無題 2011 > 08 > 02 ◆Zsc8I5zA3U

蝉時雨、夏を象徴する風物詩・・そして夏の恒例行事と言えば夏休み、学生時代には何気なく謳歌していたものではあるが結婚して主婦になってからはそんなものは無いに等しい。


“今年の夏は例年どおり遠出される方が多いですね、皆さんは計画を立ててますか?”

「・・そんなのあるわけないでしょ」

いつものようにテレビのニュースに無駄なコメントをつけながら、私は一人溜息をつく。いつもであれば気だるい日々を送るはずなのだが・・この時期と言えば全国の子ども達は例外なく夏休みと言うものを迎える。
私も女体化をする前はよくカブトムシを取りに行ったり、姉と一緒に真夏の空の下でアイスを食べながら一人せっせこと夏休みの宿題に追われていたのだが、あれから私も女体化を経て結婚していざ母親になってみると
当時とは違ってこの時期が来るたびに気苦労が耐えない。

「腹減った!! おやつはないの?」

「あのね・・さっきお昼食べたでしょ、わがまま言わない」

そう、本来なら我が息子の卓はこのお昼の時間帯では学校なのだが夏休みなので私にとってはおちおちと休まる暇もない。

「子どもは子どもらしく遊んだらどうなの? 学校のプールとか解放されているでしょ」

「飽きた。それに皆はどっかに行ってるし…」

まずい、ここからの流れは容易に予想できる。子どもの気持ちを考慮すれば叶えてあげたいのは山々なのだが我が家の家計は余り宜しくないのでここはなんとしても断固として阻止の準備を整える。

「俺もどっかに行きたい!! 連れてってくれよ!!!」

「白根家にそんな余裕はありません!」

「ええっ!! 頼むよ、美由紀ちゃん~」

「パパの真似をしてもダメなものはダメ。…それにあんたのパパがボーナスの一部を勝手に横領したから無理なの」

家計を預かる身とすればこれ以上の出費は避けたいのが本音だけども、卓の気持ちも理解は出来るので中々無碍にすることは避けたいところではあるのだが・・どうも家の旦那が私に黙って今年の夏のボーナスの一部を横領しており、おかげで家計の貯蓄が削られる形となってしまっている。旦那と結婚してからは母と姉直伝のやり方で家計を預かっている私だが、どうも付け入る隙を与えてしまったようで見事に旦那に一杯食わされてしまった。妻である私に無断で横領するとはいい根性の持ち主ではあるが、そのお陰で白根家の家計はとんでもないことになっているのを果たして理解しているのだろうか?

「今回は大人の事情でダメなのよ」

「ううっ~…」

だけどもこのままではちょっと母親としては心が痛むので少し打開策を考えて見る。

「ま、後でおじいちゃんに電話してあげるから」

「ほんと!! よっしゃー、これでどっかに行けるぜ!!」

「電話するだけだから、余り期待するのは…」

「楽しみだなー!! じいちゃん家に行けるのか!!」

ルンルン気分で立ち去る卓を見ながら私は再び盛大な溜息をつくのだった。



その夜、珍しく旦那が遅いので卓と2人で夕飯を済ませると私は即座に携帯を取り出して旦那に電話を掛ける。

「……出ないわね、今日は何もないはずなんだけど」

何度も何度も旦那を待ち続ける私なのだが、一向に電話に出てくる気配すらない。そんな時間が大分経って数時間後、家のインターフォンが鳴り響く…

「こんな時間に誰かしら?」

既に時間は夜中を当に廻っており、普段の私だったら眠っている時間なのだが今回ばかりは卓とのやり取りがあるので旦那とは絶対に話さなければならない。恐る恐る玄関のドアを開けると…そこにはぐでんぐでんに酔い潰れた旦那とそれを支える後輩の姿であった。

