クロス『たくさんの先生がいるけど一番の先生は深く関わった先生 』

188 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:49:47.83 ID:BGxXBRBSo
教師というのは難しい職業なのは時代が経ってもそれは変わらない。

 


たくさんの先生がいるけど一番の先生は深く関わった先生

 


                           ◆Zsc8I5zA3U

 

 

さて、季節は6月半ば・・先月に起きた柔道部の騒動やつい最近まで起きていた決闘騒動もようやく鎮静化が見え始め、一学期真っ盛りのこの時期に盛り上がるのは生徒だけではない。職員室内でも今後に向けたカリキュラムやらテストの作成やはたまた進路に関する調査など、職員室内ではクラスに関わっている教師から放たれる少しばかりのピリピリとした空気に包まれていた。
ここでも少し初老に指しかかっている教頭先生とその隣にいる小学生としか思えないちびっ子が中心となっていて簡単な挨拶を行っていた。

「え~・・今後の予定については以下の通りです。それでは校長先生・・どうぞ」

「う~んっと・・皆さんがしくじれば私が理事長に怒られてしまうから頑張ってね☆」

全員新喜劇のように少しずっこけたくなってしまうが、この小学生としか思えない女の子・・もとい、彼女がこの学校の校長なのだ。彼女の名前は藤野 霞(ふじの かすみ)、どこからどうみてもランドセルを背負っていれば違和感の無い幼女ではあるが驚くことに年齢は40代後半・・ちゃんと大学に出て教員免許もちゃんと所有している。ちなみにこの世界の例にも漏れず彼女も女体化者である、この手の設定にありがちな悩みとしてロリっ娘としか思えぬ容姿に悩みがあるように思えるが・・彼女の悩みは意外にも1人息子の結婚相手である。
そんなロリっ娘・・もとい、霞を筆頭に教師陣は各自の仕事をしながら動いている、そして若かりし学年主任であり数学担当の鈴木 由美から生徒会の会議結果を伝える。

「えっと、今期の生徒会のモットーは質実剛健だそうです。生徒達の気を引き締めながら私達教師陣にも質のある授業をしていきましょう」

「相変わらず変なスローガンだね。むしろ制約のある若い子には欲望解放の方がいいと思うけど」

「こ、校長・・一応生徒会が決めたスローガンですので、ある程度は合わせてあげてください」

「は~い」

その後は簡単な報告が終わり、各教師はそれぞれの受け持っているクラスのホームルームをするために職員室を去っていく、その他教師も受け持っている授業の準備をするためにそれぞれの専用の教室へと散らばり残ったのは教頭と霞、そして礼子であった。

(あ~・・未だにあれが校長だなんて信じられねぇよ。鈴木先生も忙しそうだし、早く保健室でのんびりするか・・)

「春日先生、春日先生~」

保健室へ向かおうとした礼子を呼びとめたのは霞、両者の表情は対照的で子供のような天真爛漫な霞に対して礼子は少しげんなりした表情なのだが礼子にしてみれば見てくれはともかくとして上司兼大学の大先輩であることには変わり無いので無視する事など出来ない。

「どうしました・・不足している薬品リストや女体化生徒を考える会等の必要な書類は提出したはずですけど?」

「うん、知ってるよ。特に女体化生徒の書類は理事長にも好評で褒められちゃったよ、春日先生は養護教諭にしておくのは勿体無いぐらい優秀だしね。いつもギリギリの骨皮先生にも見習ってほしいよ、こないだの中間テストの問題作成だって期間ギリギリだから参っちゃうね」

「は、はぁ・・」

この学校へ赴任して以来、礼子はどうも霞のこの雰囲気が苦手だ。その理由はかなりあるのだが・・それらを要約するとやり辛いのだ、ただえさえ自分の旦那の病院にいる変人スタッフ達に加えて職場でもこのような人物と渡りあうのは少しばかり疲れる。

「私もそろそろ保健室へ行かないと・・」

「すまぬすまぬ。・・実はね、私の一人息子の潤君が婚活してくれなくてもう心配で心配で常にダーリンと枕濡らしているのよ。大学在学中に苦労して出産した親としても早く孫の顔が見たいんだけど・・春日先生の周りにいい女性いない?」

