ドア越しに聞こえるケータイのアラーム音(着う○フル)。こちらも強めにノックを続ける。実に喧しいアンサンブル。
でも、中から返事は無いし人が動いてる気配も無い。ハァ…
部屋の中に入るとこの部屋の主は寝乱れた様子も無く穏やかな寝息をたてている。
枕元ではケータイが奏でる『また君に番号を○けなかった 』が結構な音量で鳴り響いてるんだけど。
きれいな顔してるだろ、ウソみたいだろ、寝てるんだぜ?この状況で…
致し方ない、ここは一つ渾身の永久絶対究極氷結風斬(EFB)でも…
「……氷獄の怒り、凍界の慟哭、氷結の常闇よ戒めを解き放ち白刃を成…」
「死魔殺炎烈光 (DDB)」
「なっ…詠唱破棄…だと…?って起きてんじゃねーかッ!」
「朝から何を中二しているんだ阿呆、王子様を目覚めさせたいならキスのひとつでもしてはどうだ阿呆?」
「王子様を自称してんじゃねーよ、この変態が」
実際、『王子様』は自称のみならず他称でもあるんだけど、ソレをオレが認めると更に調子に乗るのは明らかなので認めてやるもんか。
ラファエロの天使画を想起させる色素の薄い髪を掻き上げながら、
その無駄に美麗な顔に皮肉と自信をメガ盛りにした笑みを湛えるコイツは與謝野 陽示。オレの従兄弟様だ。
ちなみに同い年で、同じ高校で、同じクラスなんだよ。勘弁してくれ。
コイツの両親――伯父さん夫婦は5年前に交通事故で他界していて、それ以来コイツはウチで暮らしている。
元々、伯父さん家は目と鼻の先でコイツとも兄弟同然の関係だったから一緒に住むコトになった当初は何の問題も無いと思っていた。
つまり、今は問題がある。先月16歳の誕生日にオレは女になった――所謂TS症候群。
お蔭様で年頃の男女がドキドキ一つ屋根の下状態だ。まったくもって冗談じゃない。どんなエロゲだよ。
「遠慮はしなくてもいいぞ?美月ならオハチューをする事くらい許そう」
「やかましいドッ変態!」
「甲斐甲斐しく僕の身の回りの世話を焼く美月だからこそなのだが…この期に及んでツンデレか?まぁ、それもにょたの風情か」
「おーおー、寝起きから随分な正常運転だな?フツーに家事してんのがテメーに奉仕してる事になんのか?」
「誤解は無いと思うが?事実こうして制服の上にエプロンを着けて毎朝起こしに来るのも僕への愛故なのだろう?」
「スゴイ勢いの恣意的解釈だな?さては馬鹿だな?無駄口たたいてないでとっとと着替えて顔洗って歯ぁ磨いて家畜の如く飯を食え」
「僕の場合おそらくは犬食いをしても天上界の美を表現出来ると思うが礼儀作法を重んじる人間として遠慮しておこう」
「とてもそうは見えん!大体、黙って身支度も出来んのかこの馬鹿は」
「ならばお前も黙っていつもの様にはにかみつつ着替えさせてくれれば良いだろう?」
「いつオレがお前を着替えさせたよ!!妄言も大概にしとけよッ!?」
言っておくけどコイツの態度はオレが女体化したからこうなったのではない。元々こうだ。生粋のドッ変態だ。
それから、お解かり頂けると思うがオレは多忙で留守がちな両親に代わってこの家の家事を担っているだけだ。
決してこのスカポンタンの為にしてるワケではない!絶対にだ!
「とりあえずオレは洗濯物干すから、その間に用意済ませとけよ?あ、飯食った後の皿はちゃんとシンクに溜めてる水に浸けとけよ」
「自分の洗い物ぐらいは自分でするが」
「晩にまとめてするから良いっていつも言ってんだろ?その為に朝飯も皿一枚に収めてんだろーが。水使うのもタダじゃねーんだから」
「ふむ、流石は美月だ。見事な主婦ぶり」
「あとなッ!脱いだモンはちゃんと表にしとけと何度も言ってんだろーがボケが!」
「…否、最早オカンか」
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蝉の音が響き、こころなしか空の色がその青みを深め、強い陽の光がジリジリとアスファルトを焦がす通学路。
あづい…何で女物の下着って汗を吸わない素材が多いんだ?まだ慣れないブラが早くも鬱陶しい。それ以上に横を歩くコイツが鬱陶しい。
その顔には家での態度とは打って変わってアルカイック・スマイルがへばり付いている。偽装乙。
路行く同じ学校の女生徒らに挨拶をされれば丁寧に挨拶を返し、その度にきゃいきゃいと騒がれる。スゴイデスネー…
コイツの被っている猫は非常に従順で、家の中、というよりオレの前以外ではご主人様から一切離れない。
クラスメイトの前でソレを暴露した事もあったがコイツは「猫は被るものではなく愛でるものだよ美月?まあ僕は君を愛でたいのだけど」と
頓珍漢なコトをぬかし、クラスメイトからは「惚気話ですね?御馳走様です」「……リア充死すべし」等と逆に非難された。ちくしょー。
「はよー」
「おはようございます」
「おーす箕縞、今日も麗しの王子様と同伴登校か。羨ましいことで」
「なんだったら替わるか立迫?替わってくれるか?それがいいそうしよう」