「うぃ~…美由紀ちゃん、ただいまー!!! 愛しの旦那様だー!!!」

「先輩、声が大きいですよ…」

その姿に暫し唖然としてしまった私であったが、何とか平静を取り戻して問いただす。

「一体どうしたの」

「あの奥さん、実はですね…」

「もぅ、今月のボーナスで飲み屋でハシゴしまくりよぉ~!!」

…どうやら、今回の横領したボーナスは旦那の飲み代に消えてしまったようだ。心なしか旦那の後輩の顔も引きつっており、私の中でも何かが切れ始めた。

「あ、あの奥さん…?」

「どうも、家の主人が大変お世話になりました。後はこちらでやっておきますので」

「そ、そうですか。じゃあこれで…」

「ありがとうございました」

主人の後輩を返すと私は完全に酔い潰れた旦那をソファに運ぶとそのままさっきの話を続ける。

「うぃ~!! やっぱり綾香ちゃんより美由紀ちゃんの方が一段と可愛いね」

「…誰、綾香ちゃんって」

「そりゃ、にょたっこクラブの…」

どうやら、私の想像以上に飲み歩いていたようだ。流石の私でもこればかりは容認できないし聞いているだけでだんだんむかっ腹が立ってくる。

「そりゃ、これだけ働きづめだから~ たまにはこれくらい…」

「あなたの言うことはよ~く解りました。今日はお休み、優治君」

「へ? 美由紀ちゃん??」

呆れかえった私は自分の部屋に戻るとそのまま軽い仕度を済ませ、そのまま眠りについた・・



青い空、白い雲・・旅行日和にはうってつけの晴天。電車に揺られながらはしゃぎまくっている卓と一緒に手始めに旦那の実家へと向かう、私の実家へ向かうのも良いのだが旦那の実家とも昔から見知っている。

「すっげぇ!! すっげぇ!!」

「はしゃぐのも結構だけどちょっとは大人しくしなさい」

「へーい」

あっけらかんな返事をしても子供は子供・・その持ち前の好奇心を簡単には抑えようとはせずに再び私の前ではしゃいでくれる、とりあえず旦那の実家と自分の実家には事前に連絡を取っているので後は普通に向かうだけだ。

「そういえば父ちゃんは?」

「・・知らないわ」

「な、なんかあったのか?」

「大人の事情」

さぁってあのアホは今なにをしているんでしょうね・・



目的の駅に到着し、改札を抜けてホームへと向かった私達親子を出迎えてくれたのは旦那のご両親達であった。

「爺ちゃん!!」

「おおっ! 卓、よくここまで来たなぁ~」

義父と卓が感動の再会を交わしている間に私は義母と挨拶を交わす。

「美由紀ちゃんも久しぶりだね」

「ご無沙汰しております。義父さんや義母さんもお元気そうで何よりです」

「この歳になってから俺達夫婦は元気だけが取り柄だからな!! さ、こんな所に突っ立ってないで車に乗ってくれ」

「あんた! 美由紀ちゃんや卓もいるんだから安全運転で行くんだよ!」

「あいよ!!」

私達はそのままご両親達に先導されながら駐車していた車へと乗り込んで旦那の実家へと向かう。道中では楽しげな雑談を交わしているとあっという間に旦那の実家へと到着する、旦那と付き合って初めてこの実家へと足を運んだのも今では懐かしい思い出の一つだ。あれからかなりの月日は経っているが何一つ変わっていないこの場所を見ていると感慨深い物を覚えてしまう。

「母さん、早く入ろうぜ!!」

「・・え、ええ。お邪魔しましょう」

どうやら思ったより自分の思い出に耽っていたらしい、卓に先導されながら私は久々に旦那の実家へとお邪魔する。卓はそのまま消えていき私はそのままリビングに腰掛けながら義母が淹れてくれた紅茶を飲みながらのんびりと寛ぐ。

「それよりも2人で押しかけてどうしたんだい?」

「ま、まぁ・・色々あったんで」

一応旦那のことは来る時に濁しながら曖昧な説明で終わらせていたのだが、ここまで来ると引き伸ばすのも結構難しい。

「お、義母さんもお元気そうでなりよりです。私も最近は家事と育児で忙しくて・・」

「卓の時期を考えたらそんなものよ。・・もしかしてうちの息子はサボってどっかで現抜かしてたりしてる?」

「うっ・・そ、それはないですよ。休みの日には卓の面倒は見てくれていますし・・」

「ま、もし美由紀ちゃんに苦労させるようなことしたら歳関係なく私達が躾けてあげるから心配しないで」

「アハハハ・・」

正直言って笑えない、やはり本当の理由は話すのは拙そうだ・・旦那の名誉やこれからのこと考えたら。



そのまま私は卓を旦那の実家に置いていくと今度は自分の実家へと向かって文字通りの帰省するのだが・・実家で私を出迎えてくれたのは姉だけで肝心の両親はどこにも姿がなかった。

「姉さん・・父さんと母さんは?」

「あの2人なら旅行してるわよ」

「へ? だ、だって一応行く前に母さんには言っておいたのに・・」

一応これでも旦那の両親と合わせて自分の両親にも来る前に連絡はして置いたのだが・・ちゃんと伝わってなかったのか?

