書かれた白い――
「はぁ!? なんでスク水なんて持って来てるの!?」
 そう。姉貴のかばんから姿を表したのは紛れもなくスク水であった。
「いやー、だってほら。あんたの友達が……」
 ちらっと、海のほうを、否。俺の女友達を見て。
「あんなに大きいとは……」
「姉貴は俺の友達にいったいなにを求めていたのさ!?」
 まさか、姉貴そっちの気が有るのでは……、と一瞬疑ったが事実だろう。諦める。
「でも、ほら! ここに、恐らくスク水を着させても違和感がないだろう逸材が生まれたから!」
「今度はおと……妹にまで!?」
 とんでもないヘンタイだ。どうして今まで気がつかなかったんだろう。
「違うわ。紳士よ」
「勝手に思考に侵入するな!」
「ほら。海の家、着替えるスペースあるから。ね?」
 言うなり、姉貴に腕を掴まれる。
「ちょ……姉貴! 着ないからな! 俺は、絶対――」
 どうにかして逃げないと。何か、いい策は……。
 ――そうだ!
「荷物番! 荷物番はどうするんだよ!」
 ここに居るのは俺と姉貴。姉貴が離れれば俺は着替えない。俺だけ離れれば、やはり俺は着替えない。
 なんとも素晴らしい案――
「ちょっとここお願いねー」
「了解ですお姉さん!」
 なんでお前ここにいるの? そしてなんで引き受けてるの?
「いや、お前でも着れる水着が見つかったって言われたから」
「う、うらぎりものっー! あぁ……ああああ!」
 俺の言葉に首を傾げるこいつを残し、断末魔と共に海の家へと引きずられて行った。

――――――――
――――

 恥ずかしい。今の状況を、感情を端的に表現するならこの一言に限るだろう。
 なにが起こっているのか、と訊かれれば羞恥プレイですと答えるのが普通かとも思われる。
 俺はスク水を着せられ、友人の目の前に佇んでいた。
「うひゃー、かわいぃー……」
 この発言は姉貴の物ではない。正確には姉からも聴いたものだ。
「ぁ……あまり、ジロジロ……見ないで……」
 タオルでかくして居れば大丈夫と甘い考えを持っていたのだが、そんな幻想は姉により打ち砕かれてしまった。曰く『せっかくのスク水なんだから、タオルで隠したらダメでしょ! タオルは水からあがったときに縮こまりながら包まる為にあるんだから!』だそうだ。
「うは。ご、ごめん。海に戻ってくる!」
 俺に可愛いと言ってきた女友達はなにやら顔を抑え、そして背けると駆け足で海へと戻っていった。
 背けるといえば、もう一人。我が親友が顔を背けるどころか、文字通り背を向けている。
 近づこうと思ったが、流石にこの格好では恥ずかしい。姉貴の手からバスタオルをひったくると体に巻き付ける。
 うん。これで恥ずかしくなくなったぞ。
「お前……さっきからこっち向いてないな。どうしたんだ?」
 返事がない。
「おーい」
 言いつつ、回りこんでみようと、歩いて行くと、
「ばっ、おま……こ、こっち来るな!」
「はぁ?」
 またしても俺に背を向ける形になる。なにがしたいんだろう。目線を姉貴にそらすと、引きつったような笑みを浮かべている。なにがあったんだ?
「どうしたんだよ。おい」
「お、俺も海に戻ってくる!」
 もう一度、今度は強い調子で訊いてみたら、逃げられてしまった。
「なんなんだ? 一体……。なあ、姉貴なんかわかる?」
「あぁー……。自分の身に置き換えてみたらどうかなー……?」
 この姉貴、ちんぷんかんぷんである。