「だが断る。王子様だって当然私より箕縞が良いだろうし、な?」
「ええ、立迫さんには申し訳ないですが僕は美月の方が…」
「コラコラコラコラ、オカシイだろ?自らすすんで誤解を深める様な言い方はやめろよッ!」
「誤解じゃないだろ?同棲してるクセに何を今更」
「同棲違う!同居だと何回も言って(ry」
「僕は同棲だと思われても一向に構わないけど?寧ろその方が「黙れ馬鹿!」」
「おはよーッ!って、このクソ暑いのに朝から王子様とにょた姫の夫婦漫才とか見たくないんだけどッ!?」
「ちょッ…由茅それは違っ」
「……リア充絶滅しろ」
「おはようございます、由茅さん、赤我部さん」
「箕縞、アンタ自重しなさいよ?節電だか自粛だか知らないけど冷房も効いてない教室でいちゃこらされたんじゃ堪んないのよッ!」
「だからいちゃこら違う!それに言わせてもらうがテメーも赤我部から離れてやれよ?レズも大概暑苦しいぞ」
「だッだッ、誰がレズよバカッ!?アタシは旭を変態どもから守ってるだけよッ!!」
「いや、レズだろ常識的に考えて。まぁ、ツンデレは優子の生態だもんな?」
「うっさいわよッ!?竜紀なんか妹とレズってるじゃない!にょたにきガチレズ近親相姦とかどんだけ盛ってんのよッ!?」
「うぉいっ?!それってば禁則事項だよ優子さん?!」
「……レズ自重」
「てゆうかねー、どいつもこいつも律儀に純潔守って女体化してんじゃないわよ!アタシこん中で紅一点だったハズなんだけどッ?」
「いや、それは面目ない…でもまぁ確かに今や與謝野が黒一点だもんな?見た目『黒』っていうか『金』だけど」
「まさか王子様まで女体化するってオチはないでしょうね?にょた王子とかちょっと見てみたい気もするけど」
「それは心配には及びませんよ、僕は非童貞ですので」
「「「へ?」」」
「……よろしい、続けたまえ」
ガッ!とオレに向かって一斉に注がれる視線。その意味なんぞ解りたくもない…もうやだこの馬鹿。
癪だがここはその馬鹿に倣いアルカイック・スマイルで誤魔化しを試みるが今のオレの顔色はRGBのRだろうなこんちくしょう。
「何何何?やっぱアンタら出来上がってんじゃないッ!?直ちに爆発しなさいよバカッ!!」
「そうですか、毎日らめぇ…ですか把握。つか箕縞、お前マジでエロゲ乙じゃねーか?安直過ぎるだろ」
「……リア充裏山」
違うんです!違うんですよッ!?ついカッとなってヤったんです。いや、カァ…///だったかもしれませんけど…
ちょっと考えてもみてほしい、思春期=発情期真っ只中の男女が両親不在がデフォの家で一緒に暮らしてて何もないとか無理がある。
しかもこの馬鹿は家ではあのノリで…最初は勿論イヤでしたよ?そんな、ウホッ!じゃあるまいし冗談じゃないって…
でもですね?あからさまな好意を向けられて満更でもなかったらその気になっちゃうのが女心ってゆーか…
そんなもんいつ発生したんだと思いもしましたけどね?しょうがないじゃないか女になっちゃたんだから!!
身体の変化は突然なクセに心の変化は自覚出来ない程に緩やかで、気が付いた時には自分が思う以上に女になってるから余計に戸惑うんだよ?
それでなくてもこの馬鹿はスキンシップ過剰だから乙女回路が暴走するのも仕方ないと思うんだ。だからアレは仕方ねーんだって!!
その後もエッチってどの位気持ちいいもんかとか、処女の痛みは喩えるならどの位かとか、ちゃんとイけるもんなのかとか云々かんぬん
根掘り葉掘り訊かれ猥談は放課後にまで及んだ。その様子を満ち足りた笑顔で見つめる馬鹿は死ねばいいのに…本当に死なれちゃ困るけど。
「で、要するに今迄の態度はツンデレだったと?」
「いや、違うんですよ?聞いて下さい立迫のねーさん…」
「ナニが違うんだバカ!バカ!ま○こ!!」
「ひでぇッ?!サイテーだ!!」
「アンタがツンデレなのがいけないんでしょッ!?」
「うぁ、由茅にツンデレ扱いされるとか…鬱だ死のう」
「……そんな事はどうだっていい、初オルガスムスに達した際の感想をより詳細に…」
「赤我部、落ち着いて?な?……あ、あー!?そろそろかえってゆうはんのしたくしなくっちゃー」
オレは光速で鞄と糞馬鹿をひっ掴んでズッコケ3人娘の罵声を背に教室を飛び出した。
789 名前:でぃゆ(ry[sage saga] 投稿日:2011/07/16(土) 17:55:04.18 ID:KkqryuVV0 [4/4]
後半へつづく(キートン山田)
あまりに何も思い付かないので勢い任せの超見切り発車です。推敲?校正?なにそれ怖い…
多分エロ有りになります。まとめの★は勲章さ。さて蚊取り線香め、どうしてくれよう…
ちなみにズッコケ3人娘は
立迫 竜紀=にょたにき
赤我部 旭=無口
由茅 優子=ツンデレ
つい出しちゃったけどゴチャゴチャしてしまった。
>>784
それって漏れの単発ネタ何本分ですか?www
最終更新:2011年09月22日 11:31