目の前には、一人の少女がいた。
手を伸ばすと、その少女もこちらに向かって手を伸ばす。
でも、決して触れる事は出来ない。
頬を微かに上気させ、潤んだ瞳でこちらを見つめる。
つ、と伸ばした指先が硬い物に触れる。
鏡。
彼女は、薄っぺらな鏡の中にしか存在を許されなかった。
硬い感触しか返さないソレを越しに、彼女の唇に触れる。
それに答えるかのように、彼女はゆっくりとその唇を開き、
「俺やべえ……」
と、呟いた。
ぶっちゃけて言ってしまえば、俺は女が好きだ。
女の胸が好きだ。尻が好きだ。うなじが好きだ。太ももも素晴らしい。
だがとても残念な事に、俺の周りには女っ気が全く無かった。
そんな13歳を迎えたある夏の日。
暑さで腐りかけた俺の頭は、まるで電球が点灯するかのように唐突に閃いた。
――そうだ、女がいないのなら女になればいいじゃない。
俺は天才だった。
そう。自分が女になれば、何をしても良い。
男が夢みるアレやコレ。何だってやり放題。
やはり俺は、天才だった。あくまでも脳内で。
数年前から、日本ではある奇病が蔓延している。
大よそではあるが、15歳前後になると、性別が反転してしまう。という病気だ。
未だ完全な解明に至ってはいないものの、あるウィルスが原因らしい。
爆発的な感染力を持ち、宿主が一定まで成長すると100%の確率で発症する。
また、そのウィルスは男性にしか感染しないという。
そして、宿主を女へと改造すると、女の身体には寄生できないため、死滅。
だが、この謎のウィルスの発症は、女性との性交によって回避できる。
ついでに言ってしまえば、この病気の治療センターなんていう物もあったりはするが、俺が行くわけがない。
俺にはパラダイスが待っているのだから。
なんて、ついさっきまでは思っていた。
「はぁ……」
軽くため息をついて、再び鏡に目を向ける。
なんとも微妙な表情をした少女がうつっている。
これは紛れも無く俺だ。
そして、自分で言うのも何だが、少女の前に美の一文字がつくのは間違いない。
昔の偉い人、かどうかは知らないが、先人はこう言った。
『美人は三日で飽きる』
これは真っ赤な大うそだ。なぜならば、俺は30時間で飽きた。
触って触って、弄って弄りまくって、30時間で飽きてしまったわけだ。
何て事はなかった。
ああいや、飽きない部分はある。
女の身体はとてもイイ。何がイイのかはあえて触れないが、とてもイイ。
が、それ以外は概ね飽きたといっても言い。
どうでも良い物が、ものすごく面白そうな物に見えて、親にねだって買って貰った時の事を思い出す。
買ってもらうまでは、すごくドキドキした。
買ってもらったら、なんだか凄くつまらない物に見えた。
よく覚えている。買ってもらって満足してしまった時のこと。
つまりこれは、あの時と同じ事。
手に入らないと思っていたからこそ、成りたかっただけで、本心で成りたかったわけじゃあないんだ。
13歳のあの暑い夏の日。
やはり俺の頭は腐っていて、俺は心底馬鹿だった。
(とは言うものの……)
なってしまったものはしょうがない。
ならば、女を楽しめば良い。
よくよく考えると、男とヤるのは絶対に回避しなきゃいけない。
となれば、レズでいけば問題無し。
「ああ、なるほど」
ぽん。と手を打ち、自分の天才的閃きに感謝する。
レズと言えば百合。百合といえば女の園。
つまり、
「そうだ、女学院に行こう」
やはり、俺は天才だ。
最終更新:2011年04月11日 17:44