ボクと契約して魔法少女になってよ、とは、現在ネット上で有名になっているアニメのキャラクターの台詞だ。
俺は最近アニメを見ないことが多くなったために、有名なセリフぐらいしか知らないのだが、当然少女と言うぐらいだから女の子を対象としているのだろう。
何でも、その台詞主は相当すごいらしく、敵は『魔女』らしいのだが、魔法少女とは将来魔女になる少女のことらしい。
と、まあここまで書くと、さすがに魔法少女にはなりたくねぇ、と思うわけだが。
当然ながら俺は男だ。女ではない。なら、魔法少女になることなんぞ無く、そんな心配もまったくもって必要ない。
さらに言うと、これはアニメだ。アニメの話なんぞ、所詮妄想、空想。
――だから、目の前にその台詞を発したキャラクターが座っていたとしても……、それは空想なのだろう。
それで。目の前の白い、犬だか猫だかわからない生命体……自称『キュゥべえ』は、俺に頓珍漢な事を言ってきたのだが。
「だから、なんかいも言っているじゃないか。なにを訳のわからないような顔をしているんだい?」
「いや……だから……魔法少女って……言われても……俺は男なんだけど」
「それなら大丈夫。きみはもう少ししたら女の子になるんだから」
『女の子になる』……?
一体全体、このヘンテコ生物は何を言い出すのか。
「最近ボクと契約してくれた子がね、言ったんだ。思春期を終わりそうになってもまだ漢に成り切れないような半端な男は、いっそ乙女になってしまうべきだって」
「それが……一体全体どうして俺が女になるのと
リンクするんだよ」
「ボクは君たちと契約する代わりに、君たちの願いを一つ、何でも叶えてあげられるんだよ」
「そ……それって……」
「そう。ボクと契約した子が願ったのさ。思春期の誕生日に、童貞のままで居る男子は美少女になるようにって」
そ、そんな……、つまり、俺は、誕生日を迎えるまでに童貞を捨てないと、女の子になってしまって、それでいて魔法少女なんて得体のしれないものにさせられてしまうのか。
そんなのは、絶対に嫌だ。
「俺は絶対に男のままでいるぞ……、魔法少女になんてならないっ」
そう言って俺はその場を駆け抜けたのだが。
ある事実を思い出した。
考えてみると、ぞっとするような事実だった。
そう。キュゥべぇの登場によって、混乱していたためすっかり忘れていたが……
俺の誕生日は、今日、だ。
つまり、女体化までのタイムリミットは既に切っていて。
激しい頭痛と体の重さに耐えかねた俺はその場に伏し、
激痛は弱まること無く、俺を締め付ける。
腕が、脚が。悲鳴を上げ、ギチギチという音が聞こえてきそうなほどに、熱を持っているかのように。
脳が、頭蓋が熱い。お寺の鐘のように、ごうん、ごうん、と唸る。
目がチカチカして、辺りは絵の具のパレットで色を混ぜたかのような風景になり。ギラギラして、吐き気をもよおす。しかし、嗚咽と当時に出るのは激痛。
苦痛が苦痛を呼び、痛みは痛みへと連鎖し。
俺はそばにいるはずのその存在に助けを求めた。
「……助け……て、痛……い……」
「助けてあげようかい?」
キュゥべぇのその言葉は、まるで神の手が差し伸べられたかのような、そんな感じにさせて、痛みから逃れられる。そう思った俺は、
「いい……の、か?」
「ああ。いいとも」
「きみが魔法少女になるのなら」
俺は、どこで道を踏み間違えたのだろう。
こんなの絶対、おかしいよ……。
最終更新:2011年06月04日 00:36