「う~んやっぱり僕と同士だっただけあって君は変態だねぇ」
笑い話のような軽い調子で伝えた(とても女の子に向けて伝えてはいけない)俺の願望を聞いて、ベットに腰掛けながら少女(こう呼んでいいものなのか判断しかねるが)は言った。
彼女は色素の薄い金色の髪をゆらゆら燻らせ、目を細めてこちらを見据えている。
浮かべた微笑み(恐らくは苦笑であろうが)が俺への侮蔑を現しているようで、なんだかとても情けない気持ちになってしまう。
彼女は何も言わず、俺は何も言えないまま、無言の時が流れた。
正座したままの俺の足が痛みを持ち始めた頃、彼女が口を開く。
「あはは、何この空気。少し前までは似たような話しててもお互い何でもなかったのにねえ」
笑いながらそういう彼女は、口にする言葉は軽く笑い飛ばすようではあるが、頬にはかすかに赤みがさしている。
その上、俺からも目をそらしてしまったのだから、彼女も変わってしまった性別に戸惑っているのだろう。
いやただ単に、俺の発言が依然から話題に上っていたことはあったにせよ、あまりに衝撃的だったからなのかもしれないが。
そして、前から上っていた話題とは……。
「まあ、実際に女になっちまってから言われると結構戸惑っちゃったけど……。
今度は今みたいな空気にしないから、もっかい言ってみてよ。お前の頼み事」
――どっちかが女になってしまったら、男の方の性癖に全力で応えてやろう。という内容。
しかし、今の彼女の対応を見るに、このまま行けば笑い話で終わるだろう。
現に彼女は薄い笑みを浮かべたままであるが、その笑みは苦笑というよりも、笑ってやるための準備、というふうにうつる。
当然、以前の――男同士であった頃の関係に近いままでいるのであれば、笑われてしまった方がいいに決まっていた。
そして恐らくは、彼女は以前の関係のままの方がいいと考えている。
だが俺は、元の関係のままでいたいとは思えなかった。
――もしかしたら、一目惚れだったのかもしれない。友達であった元男に一目惚れするなど、まともではないと自分でも思う。それでも……。
「……本気なんだ。俺は、お前と、そういう事をしたい」
本心からそう言って、彼女と目を合わせる。
「ふぅん……」
俺が思っていたほど意外そうな素振りも見せず彼女はこちらを見据えるようにする。
彼女の金色の髪は相変わらず風に揺らめいていて、どこか茫洋とした印象を与えている。
そのためか、彼女の心のうちが那辺にあるのか、欠片もつかむことができなかった。
しかし気が付けば彼女はまた微笑みの色を変え、こちらを見つめている。
先程までよりもずっと強い印象を与えるその微笑みのまま、確かに嗜虐的な表情であるその微笑みのまま、口調にも侮蔑を露にこう呟いた。
「それなら、本当に本気だって言うのならさ。
さっきみたいに笑かすみたいに言うんじゃなくて。
冗談みたいに伝えるんじゃなくて。
……本気の言葉で伝えてみてよ」
――お前の、その恥ずかしい性癖をさ。
その口調のあまりの凄惨さに、思わず背筋が震えた。
「さぁ、早く、教えなさい」
なおも言いつのる彼女に対し俺はやっとの思いで口を開いた。
最終更新:2011年07月04日 03:30