「きっと母さんが忘れていたんじゃないの。昔からどこかそそっかしかったし・・まぁ、父さんも定年退職したんだし有り余った金で有意義な老後を過ごしてるんでしょ」

「ハァ・・そんでどうして姉さんがここにいるの?」

「旅行が終わるまでの留守番」

のんびりと麦茶を飲みながら姉はのんびりとごちる、うざったるしい蝉の鳴き声が響き渡る中で何を考えたのか私は冷蔵庫からビールを取り出すとそのままグイッと飲み干す。

「あんたがお酒飲むなんて珍しいわね。何かあったの?」

「たまに帰ったんだからお酒ぐらい飲ませてよ」

「別に自分の家なんだから好きにすれば」

「・・そうする」

そのままたっぷりの氷水を用意すると冷蔵庫にあったビールをまとめて入れると冷蔵庫にある余ったもので適当なおつまみを作るとそのままビールを開けて夏の気だるい暑さをアルコールで紛らわせる。

「ま、何かあったのかはしらないけど好きなだけ飲みなさい。後は私がやってあげるから」

「ありがとう・・」

「夫婦の喧嘩だけは持ち込まないでよ」

姉のよく解らない慰めが心に響きながら酒が進む・・



あれからどれだけ時間が経っただろうか? つまみが面白いように減っていき、酒の本数もかなり増えて徐々に身体も火照ってしまい自分でも何を言ってしまっているのか良く解らない。

「さっ、戻るわよ」

「・・どこへ行こうっての?」

姉に半ば強引に引き摺られて余り神経のない酔った身体を姉に支えてもらいながら、そのままひたすらと歩く・・暫く歩き続けていると見慣れた家がぼやけた意識に朧に写る。

「どこ・・ここ?」

「あんたがちょっと前にいた場所。ま、今晩はここで寝かせてもらいなさい・・」

そのまま姉は私を抱えながら家に入って行くと・・何やら怒鳴り声というか、何やら様々な声が私の脳裏に交わされている。しかし姉はそんな様子すら何ら気にせずに強引と言うべきかそのままずけずけと私を再び引き摺りながら揉めあいの中に入って行く。

「どうもご無沙汰しております。うちの妹がご迷惑をお掛けしたみたいで・・」

「おっ、あんたは!!」

「息子を躾けていたらとんだお客様だよ!!」

家のリビングにいたのは旦那のご両親・・そして良く周囲を見渡すと小さくなっている旦那の姿がそこにあった。しかし私もお酒の影響かそこまで頭が回らない・・


「ね、義姉さん・・」

「お久しぶりね、白根君。・・一応事のあらましはここで潰れてるうちの妹から聞いたけどね」

「は、はぁ・・」

小さくなってた旦那の姿は更に小さくなって写る・・というか気分が悪い、昔に比べて酒が弱くなってしまった証拠だ。妊娠して子供を産んでからお酒なんて数えるほどしか飲んでなかったので耐性がなくなったんだろう。

「本当にご迷惑をお掛けしました。後は2人で話をさせますので・・」

「と、とんでもない!! 元を質せばこのバカ息子が発端です、いい歳なのに皆様にご迷惑を・・」

「まぁまぁ、男ならば一時の過ちが強くさせるんだよ」

「あんたは黙ってなさい!! この親子は本当に・・」

ついでに旦那と一緒に小さくなっている義父を見ていると歴史と言う物は繰り返されるようだ。

「あたしはDNAというもんが憎いよ・・」

「後は私に任せてお休みください。卓が起きてしまったら元も子もないですからね」

「そ、そうだな!! ここはお姉さんに任そうじゃないか。なぁ!?」

「・・あたしは疲れたよ」

姉の一声によってご両親はそのまま寝室へと戻る、私達3人・・何だかとても気まずい。

「んで、2人とも・・とやかく問い詰める気はないけど。とりあえず何か作って上げるわ、美由紀は酔いを醒ませなさい・・白根君は好きにしていいわ」

「「はい・・」」

姉が暫く退散すると、旦那と2人きり・・方や酔っ払いに方や小さくなっている姿、何ともミステイクなもんだ。

「・・・どうして来たの?」

「そ、そりゃ・・起きたら卓と一緒にいなくなってたからな。そんで実家に帰ったらお袋に説教されるわ殴られるわ」

ま、災難と言えば災難というしかない。多分義母のことだから直感でなにかしら感じたんだろう、母親と言うのは偉大だけども妻としては正直複雑な気持ちだ。

「ゴメン。・・今度は美由紀ちゃん達に何かするよ」

「・・冬のボーナスはしっかり管理させて貰いますからね」

今回の騒動は私の管理不足もあるので次の冬のボーナスは旦那より先回りをしてしっかりと確保して置かないといけない。ま、今回のことは水に流しておくか・・

「で、でもさ・・付き合い程度の飲み屋巡りはダメ?」

「・・程ほどだったらいいわよ。プライベートで突っ込んだら本当に知らないわよ」

「へい・・」

全く旦那の管理も妻としての嗜みという事なのだろうか・・主婦ってやっぱり難しい。




fin


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最終更新:2011年09月22日 11:52
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