『ユニゾン~ココロかさねて~』3

 夕暮れの街。
 人通りも少なく、薄汚れ、寂れた雰囲気の路地裏に、一台の車が滑り込む。

先生「・・・着いたわ」
辰哉「ここが・・・」
友「ボロ・・・」
祈美「このボロい事務所がどうしたの?」
友「・・・ていうかね、なんであんたが付いてきてるわけ」
祈「それは私と狼子さんがスールの契りを交わしているからだ・・・!」
友「スール?」
祈「あれ?ズーラだったっけ?」
刹那「・・・」
辰「・・・お前ら置いてくぞ」

 細く薄暗い階段を上っていくと、その先には場末の探偵事務所を思わせる扉。
 アルミ造りの扉は上半分がすりガラスになっており、向こう側の様子がうっすら見える。
 しかし、薄暗い室内には多くの物が乱雑に積み上げられている様子が少し伺える程度で、
 こちらからは人の気配らしいものは認められなかった。

辰「この部屋の中に・・・?」
先「・・・そうよ」
刹「・・・」
先「・・・」
友「・・・あれ?入らないんですか?」
先「・・・ごめん、ここから先はあなたたちだけで行って頂戴」
辰「ええ!?な、なんでですか?先生の知り合いじゃないんですか?」
先「わ・・・悪いけど、苦手なのよ、あの人のこと・・・ね、あの人に報酬のことを言われたら、これを渡して頂戴」

 そう言って先生は、左手に下げていたジュラルミンケースを辰哉に渡してくる。

辰「え?は、はあ・・・な!な、なんですか!?これ!?」
先「いいものよ・・・じゃ、私は車で待ってるから」
辰「え、ちょっ・・・えええ!?」

 先生は、背を向けたまま軽く手を上げると、そそくさと階段を下りていってしまった。

辰「・・・行ってしまった」
刹「・・・」
祈「どうすんの?」
友「・・・まあ、先生も、あたしたちだけで何とかしなさいってことを言いたかったんだと思う」
辰「そうかな」
友「うん。狼子はあたし達の友達なわけだし、あたし達だけで出来る限りするべきだよ。そうでしょ?」
辰「・・・そうだな。行こうか」

 辰哉は、事務所の扉に手をかけた。



辰「!?」
友「!!?」
祈「おお」
刹「!」

 開かれた扉の向こうを目にしたとき、四人は驚愕した。
 場末の事務所を思わせる外観とは裏腹に、扉の向こうに広がっていたのは西洋、
 中世の貴族の豪邸を思わせる豪奢な部屋だった。
 すりガラス越しに見えた乱雑につまれた荷物は全く見当たず、
 赤い絨毯の敷き詰められた部屋の隅には、西洋の甲冑や大きな壺などの豪華な調度品がバランスよく並べられていた。

辰「なんだ・・・これ・・・」
友「・・・こんな広い部屋が収まるほど大きかったっけ?この建物・・・」
祈「おー、なんかこざっぱりしてるー」
刹「・・・」

 四人が立ち尽くしていると、部屋の奥、茶色い木の扉が開く。
 呆然とする四人の前に現れたのは、絵画の世界から飛び出したようなメイド服姿の少女だった。

メイド「ようこそおいでくださいました。主人がお待ちしております。どうぞこちらへ」
祈「メwwwイwwwドwwwさwwwんwww萌wwwえwww」
辰「・・・黙れ」

 少女に伴われ、五人で異様に長い廊下を進んでいくと、一つの大きな扉に差し掛かる。
 少女は扉の前で立ち止まり、右手で軽くノックした。

メ「・・・ご主人様。お客様がお見えです」

 部屋の中からは返事が無い。
 少女は一つため息をつくと、重そうな扉を開く。
 少女に促され、四人は部屋の中へ恐る恐る踏み込んだ。

 部屋の中は、これまで通ってきた廊下の様子とは裏腹に、
 まるでたった今嵐が通り過ぎて行ったかのような様相を呈していた。
 本棚からあふれ出した本の山が所狭しと並べられ、
 その隙間隙間にぬいぐるみや袋菓子、描きかけの絵画や画材など、様々なもので埋め尽くされていた。
 左右には本棚が並び、そして壁には豪華な額縁に納められた絵がいくつも飾られていた。
 そのほとんどがこちらを向いた人物の全身画で、その他は何故か何も描かれていない、空白の絵だった。