――――――――
――――

 結局俺はプールに入らずに、その日を終え帰宅することになった。
 そして、帰りの電車の中での出来事である。
「なあ」
 海水浴中の出来事が気になった俺は、ふと質問をした。
「あん?」
 いつもとかわらぬ返事が帰ってくる。良かった。調子は戻ったのか。
 俺は本題を切り出す。
「どうしてあの時逃げたんだ?」
「――ブッ!」
 言った瞬間、コイツは盛大に吹き出しやがった。失礼だな。というか、電車の中なんだからもっと自重しんしゃい、と心のなかでツッコむ。
「い、いい今はもういいだろ!? そんな事より、ほら。今日楽しかったな」
「俺は泳げなかったけどな。……す、スク水で泳ぐわけには行かないし……」
 思い返すだけで恥ずかしい。もうあんな体験はしたくないね。
「今度はきちんと水着買って、プールにでも行こうな」
「そうだな。そのときゃおごれよ?」
 しれっと言ってやる。
「なんでだよ!?」
「なんで逃げたのか教えてくれたらおごらなくていい」
 俺は交渉に持ち込もうと必死だった。なんか、もやもやして仕方が無いのだ。だから、どうしても確かめたい。
「――おごるわ」
「なッ……」
 コイツ……意地でも言わない気だな? じゃあ、最終兵器を出すしかあるまい。
「あの時姉貴が見てたってよ?」
 俺はあの後、姉貴に『私が見ていたって言えば、口を割るかもねー?』と言われたのだ。ハッキリ言ってなんのことやらさっぱりだったが、もしかしたらという希望を込めて言ってみた。
「――んなッ! ぇ!?」
 顔が真っ赤になった。どういう事なの?
「冗談だけど」
「冗談でもそういう事は言うべきじゃないだろ!? 心臓に悪いわ……」
 なにが心臓に悪いんだよ。教えろよ。
「口が裂けても言わねーからな」
「ふぅん……」
 決心は堅そうだった。ならば。ボディーブローことスキンシップの出番である。
 俺はコイツの肩に顎を乗せ、腕を抱え込む。電車の中とはいえ、俺の体は小さいのだ。方向転換や無茶な動きもお茶の子さいさい。
「――なッ、な……」
「言わなきゃ離さないぞ」
 コイツが葛藤しているのが手に取るように伝わってくる。
 あぁ……なんだろ。眠くなってきた。電車って、眠くなるよね? 前読んだ本に書いてあったけど、レールが等間隔に途切れてるから、ソレによる揺れも等間隔で、眠気を誘うらしい。
 だめかも、……知れない。

 次に目がさめた時、見えたのは自分の部屋の天井で。側にいたのは姉貴でしたとさ。

――――――――
――――

親友視点の物語。

 海の家から出てきたコイツは、見事なまでのスク水で。
「うひゃー、かわいぃー……」
 一言で言えばものすごく似合っていた。横にいる友だちなんて、鼻血たらしてやがる。
 どうやらコイツは気づいていないらしいがな。
「ぁ……あまり、ジロジロ……見ないで……」
 鼻血隠すのに必死で、「うは。ご、ごめん。海に戻ってくる!」なんて言って海の方向へとダッシュして言った。他の人に迷惑かけなければいいけど。海が赤に染まる的な意味で。
 しかし、可愛いの一言で頬を朱に染め体を手で隠し恥じらう姿は、元男だと知っていても……その、来るものがある。
 気がつくと、俺のモノが膨張を初めている感覚が海パン越しに伝わってくる。
 や、やばいぞこれ……。もし、勃起しているなんてバレた日には社会的に抹殺されかねん。
 そう思い、とっさに背を向ける。これでバレないだろう。目の前の海水浴客にはバレてるかもしれないが、知り合いにバレるのと見ず知らずの人にバレるの……どっちが恥ずかしいかなんて、わかるだろ?
 ところがコイツはそんな俺を案じたのか、
「お前……さっきからこっち向いてないな。どうしたんだ?」
 なんて言ってきやがった。
「おーい」
 言いつつ、足音が近づいてくる。――ま、まさかッ!
「ばっ、おま……こ、こっち来るな!」
「はぁ?」
 なにその冷たい声。男として通常の反応をしたまでですよ俺は。と毒づく。いやいや、俺が悪いんだ。勝手に勃起しちまうんだからな……。
「どうしたんだよ。おい」
 位置を変えつつ、俺に追撃を食らわせてきやがる。やめろ! こっちに向くな!
 ここであることに気がついた。見られてる。コイツの姉にバリバリ見られてる。
 流石にヤバい。これはヤバい。苦笑してるもん。笑顔じゃないもん!
「お、俺も海に戻ってくる!」
 そしてダッシュで海に向かい、海の中で「沈まれ……沈まれ!」とつぶやいていたのだった。

 ……帰りの電車だが、コイツになぜそっぽを向いたのかとしつこいくらいに訊かれた。
 言えるわけねぇだろうが。
 “お前のスク水姿で勃起したから隠してました”……なんてよぉ。

安価『海に行く日に女体化』完。


966 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2011/03/10(木) 17:11:08.50 ID:3n9ouvMN0
そうだよな、そこは海に向かってダッシュだよな、――若いってイイネ☆

1つだけ不満を挙げるとすると
親友よ、思わず青春が青春して青春しそうになったのは分かるが
帰りの電車で無防備に身を預けてきた彼女に何をしたいと思っちゃったのか…
黙ってるのはよくないと思います!