この霞は見た目は兎も角として中身はそろそろいい年代なので一人息子の婚活が心配なようだ、だからこうして既婚している教師1人1人には息子のお見合い相手を見繕ってもらったり、独身の女性教師にはお見合いを頼んで貰っているのだ。その話は教師の間でもかなり有名となっており鈴木教諭も苦笑混じりで礼子に語っていたのがいい思い出だ。
しかし、生憎礼子の周りにはそういった人間がいない、病院スタッフに話を回して見れば何とかなりそうだが、自分の上司の息子に変な人物を紹介するわけにもいかない。

189 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:50:20.81 ID:BGxXBRBSo
「申し訳在りませんが、私の周りには・・失礼を承知で言いますけど、出会いは本人に任せたほうがいいかと」

「えっ~!! 折角、まだ見ぬ孫とゲーセンでエンジョイしたり駄菓子屋でお菓子買ったりしたかったのに!!! それに潤君が子供の時は姉弟と間違えられた時が堪らなくよかったなぁ・・」

霞の独壇場に礼子に溜息がかなり出る、自分にも仕事があるので早いところこの場から立ち去りたいのだが・・ここで教頭が霞を呼び止める。

「校長。・・理事長がお呼びです、それに提出した書類に関して話がしたいとのことですが・・」

「ゲッ! またグチグチ言われるのはもう嫌だぁ・・何とかならない?」

「なりません。それに春日先生も早く保健室に向かってください」

「(た、助かった!)すみません。これで失礼します」

「あっ! 春日先生~!!!!」

霞に見かねた教頭の助け舟も合って礼子はそそくさと職員室を飛び出して保健室へと向かう、残された霞は教頭に抗議と言う名の罵詈騒音を教頭に連射する。

「理事長の用事って何よ!! どうせ適当に理由をつけて呼び出しても中身は校長としての示しや骨皮先生の書類の遅さを罵るのでしょ!!! 教頭先生も私が無能だと思っているんでしょ!!!!」

「少なくとも私が今まで見ていた校長より貴女は優秀で素晴らしい結果を残してますよ。現に現場の教師からも聞きますよ」

「へいへい、これからも善処しますよ。・・それにしても春日先生はどうして養護教員に留まっているのかしらね」

コーヒーを啜りながら霞は誰も居ないのを確認すると先程の天真爛漫な表情は為りを潜め、“校長”としての表情を取る。教頭が傍にいさせているのは立場上もあるが彼を信頼している証、霞は見た目はこんな成りではあるが彼女が校長に赴任してからこの学園は変わった、ある時は学力対策を重点に置いて多数の生徒を名門大学へ輩出したし、生徒会にある程度の自治を与えるなど様々な政策を打ちたてたお陰で当初は名前すら乏しかったこの学園は進学校として瞬く間に名前が知られ部活動に関しても名門校の地位を確立する事となった。
彼女がこの学園にもたらした実益はかなり大きい、最初は彼女を客寄せとして起用していた理事長も舌を巻いていたぐらいだ。

「確かに春日先生を起用したのは校長だと伺ってますが・・そもそも彼女自体が養護教諭志望で大学で取得した単位もそればかりでは?」

「甘い! 彼女が持っている資格の一部には普通の教師でも持っている人間は数えるほどしか無いの、それに私は単に大学の後輩だからって理由で採用はしていないわ」

「と仰いますと?」

「一応書類審査でね、彼女の経歴やら論文には目を通してたんだけど・・ハッキリ言って優秀よ。私の大学が歴代首相を輩出している超エリート名門校なのは知っているでしょ? その大学の主席候補になる事自体も凄いんだけど、中でも目が光ったのは教員研修よ」

教師志望の人間は必ず学校へ研修に出されるのだが、そこで霞が礼子に惹かれたのはその実績である。

「一度だけね、彼女は小学校で普通のクラスで研修したんだけど・・それが凄かったのよ。教頭先生は規定で書類は見れないでしょ?」

「ええ、私も理事長から聞いたのは校長である貴女の推薦としか・・」

「驚くべきことにね・・彼女が研修したクラスの児童全ての成績が急上昇したの。しかも一人も余すことなくよ!! でもそれから彼女は養護教諭を志望し続けたのよね」

礼子が叩き出した驚異的な実績に教頭も思わず驚いてしまう、教師として生徒の成績を上昇させるのは当たり前の話なのだが1クラス丸々の人間の成績を全て上昇させるのは熟練の教師でもほぼ不可能に近い。それを彼女は大学生の身分でありながらそれを易々とやってのけてしまったのである、その驚異的なデータを目の当たりにした霞はすぐさま礼子をこの学園へと呼び寄せたのだ。