 そして部屋の奥、一際うずたかく積み上げられた本の山に見え隠れする頭。

メ「・・・ご主人様。お客様です」
?「―――あー、ありがとう。後は大丈夫だからもう戻っていいよ」

 山の向こうから、声が聞こえる。
 トーンの高い、少年のような声だった。

メ「・・・では、失礼致します」

 そう言って少女は背を向け、ゆっくりと壁の絵画・・・あの空白の絵に向かって歩いていく。

辰「・・・へ?」

 その後起こった出来事に、四人はまたもや絶句し、呆然と立ち尽くす。
 少女の姿が霧のように薄くなったかと思うと、その身体は絵画に吸い込まれ、
 後には、壁からこちらへ向かって微笑む、メイド服姿の少女の絵だけが残った。

辰「!!?!??!?!」
友「??!!??!!?!?!???」
祈「ちょwwwwwwwwww」
刹「・・・」
?「まあこっちにおいでよ。話は聞いてるから」

 横からかけられた声にびくりとし、辰哉は恐る恐る振り返る。
 本の山からは、相変わらず頭のてっぺんだけが覗いており、その横から生えたほっそりした手首がこちらを促していた。
 それに従い、四人は本の山を迂回して、その反対側へ向かう。

?「まあ楽にしてよ。その辺に座ったら?」
辰「・・・ん?」
祈「・・・?」

 本の山を背に、ゆったりとした椅子に腰掛けて待っていたのは、不思議な人物だった。
 小柄で、少女のようにほっそりした身体に黒のスラックス、白いシャツにグレーのベスト、赤いネクタイが緩く締められ、
 耳にかかる柔らかな髪、中性的な顔立ちに透き通るような白い肌、猫を思わせる大きな瞳がこちらを面白そうに見つめていた。

?「散らかってて悪いね。大仕事が終わったばかりでさ」
辰「・・・?(この人、どこかで見たような・・・)」
祈「・・・あ。ちょwwwwwww」

 辰哉の横から覗き込んだ祈美は、何かに気づくと突然笑い始める。

祈「リwwwリwwwカwwwルwwwのwwwひwwwとwwwだwwwwwwww」
刹「!」
辰「ちょっ・・・マジで!!!?あのテレビに出てる人!?!!?」

 四人が色めきたった途端、空気を伝わってくる冷たいオーラ。
 気付いて振り返ると、先ほどまで微笑を浮かべていたはずの彼(?)からは一切の表情が消え、
 強張った細い肩は空気全体を揺るがさんとするごとく震わされていた。

リリカルの人「・・・リリカル言うな・・・!!!」
刹「・・・」
辰「え?ちょっ、ええっ!?」
友「な、なにこれ?」

 突然、机の上に置かれたコーヒーカップが音を立て始める。
 振動は机上の資料、そして机そのもの、そして小さな震えは徐々に部屋全体に波及していく。
 揺れる本棚から小さな置物が落ち、それに続くように本がどさどさと落ち始める。
 風も無いのに書類が強風に吹き散らされるように舞い上がり、壁の絵画がドカドカと床に落ち始める。

 ・・・しかし、そのとき部屋に響く、状況に不釣合いなほど冷静な声。

メ「―――――ご主人様、熱い緑茶と芋羊かんでございます」
リリカル(ry「うにゅ!?芋羊かん♪芋羊かん♪♪」

 怒りに肩を震えさせていた彼はどこへやら、
 いつの間にか横に立っていたメイド服の少女から差し出された茶と菓子を手に歌いながら小躍りする彼。
 更に滅茶苦茶になった部屋の中で、四人は身を寄せ合って呆然と佇んでいた。