967 名前: ◆440BCpUd8Bib[sage] 投稿日:2011/03/10(木) 23:09:52.24 ID:SJ1tbWUI0
>>966
書けと言っているのですね、わかります
というわけで書きました

――――――――
――――

 電車の中、乗り始めて直ぐのことだった。
「なあ」
「あん?」
 コイツは、なにを思ったのか、俺に質問をしてきた。
「どうしてあの時逃げたんだ?」
「――ブッ!」
 どうして、今そんな事を訊く!?
「い、いい今はもういいだろ!? そんな事より、ほら。今日楽しかったな」
 俺は必死に話をそらす。
「俺は泳げなかったけどな。……す、スク水で泳ぐわけには行かないし……」
 どうやら、話題変更は成功したようだった。思わず胸をなで下ろす。
「今度はきちんと水着買って、プールにでも行こうな」
 機嫌を取らなければ、いつ会話が戻るのかわかったもんじゃないからな。
「そうだな。そのときゃおごれよ?」
「なんでだよ!?」
 なんで俺が奢らなきゃならない!?
「なんで逃げたのか教えてくれたらおごらなくていい」
 コイツ、話題を忘れていないって訳か。
 でもな、教えるわけには行かないんだよ。
 教えたらお前、引くだろ。だから、
「――おごるわ」
「なッ……」
 驚き、目を見開いているが、しょうがないだろ。教えたらこれの比じゃないくらい驚くだろうし。
「あの時姉貴が見てたってよ?」
「――んなッ! ぇ!?」
 な、ま、まさか、喋ったりしてないよな、お姉さん!?
 コイツに知られていたとしたら、一大事な訳で。
「冗談だけど」
「冗談でもそういう事は言うべきじゃないだろ!? 心臓に悪いわ……」
 良かった。冗談か。つか俺、動揺しすぎだな。……あれ、ハメられた?
「口が裂けても言わねーからな」
「ふぅん……」
 俺がそう言うと、訝しげな目で見つめてくる。
 だ、ダメだ……これはヤバイ。
 そう思っていた時だった。腕に、柔らかい感触が伝わる。
 なんだろうなー、この感触。あ、勿論わかってはいるけれども。現実逃避である。必死に、腕に伝わる感触を忘れようとする。ヤバイし。また勃起しちまうかもしれない。そんなところを見られたら、恐らく二度と顔を合わせられなくなりそうなきがした。
 しかし、そんな努力も虚しく、
「――なッ、な……」
 力を強めてきやがった。決して大きくない胸が腕を圧迫する。心臓の鼓動が腕に伝わり、どうにかしてしまいそうだった。
「言わなきゃ離さないぞ」
 どうしろってんだ……。言わぬは地獄、言うも地獄って。
 この状況をどう脱するかを考えていたんだが……。
 チャンスは思わぬ方向からやって来た。
「……スー……、スゥー……」
 可愛らしい寝息が、隣から聞こえ出したのだ。
 このチャンスを逃すものかと、腕を引き抜こうとする。
 ――が、思いのほかがっしりと掴まれているのと、その、……なんだ? 腕を動かすと、胸の柔らかい感覚が直に腕に伝わってくる、と言えば理解してもらえるだろうか。
 つまり、動かすのも恥ずかしいのだ。
「……どうしちまったのかな、俺……」
 元男なんだから、今まで通りの態度で接すればいいのに、女になったコイツの、女を証明する部分にドキドキしっぱなしだ。
 横を見る。寝顔が、ものすごく近くにあった。女体化患者の例にもれず、コイツもかなり可愛くなってるんだよな。
 ……って、一体なにを考えてるんだ!? 俺は……。
 女になった親友を、その日のうちに、既に女として見てた、とか……どうかしてる。
 本当に、どうかしてる。
「……んぅ……」
 心臓が高鳴っている。頬も熱い。いい加減どうにかなってしまいそうだった。
 不意に聞こえてくる寝息も相まって、心臓がはちきれそうなまま、電車は進んでいった。


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最終更新:2011年04月23日 11:34
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