「私の力に掛かれば彼女の免許を書き換えて正当に教壇に立たせることなんて可能よ、それ関係に強いコネあるしね。んで前に私が一度提案してあげたんだけど・・」

「で、結果は・・?」

「見事に断られたわ。どうもそんな気がない見たい・・勿体無い話だけど本人がああ言っているんだから仕方ないし」

霞は礼子の才能を高く買っているのは今でも代わり無いのだが本人にその気が無いので渋々断念している。

「・・ところで校長」

「わかってるわよ。理事長に会えばいいんでしょ? 丁度話したい事もあったし・・暇潰しに行ってやるわよ!!」

ロリっ娘校長、藤野 霞は今日も行く・・


190 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:52:44.47 ID:BGxXBRBSo
霞から解放された礼子はいつものように換気をしっかりチェックすると即座に一服しようとするのだが、ここでいつものように颯爽と聖が現れる。

「よぉ、礼子先生!!」

「・・どうしたの? 今は授業中のはずよ」

「暇だからサボってきた」

当然の如く言ってくる聖に礼子は更に頭が痛くなる、何故か聖については各担当教師を通して礼子に苦情が回ってくると言う理不尽なシステムが成り立っており当然のように授業をサボる聖に呆れてものが言えない。今のところ聖に関しては何とか大学へ進学させて卒業させようと教師の間でプロジェクトが発足しており、ある意味学園内でも中心人物であろう。

「で、今回はどうしたの?」

「いつものあれくれ・・」

「もうなくなったの。・・全く、少しは自重しなさい」

礼子はそのまま薬箱から錠剤一式を取り出すとそのまま聖に手渡す、ちなみに避妊薬は学校に常備されている薬とは違って旦那である泰助を通じてもらっているものである。勿論、薬の効果も市販の物や学校に常備して在る薬とは大違いであり正真正銘の医療品なので値段もそこそこ高い。

「この薬はね、本来学校の保健室にあるような代物じゃないの。旦那からはそこそこの量支給して貰っているけど、普段の薬と比べてあまり流通してないのよ」

「わかってるよ。俺だってまだ母親にはなりたくはないし・・」

「ま、私がホイホイ渡すのも問題ありそうね。でもこの薬は本当に今のあなたには本当に貴重な代物なんだから・・私だって校長とかに渡してるのばれたら困るし」

保健室の常備薬の管理は基本的に礼子が行っており、それらは日誌によって日々事細やかに記載されている。何とか聖に渡している薬の存在はばれてはいないものの学校の規定による薬じゃないので存在しているのがばれてしまえば礼子もちょっとばかりまずいのだ。

「でも校長って・・あの子供だろ? 飴でも渡しときゃ大丈夫じゃねぇのか?」

「あのねぇ・・あの人は見た目はあんな感じだけど実年齢は私よりも年上でしかも子持ちよ」

「ま、マジかよ!! しかしあれはどうみたって小学生だぜ・・」

一応聖もこの学園の生徒なので校長である霞の存在は知っていたのだが、未だに校長をしているのが信じられないぐらいだ。それに彼女を飴で手なずけられるのなら礼子は真っ先にやっている、あの年齢にてあの容姿はそれなりに女体化している人間を見てきた礼子にとっても奇妙と言うほかあるまい、一応アメリカにいる徹子にも話してはみたが当人は全く驚きもしなかったことは今でも覚えている。

「なぁ、礼子先生・・あの校長を小学校に入れたら普通に混じると思わねぇか?」

「・・違和感は無いわね。というか、もう少しで2時間目でしょ。今度はちゃんと参加しなさい」

「わかったよ」

いつものように聖を大人しくさせると礼子は書類を書きながらのんびりとした日常を過ごす、しかし聖が去った後も彼女の元へやってくる来訪者はまだまだ後が絶たない。


191 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:53:07.75 ID:BGxXBRBSo
3時間目・数学