メ「―――――ご主人様はリリカルという単語を嫌います。以後、お気を付けを」
辰「は、はい・・・」



リリカ(ry「取り乱してすまなかったね。で、話のさわりは一応聞いてはいるけど、改めて詳しいところ、聞かせてもらえるかな?」

 居住まいを正し、改めて問いかけてきた彼に、辰哉は詳しい事情を説明した。
 彼は興味深そうに、しかし真剣な表情で黙って聞いていた。

リ(ry「・・・なるほど。よくわかった」

 そう言って彼が指を鳴らすと、三秒と間をおかずに老執事が部屋に入ってきて、
 彼の傍らにホワイトボードをセッティングする。
 老執事(多分セバスチャン)が出て行くと、彼は立ち上がり、ホワイトボードの傍らに立つ。
 四人は座るように促されたが、椅子など無く、
 仕方なく床に積み上げられた資料の山に腰掛けた。
 それを確認すると、彼はオホンとひとつ咳払いをする。

リ「ところでキミ、『魂』を信じる?」
辰「え?ま、まあ、どちらかと言えば、信じているかもしれません」
リ「ではキミ、魂に性別はあると思う?」
友「え?えーと・・・無いんじゃないでしょうか、男に生まれ変わったり女に生まれ変わったりするらしいし」
リ「今のところ有力視されている説からすると、その通りだね。ではキミ、その人物の性別を定義するのはなんだと思う?」
祈「マ○コ」
リ「そう、肉体だね」
祈「・・・」
リ「しかし、人の身体には、肉体以外に性別を二次的に定義する部分がある。キミ、それはなんだと思う?」
刹「!黙れ。殺すぞ」
リ「・・・」
辰「す、すみません・・・その・・・心、ですか?」
リ「その通り。肉体の認識を通して、心に定着させる。心、では心として認識されるものは、一体何処にあると思う?」
辰「それは・・・?」
リ「霊体」

 彼はホワイトボードに人型を描き、その内側に二重丸を描く。
 そして、内側の丸に『魂』と書き込み、外側の丸には霊体と書き込んだ。

リ「肉体は、感覚を通して霊体に外的経験を伝え、霊体を通してその経験を魂の中に表象として現す。
 魂の内部で表象は様々な感情に結びつき、内的経験として霊体に蓄積される」
祈「先生!意味がよくわかりません!」
リ「結論だけ言えば、肉体と魂の思い出は最終的に霊体が全部覚えるわけ」
辰・友「「な、なるほど・・・」」
刹「・・・」
リ「そしてその過程において、霊体の中に外的経験と内的経験に基づいた心が生まれる。故に、心は肉体に左右される」
辰「ふむ・・・」
リ「しかし・・・認識された心を無視する現象・・・女体化が肉体に現れたら、そのとき霊体はどうなるのか。
 無理矢理に認識を改めて、女としての心に作り変えられる者もいる。しかし、そうでない場合もある。
 そのとき、心はどのような結論を出すか」
友「・・・男の心のまま、生きていく?」
リ「それがひとつ。もうひとつは・・・霊体を分割する。必要の無い心を追いやるために」

リ「キミ、幽霊というものを見たことはある?」
辰「俺はないです。狼子は見えるらしいけど」
リ「幽霊は、霊体の一部もしくは全部が、肉体の死、またはその他の要因で剥離したものだと考えられている。
 故に、多くの場合記憶と意志はあっても、情動を司る魂を持たず、感情が無い、又は希薄である場合が多い」
友「だから怪談に出て来る霊は同じ恨み言ばかり繰り返すわけですね」
リ「そゆこと。しかし、稀に感情豊かな幽霊もいる。これには二つのパターンがあって、
 一つは、たまたまその人物の内的経験のバリエーションが豊富で、魂無しでもそれらを再構成することで心を再現できている場合。
 もうひとつは単純に、その霊体が魂を持っている、または霊体の持ち主が生きていて、魂との繋がりが途切れていない場合」