「え~・・ここの問題はこの数式を利用します。センターでもこの問題の出題率は多いほうです、それではこの問題を中野君」

「はい」

翔はそのまま提示された問題の回答を綺麗に書き込み、数列を完成させる。

「正解です。先ほどの回答はこの問題をだけでなく応用すればこのような式にも対応できるので覚えておいてください」

「先生」

「はい、藤堂さん。どうしましたか?」

「今提示された数式は教科書56ページの問題に対する回答とはどう違うのでしょうか?」

「では、順を追って解説して行きましょう・・」

特進クラスの授業は普段のクラスの授業と違ってかなり高度で練度の高い活発な講義が行われて一線を画している。それ故に特進クラスに所属している生徒の数はそんなに多くないが順位に関しては全国に食い込むぐらいだ。

「というわけです。・・宗像君、今度はどうしましたか?」

「さっきの藤堂さんに提示した回答ですが教科書の58ページの図3に対する問題には応用出来ますか?」

「いい質問です。先ほどの数式による回答で対応できますが、他の問題にはこのような傾向も在ります」

そのまま由美は黒板に問題を書きこむとそのまま数列を書き込み、今度はそれに対する回答を1つ1つ丁寧に説明しながら書きこむ。そして時間を見ながら今回の授業のまとめに入っていく。

「今回、授業で出た数式の亜種には大学で提示されるものも含まれます。・・ではこれで授業を終了します、今回の問題の一部は全国の模擬でも出題されるので覚えておくように」

同時に授業終了のチャイムが鳴り、緊迫していた空気は一気に解放される。

「ふぅ~・・やっぱり数学は理解するまでが辛いんだよな」

「何だ、お前は数学が苦手なのか?」

翔に話しかけてきたのはもはや説明は不要である藤堂 沙樹。文武両道をモットーにしている応援団の団長である彼女もまたこの特進クラスに籍を置いている、翔も藤堂の話を聞き流しながらも次の授業の準備を進める。

「まぁな、それに担当の鈴木先生も的確すぎて時々ついて行けれん」

「鈴木先生は学年主任でもある、生徒会でも助言はしてくれるからな」

「・・その生徒会に団長の代わりで出席してるのは俺なんだけどな」

ここぞとばかり現れたのは宗像 巌、彼もまた特進クラスに籍を置いており成績の方もこのクラスの中ではトップクラスである。

「ま、生徒会は教師の監視の元での権力だがな。それでも鈴木先生は余り口出しせずに淡々と見守ってくれて尊重してくれる」

「そういえば中野はもう進路を決めているようだな」

「ああ、レモナ大学の文学部へ進学予定だよ。俺どちらかと言えば文系だし・・藤堂は決まってないとして宗像はどこにする予定なんだ?」

「そうだな・・まだ具現化していないが春日先生が卒業した大学も視野に入れている、現にここでも何人か進学しているしな」

「ほぉ・・頭が良いのは羨ましいね」

翔はぼやきつつも宗像の高らかな目標には感心する、現に今の自分の成績でも礼子が卒業した大学を狙うのは困難だからだ。

「おい、進路もいいが中野は相良を抑えろ。俺達も相良ばかりに気を取られるわけにはいかないからな」

「そうだな。俺達応援団は全体をまとめなければならない、相良を抑えるのは彼氏であるお前の義務でもある」

「簡単に言いやがって・・それが出来たら俺だって苦労はしねぇよ」

翔の嘆きと同時に4時間目である古文の授業が始まるのであった。


192 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:54:31.00 ID:BGxXBRBSo
同時刻・2年クラス

ここは狼子達のクラスで4時間目の授業は歴史、そして授業開始の時間から少々遅れてめんどくさそう表情で頭を掻いている少々筋肉質の男性が登場する。この人物こそ彼等の担任でもある骨皮 靖男(ほねかわ やすお)、担当教科は歴史で卓球部の顧問であるのだが・・性格は至ってめんどくさがりで教師の中でも書類の提出の遅さはピカ一である。しかし名前とは裏腹の堂々とした体格とずぼらさが成せる砕けた口調からか生徒からも人気が高い教師の一人でもある。