 彼は、ホワイトボードに描かれた人型の外にもう一つの丸を描くと、『魂』から線を引いて糸電話のように繋いだ。

リ「前者の場合は、単なる不成霊。
 現世に留まる理由を作ってる霊体を何らかの方法で外してやればすぐに成仏するから、死んで間もなければあまり問題が無い。
 そして後者が、いわゆる幽体離脱、または生霊。こっちがなかなか性質が悪いらしい。何せ本体が別のところにあるわけだから、
 普通の方法で祓うことは難しい。それこそ霊体に直接的なダメージを与えたり、本体を直接袋にしたりしなければ・・・」
メ「―――――ご主人様、物言いが物騒です」
辰「・・・」
友「・・・」
リ「オ、オホン。失礼。生霊の場合、本人がなんらかの意志を持って意識的に飛ばしたり、何かに宿らせたりする場合もあるけど、
 ほとんどは無意識で行われる場合なんだ。それで、さっき説明した、女体化などの影響で霊体が分割された人は、
 強い精神的な衝撃などによってタガが外れると、肉体に収められていた二つの霊体のうち片方を飛び出させてしまい、
 その結果魂との糸を繋げたまま、身体の外に片一方の霊体知らずにぶら下げて生活していることがある。
 それが、ドッペルゲンガーなどと呼ばれる現象になって現れる場合がある」
辰「そ、それが、あの狼子・・・?」
リ「それは、少し違う。彼、もしくは彼女は、明確に肉体を持って、物理的に存在していただろう?
 単なる霊体なら、何かに触れたり、誰かに触れられたりすることはありえない。ところで・・・」
辰「・・・は、はい?」
リ「キミ、オーラの泉は見てる?」
辰「い、いえ・・・」
リ「そうか。じゃあ、かめはめ波やどどん波を練習した経験は?」
祈「この前やってた!!」
辰「え、ちょってめっ、ふざけんな!!」
祈「一文字一文字滅茶苦茶溜めて連呼してたwwwww」
辰「おらああああああああああああああああああああああああ当てるぞかめはめ波あああああああああああああああああああ」
リ「そうか。でもまあ、それはあながち無駄な努力ではない」
辰・祈「「へ?」」
リ「かめはめ波やどどん波が、人間に必ずしも撃てないわけではない。その可能性を生んでいるものが・・・」

 彼は再びペンを取り、ホワイトボードの人型の中、二重丸の外に、それを包み込むようにもう一つの人型を描く。

リ「形成体。生命体。エーテル体。気。オーラなどと呼ばれる、生命と肉体の形成を司るもの」
友「オーラ・・・」
リ「気は、肉体という物質の崩壊を抑えるとともに、意識的に飛ばせば手を触れずにものを動かすなんてことも出来る。
 気というのは、霊の領域から物理法則に手を伸ばすひとつの手段なんだ」

 四人の脳裏に、この部屋の先ほどの有様が思い出される。

リ「話は戻って、肉体から剥離した霊体は多少の気を受け継ぎ、それをまとって存在している。
 故に、物が倒れたり風が吹いたりなどの、物理的な現象を伴った霊現象を起こせる場合がある。
 同じように女体化などの影響で身体の外にぶら下げられた霊体は、肉体の中に存在していたこと、
 そして肉体に残った霊体と魂を共有していることで同じく気をまとって存在している。
 そして、本体が生きているために、単体の死人の霊体よりも気の勢いが強い。
 また、本体が本来持っている気が強いほど、霊体に渡される気の勢いは強くなる。気が強いだけ、その霊体は物質に近くなる」

 彼は、『魂』と糸で繋いだ丸を包み込むように、また人型を描いた。

リ「こうして、触れえるドッペルゲンガーが完成する」
辰「・・・」
友「・・・」
リ「・・・しかし、気は無尽蔵ではない。人が普通に生きていても気を失って死ぬように、
 魂と細い糸で繋がっているだけのドッペルゲンガーが、肉体の加護も無しに物質的なものとして存在し続けることは出来ない。
 そして、魂とのつながりも、いつか途切れる。魂との繋がりが途切れれば霊体は気を失い、擬似的肉体は消滅する」
辰「だから・・・あいつから影が・・・」

 辰哉の心に、あの日夕日の中去っていく、影の無い狼子が思い出された。

リ「・・・肉体無しで物質として存在するためには多くの気を消費するんだ。そろそろ、尽きてもいい頃かもしれない。
 さて、魂を持っている不浄霊なら、魂と結合し続ける限り、霊体として消滅することはありえない。
 しかし、霊体だけの存在なら、一部のパターンを除いて、電池が切れるようにいつかは霊体としての消滅を迎える」
辰「だったら!やっぱり、あいつは・・・」