「うぃ~っす・・お前等、全員揃ってるな。それじゃ授業を始める・・どうした木村?」

「先生、他のクラスではもう近代の授業しているそうなんですが・・なんで俺達のクラスだけ戦国時代で止まっているんですか?」

「それは俺が戦国時代が一番好きだからだ、以上。それじゃ前回は川中島の戦いをやったから今度は三方ヶ原の戦いと姉川の戦いををやって行くぞ」

「あの・・好きなのはわかりますけど戦を1つ1つ解説してたら1年以上になりますよ」

「仕方ないな、そんじゃ次の授業で考えてやる」

靖男の授業速度はその日の気分でいつも決められており、クラスによってその進行速度はバラバラである。なので彼が授業を受け持っている2年生達は彼の授業が終わるとそれぞれのクラスが集まり合って歴史の授業のムラを遅れがないように情報交換をして補完しあっている、だからそれ故に彼から出されるテストの傾向は予測不可能なのだ。人としては慕われている靖男であるが教師としては信頼されていないという変な人物だ、ちなみに彼はこのクラスの狼子とは血縁上、遠からず近からずの親戚同士でもある。

「それじゃ、始めていくぞ。まずは三方ヶ原の戦いだ、元亀3年・・甲斐の武田信玄は上洛のために軍を進めるが徳川家康の領地だったんで両雄は激突する。それじゃ・・円城寺、大体の経緯を答えろ」

「・・武田信玄は奇襲部隊で徳川領に進行、家康は篭城して武田軍を迎え撃つも兵力の差で惨敗して影武者のお陰で命からがら浜松城に逃げ延びる」

「よろしい。この時に逃げ延びた家康は脱糞してしまって惨敗した屈辱を忘れぬためにもその表情を絵師に書かせたんだ、この戦いと伊賀越えは徳川家康最大の危機と言われている。・・ま、ぶっちゃければ体のいい狸狩りだな」

そのまま黒板に要所要所の項目を書きながら授業はゆっくりかつもマイペースに進むが、時折笑い話も交えながら面白おかしく授業は進んでいく・・

「それじゃ、次は姉川の戦いだ。それじゃここを・・月島、答えてみろ」

「え、えっと・・直江状に怒った家康は上杉を牽制するために伊達に牽制をする武器マラソンを・・」

「違う、それは長谷堂の戦いだ。それに先生も優秀な属性がついた武器や防具を揃えるために何回プレイしたかは覚えてないが、ゲームでは本当の歴史は学べない。これ鉄則な」

「す、すみません・・」

周りからの大爆笑で空気は一気に和みながら靖男は解説を続ける。


193 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:57:33.06 ID:BGxXBRBSo
「さて、姉川の戦いとは浅井と朝倉に攻められた織田信長が盟友である徳川家康と共に姉川の地で行った戦いのことだ。徳川家康ら家臣らの奮戦によって見事に朝倉家を打ち倒し、士気が高まった織田軍と共に浅井軍の敵将を軒並み討ち取って大勝した戦いのことである。ただし、無双ケージはモブ武将で使ってしまったら大将戦で貯めなおさなきゃいけないから注意だぞ・・さて、ここで前に出した宿題を提出してもらう」

(ゲッ!! わ、忘れてた・・)

クラスの過半数の人間が宿題を出し終えている中で狼子は申し訳なさそうに靖男に立ち寄る。

「どうした月島? さっさと今回の宿題と前の宿題を提出しろ」

「わ、忘れました・・」

「・・放課後、補習するから残っておけ」

「ええええ!!!! 明日には提出しますから・・」

「歴史上、一時凌ぎで立て直したのは一握りの天才でバカは容赦なく滅んだ。俺は親戚にも容赦はしないからな」

げんなりする狼子をよそに全員が席に戻ったことを確認した靖男は再び授業に戻って解説を始める、すでに時間はギリギリで予定してた時間よりも授業内容はかなり滞っているので要点だけを掻い摘んで説明する。

「さて、浅井と朝倉を滅ぼした信長はやがて各方面に勢力を伸ばして本能寺で金柑頭にぶっ殺される。それで本能寺の変には色々と諸説が在るが・・ぶっちゃけ[たぬき]に頼んでタイムマシンで見たほうがわかると先生は思う」

(お、おいおい・・それじゃ歴史の意味無いだろ)

「先生だって[たぬき]に来てほしいと思ったのは数知れない。てかぶっちゃけ、今すぐにでも来てほしい・・ってな訳で予鈴が鳴ったので今日はここまで、宿題は立身出世した豊臣秀吉についてのレポートの提出だ」

最期のわけの分からない言葉を残して予鈴が鳴ったので靖男の授業は終わりを迎える、そしてこのクラスの学級委員は別のクラスの学級委員に授業の内容のメールを送ると即座に情報交換を始めてクラスに知らせるためにリストを作成する。そして辰哉と刹那は沈んでいる狼子を何とか励ます。

「まぁまぁ、落ち込むなよ。補習なんてすぐに終わるだろ」

「うるさい!! ムカツクから噛んでやる!!!!!!」

「痛てててて!!!!!」

いつもの光景が繰り広げられている中で刹那はふとある事を狼子に聞いて見る。

「・・先生と親戚なのは本当?」

「ああ・・あんまり会った覚えは無いけど本当だよ。でも親戚が教師と生徒の関係ってまずい気がするんだよな」

「それはよく聞くな、でもそんなに縁があるわけじゃないんだろ?」

「まぁ、遠からず近からずの血縁だって聞いたな。そんな事よりも補習だなんて酷いぜ!!!!」

「お前が宿題出さなかったのが悪い、今日の宿題は付き合ってやるから元気出せよ」

「・・私も手伝う。3人でやったら効率もいい」

「恩に切るぜ」

彼等の日常もいつもと何ら変わりはない・・

194 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:59:24.38 ID:BGxXBRBSo
同時刻・理事長室前

「失礼しました!!!!」

ようやく理事長から解放された霞は鬱憤たっぷりの表情で理事長室を後にする、どうやら理事長にこってり絞られたようで気分も余りよろしくない。一応現場では校長である霞がトップに当たるのだが学園内では名目上理事長が全ての権限を有しているので流石の霞でも逆らうことは出来ない。

「全く! 春日先生や鈴木先生のお陰で褒められたと思ったら、骨皮先生のお陰でたっぷり絞られたじゃないの!!! ・・お腹減った」

時刻は既にお昼休み、この時間は全ての人間に取って至福と安堵の時間でもある。霞はそのまま職員室へ戻って自前で作ってきたお弁当を取り出す、なおこの学園は他の学校とは違って校長室などというものは存在せず現場の教師はお昼休みになると学食や職員室などで持って来た自前の弁当や学食を購入して昼食を取るのだ。

(さって・・気を取り直してお昼お昼っと、学食もいいけどやっぱり職員室でお弁当食べるのもいいわよね。あれは・・骨皮先生じゃないの!!!)

霞が周囲を見渡すと丁度昼食を取ろうとしている靖男の姿が目に映り、弁当の中身をよく見てみると自分よりも豪勢な弁当が光る。霞は理事長にこってり絞られた事を思い出すと八つ当たりを思いつき、気配を消しながら靖男の元へと向かう。

「ようやく待ち望んでいたお昼だ。職員室一番乗りは得だな、お茶も準備OK・・少々値が張ったがルナのハンバーグ弁当、いただきま~す!」

「ほ~ね~か~わ先生!! 随分とご機嫌ね」

「ブッ――!! こ、校長先生・・」

思わぬ霞の出現に靖男は驚きのあまり飲みかけていたお茶を吹き出してしまう、持ち前のちびっ子容姿を活かして気配を消して近づいてきた霞の存在に気がつけなかったようだ。

「ど、どうしたんですか・・」

「別にお昼にここに来たらご機嫌そうな骨皮先生が目に付いただけよ。優雅に食事なんて随分余裕ね」

流石の靖男も直属の上司である霞には頭が上がらない、彼女に小言含め説教された回数はもはや計測は不能だ。

「あ、あの・・食べづらいんですけど?」

「私だってお昼なの。せっかく2人だけなんだし今後の指導方針についてじっくり語り合いましょ♪ それに部下の悩みを聞いて上げるのも上司の仕事だしね」

「は、はぁ・・」

ここで霞のターン、即座に靖男の隣に陣取ると自前の弁当を広げる。上司と昼飯を共にするなどあまりいい気分ではない、これでは折角奮発して購入したルナのハンバーグ弁当の味も無味無臭と変わり果ててしまう。