 彼は静かにホワイトボードの前を離れ、本に埋もれるように置かれた彼の椅子に戻る。

リ「魂は分割されない。・・・キミの恋人が二人に分かれたとき、二人が全く正反対の性格になったということは、
 恐らく魂の糸は完全に途切れたと思っていいだろう。糸で繋がる限り、双方は魂を共有しているために心で影響し合うわけだから」
辰「元に・・・元に戻す方法は、無いんですか」
リ「一つだけ、ある」
辰「それは・・・?」

リ「ユニゾン」

 そう言って、彼は何かを確認するようにゆっくりと目を閉じ、そしてまたゆっくりと猫のような目を開いた。

リ「ユニゾン。二人の心、気の流れを同調させる。強く同じことを思わせる。強く同じ言葉を口にさせる。
 そうすることで、また霊体はひとつになり、二人は元の一人に戻るだろう」
友「同じことを思わせ・・・」
刹「・・・言わせる・・・」
リ「・・・だけどね」

 彼は、辰哉の方に顔を寄せ、静かな声で問いかける。

リ「・・・彼らが二人に分かれたということは、少なからず、それを彼女自身が望んでいたということを忘れてはいけないよ」
辰「・・・どういう意味ですか」
リ「・・・分割した霊体の消滅を、過去の自分との決別と考える人もいるんだ。
 彼女にとって、元に戻ることは本当に幸せなことだと、キミは本当に自信を持って言えるのかな?」
辰「でも・・・それではあまりに・・・!!」
リ「その気持ちは、エゴじゃない?本当に彼女のためを思って言っている言葉?彼女が選んだ道よりも彼女を幸せにする自信はある?」
辰「・・・」
リ「・・・彼もすぐに消えてしまうわけじゃない。今日一日は、自分の心と向き合ってごらん。
 それからこれは、ウt・・・ゲフッ!ゲフフン!・・・僕から、キミへのはなむけ」

 彼は、白い封筒に納められた何かを辰哉に差し出した。

辰「これは・・・?」
リ「中身は彼女を元に戻すための呪文さ。
 ただしこれは、自分たちでは何の手の施しようも無くなるまで絶対に開けてはならないよ。
 開けてしまったら、ただの紙切れだからね」
辰「・・・」

 辰哉は黙って手の上の封筒を見つめた。

リ「・・・さて!今回のウt・・・ゲッフ!ゲフッフフン!・・・僕の仕事は一応以上ということになるけど、
 報酬の方は用意してもらえたのかな?」
辰「え?あ、ああ、それなら、これを渡すようにと・・・」

 辰哉は、傍らに置いたジュラルミンケースを彼の方へ押しやる。

リ「ほうほう・・・大袈裟な入れ物に入れちゃって、なんだろうねえ・・・(ガサゴソ)・・・ふおっ!!?」
辰「え?ど、どうしました?」
リ「ゲフッ!ゲフッフン!・・・な、なんでもないよ。報酬は、確かに受取った。どうもありがとう。さ、送って差し上げて」
メ「―――――かしこまりました。では皆様、こちらへ」

 四人が少女に伴われて部屋を出るとき、「芋羊かん♪芋羊かん♪芋羊かんが、いっちねんぶん♪♪」
 ・・・という背後からの歌声を聞いた気がしたのは、やはり気のせいだろうか。



辰「今日は、お世話になりました」
メ「―――――木村様、お帰りになられる前に、くれぐれも覚えておいていただきたいことがございます」
辰「は、はい」
メ「今皆様がお話したあの方は、リリカルの人という人物ではございません」
辰「は、はあ・・・」
メ「くれぐれも、お間違いの無いよう」
辰「は、はい・・・」
メ「・・・ボソッ・・・正体がバレては、魔法少女の魅力というものはそのほとんどが失われるものでございますから・・・」
辰「・・・え?」
メ「こちらのお話でございます。では、お気をつけて」

刹「・・・違うんだ・・・」

 彼は、リリカルの人ではありません。



辰「狼子の望み・・・か」

 俺は本当に、あいつの心を理解していたのだろうか。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年07月16日 03:29
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。