「それで授業もだけど卓球部についてはどうかな~」


196 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 12:01:59.77 ID:BGxXBRBSo

「大会も勝ち進んでますからよくやってますよ・・」

「こないだ職員会議で決まった創立記念日での来賓やPTAの方々に行う説明会の文章、骨皮先生だけ提出されてないわよ」

「(ま、まずい・・civのマルチしててまとめてなかった!!)もう少しで、終わりそうなんですけど・・」

「あのね!! あれ本当は明日の朝までに理事長に提出しなきゃいけないのよ!! おかげで理事長にどれだけ怒られたか・・」

ちなみに他の教師は当然のようにすぐに提出しているので靖男1人のお陰で少し滞っているのだ、更に霞の勢いは更に止まらない。

「それに副担任である葛西先生に任せた進路調査表の提出も抜けがあるわよ、あの人は全国大会控えてる吹奏楽部や音楽の授業に手一杯だから無理言えないけど・・」

(あの野郎!! 俺が頼んだ仕事やらずにまた音楽に現抜かしていやがるのか!!!!)

「副担任の書類のチェックはしなさいってあれほど言ったでしょ。まだ期間はあるから提出していない生徒の分は出しなさい」

まるでどこかのお母さんのようである、この2人見た目ではあれだがその中身は全く逆なのだ。

「同期の春日先生は優秀なのにあなたはもう・・頼むからこれ以上私の胃に風穴を開かせないでちょうだい」

「校長先生、同僚の名前出されると心が痛みます・・」

(ま、実務能力や生活態度を差っ引いたら骨皮先生もいい教師なのは間違いないんだけどね)

結局は2人とも憂鬱な表情のまま限りない時間を無駄にしないためにも昼食を進める、しかし靖男もこんなんではあるが生徒への指導に関しては緩めるところは緩めてもしっかりしているので霞もその点だけは評価はしている。現に靖男の指導で更生した生徒はそれなりにいるし、更には保護者からも評判が高いのでそれらを踏まえても教師としての本質は高いと霞は判断している。

「まぁ、これ以上にして上げるから仕事頑張ってよ。いい奥さんでも見つけたら変わるんじゃないの」

「俺の理想の嫁さんは無双の甲斐姫と昔から決まってます。それに校長先生もいい加減、子供料金をフル活用するのは反則だと思いますけど?」

「懐事情が優しくなるからいいの!! 骨皮先生みたいに歴史ゲームを買い過ぎて金欠になるよりかはマシよ」

(見た目ちびっ子なのをよく利用するいい大人に言われたくないぜ・・)

こうしてお昼の時間は刻々と過ぎていく・・

 

195 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 11:59:50.56 ID:BGxXBRBSo
更に時間は一気に飛んで放課後・・靖男は宣言通り狼子への補習を執り行う、ちなみに辰哉も付き添いとして狼子の帰りを待つために同行していた翔とゲームをしながら時間を潰していた。

(ううっ~・・やっぱり丸々手をつけてないのはまずかったな。刹那は友と塾らしいけど辰哉が付き添ってくれてるし、いざとなれば先輩がいるからな)

「ちゃちゃっと宿題やっとけよ。今度宿題忘れたら追加で補習させるからな。・・それから中野、先生の目の前でゲームするな。無性に腹が立つ」

「ちょっとぐらい大目に見てくれ・・って卓球部はどうしてるんだよ、大会近いんだろ? 何なら狼子は俺が面倒見るし・・」

「そうですよ、先生より先輩の方がしっかりしてますし・・」

「木村、担任をもっと信頼しろ・・と言うか中野ゲーム貸せ、そして俺のcivをやらせろ」

辰哉からしても体よく靖男を追い出して後は自分と翔で狼子の宿題さえ手伝えば早く帰れる、むしろ翔はその役目として辰哉の願いを聞きつけてここにやってきたのだが・・狼子のペースに加えて靖男のマイペース振りを見ていると時間は当分掛かりそうだ。

「お、おい!! 教師が生徒にカツアゲして良いのかよ!!」

「世の中、権力がものをいう。それにあいつ等は俺がいなくてもやっていける連中だ」

「卓球部の連中がしっかりしてるのが判る気がするぜ・・」

靖男は強引に翔からゲームを取り上げると自分のソフトを取り出してプレイする。

「辰哉、ここどうしたほうがいい?」

「これは征夷大将軍についてだな、俺は室町時代について調べたのまとめたけど・・骨皮先生、ここ等はどすれば?」

「よしっ、黄金期発動だ! これで偉人ラッシュを掛ければ・・」

「ダメだぜ辰哉、完全に一人の世界に入っている。・・よし、この隙に俺が原文かいてやるからそいつを写せ」

「すみません。俺も手伝います」

翔と辰哉主導で課題であるレポートの原文を作成してそれを狼子に写させて作業速度を速める。内容は翔が書いているのでまず問題はないだろう、ちなみに靖男はゲームに夢中で周りの事など全く見えていないので小一時間してから翔は全ての論文を完成させると狼子の差し出す。

197 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 12:02:56.01 ID:BGxXBRBSo
「よし、これなら大丈夫だろう。んじゃ、俺は帰るわ」

「助かりました」

「ありがとうございます!」

「ま、可愛い後輩のためだからな一肌脱いでやるさ」

そのまま翔は教室を立ち去り、残るレポートも時間は掛かったものの翔のレポートを丸写ししながらようやく終わらせる。

「ふぅ~、これで終わりだ」

「ありがとう、辰哉! 先生、レポート終わりました!!」

「よし!! これで天帝で文化勝利だ、だけど後1ターンだけ・・」

まるで何かに取り付かれたようにゲームに固執する靖男に腹が立った狼子と辰哉は抵抗する靖男を押さえつけてゲームの電源を無理矢理切ると完成したレポートを突き出す。

「あっ! 何しやがる!! まだお礼参りとして全ての文明を核で焼ききってないんだぞ!!!」

「いい加減にしてください!!! 狼子の課題終わらせましたよ!!」

「そうですよ!! しかもそのゲーム本体は先輩のじゃないですか!!!」

「先生の楽しみを奪うなんてお前等それでも俺の生徒か―――・・って、終わらせたのか」

靖男はゲーム機片手にレポートを確認するとゲーム機からソフトを抜いて辰哉に差し出す。

「OKだ。これは中野に返してやれ・・それに腹減ったろ? 行き付けの店のラーメン奢ってやる」

「や、やったぁぁぁ!!! ラーメンだ、ラーメン!!」

「い、いいんですか?」

「大人を舐めるなバカ野郎。・・だけど秘密にしておけよ、一応俺教師だから。それじゃ車出すから行くぞ!」

「「はい!!」」

喜んで学校から出て行く3人の姿を職員室の窓辺から霞がそっと見守る。

(夜に生徒を連れ出すなんてどうしようもない教師だけど・・今回だけは見逃して上げましょ)


そして今日も学園は彼等教師の手によって運営されていく・・

 

198 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)(広島県) [sage] 投稿日: 2011/11/08(火) 12:03:21.08 ID:BGxXBRBSo
おまけ

靖男行きつけのラーメン屋に入った3人であるが狼子はとてもつも無い食欲で丼を増やしていく。

「おやっさん! ラーメンおかわり!!」

「あいよ!」

「お、おい・・月島、そろそろやめたほうがいいんじゃないのか?」

「まだまだ!!!!」

このラーメン屋は安さと美味さが最大の売りなのだがそれでも限度と言うものがある。

「ここのラーメン屋は本当に安いし美味しいな。狼子がお替りしたくなる気持ちもわかるぜ」

「(まずい・・明後日はHOlシリーズの最新作が発売だ。このままだと金が・・)な、なぁ・・お前等そろそろ時間も遅いから親が心配してr」

「「ラーメンおかわり!!!」」

「俺の・・俺の給料がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

残念なことに靖男は目当てのゲームが買えないばかりか、次の給料日まで食い繋ぐのにかなり苦労したそうな。

 

fin

 

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最終更新:2011年11月09日 14:41
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