無題 2011 > 11 > 12 ◆suJs > LnFxc

月曜の朝。
目覚まし時計代わりの携帯のアラームが鳴り響く。
以前はお気に入りの曲にしていたのだが、毎朝起きたくもないのに大音量で鳴り響かれていては、
1週間と経たずにその曲が嫌いになってしまう。
だから今は無機質なデフォルトの音だ。これならば、いくら嫌いになろうと関係ない。

「はぁ。月曜日かよ…鬱だ。鬱すぎる。365連休くらいにならねーものかね…」

ぼやいても現実は変わらない。ならばせめて…もう少し、だけ…惰眠…貪って…ぐぅ。

「おい忍ーッ!朝飯出来てんだからさっさと来いよ!冷めちまうだろうが!」

階下で母親が叫んでいる声によって、意識が少し覚醒する。うん、間違ってない。「母親」である。

母さんはあまり言葉遣いが宜しくない。
この男女差別にうるさい時代、男口調・女口調などと言ってしまうのはアレであるが、
どちらかと言えば完全に前者だ。

「わぁってるよ!今行く!」

そう投げやりに答え、階下へ降りた。



トーストと味噌汁という和洋折衷な取り合わせは、我が家では珍しくないし、別に嫌いでもない。
ぼんやりとトーストを齧りながらテレビのニュースを眺めていると、煙草の値上げの話題になった。
2012年度の税制改正に向けて、一箱700円がどうのこうのって話である。
我が家は母さんが喫煙者だ。
俺も厨二病をこじらせた時分には拝借した事があったが、美味さを理解する前に止めた。

「おいおい、また値上げだぁ?このババァ正気か?…はぁ、そろそろ止め時か?」
「とか言いつつ火ィつけてんじゃねーよ!人が飯食ってる時に!」
「あぁ、悪ぃ。換気扇トコ行くわ」

そう言って母さんはちょこちょこと歩いて行き、背伸びして換気扇のコードを引く。
見た目は身長140cm台半ば、顔も童顔。客観的に見たら小学生…は流石に無いが、
「小学生の頃から身長が変わらなかった中高校生」にしか見えないとは親友の談。
馴染みのスーパー以外では煙草を買う際に身分証の提示を求められると言ってキレていた。
言わばロリババァである。

「おい忍。お前、今何か失礼な事考えてただろ?」
「何で分かるんだよ!思春期のデリケートな心を見透かしてんじゃねーよ!」
「ふん。何年お前の母親やってると思ってんだ?」
「16年だろ…」

腕を組み、くわえ煙草で鼻から煙を出しつつドヤ顔をするロリババァ。しかしその仕草はオッサンそのものだな。

「そう、16年と…1ヶ月か。そういやお前、アレは大丈夫みたいだな?こっちは腹括ってたんだけど」
「勝手に覚悟決めてんじゃねーよ。俺は大丈夫、だな」
「へぇ、ヤる事ヤってんだ?あ、でも誕生日とは限らねぇんだよな。確率として高いってだけで」
「朝っぱらから何つー話題だよ!いい歳こいてサカってんのか!?」
「ふーん。どうやら根性焼き入れられてぇようだな。腕出せコラ」
「やめろォーッ!虐待反対ッ!」

15~16歳位までに童貞を捨てなければ女体化。それはこの世の掟で、小学校の性教育で習う一般常識。
この現象は童貞男子全員に起こるわけではない。全体の10%か20%か、まぁそのくらいだったはずだ。
ただしその10%か20%かを見事に引き当ててしまった場合、女体化は16歳の誕生日に起こる確率が非常に高いらしい。
故に16歳の誕生日と言えば一つの山場である。

かく言う俺、西田忍は…未だ童貞である。母さんからの問いに答える際、歯切れが悪かったのはそういう事だ。
実際、16歳になった夜はビビッて一睡も出来なかった。しかしそれは杞憂に終わったらしい。
誕生日を過ぎても厳密に言えば油断は出来ないのだが、もう1ヶ月も経っているのだ。
どうやら俺は運が良かったらしい。

「母さんの時、大変だったからねぇ。16歳の誕生日の朝、『お、女になってるー!?』って大絶叫してさ。
 向かいの僕の実家まで聞こえてきたくらいだし」
「克己てめえええッ!その話は止めろって何度言えば…!!」

今までニコニコしながら俺と母さんのやり取りを眺めていた親父がそう口にすると、母さんは顔を真っ赤にして親父に掴み掛かっていた。
そう、この口の悪いロリババァは元男なのだ。
素行や口が悪いのと喫煙癖は男の時の名残だそうだ。所謂DQNだったらしい。
それに対して、親父はとても大人しい人だ。
母さんとは幼馴染だったそうだが、180度キャラの違うこの二人が、何故結婚に至ったのかはよく知らない。
親のそんな話なんて聞いても、むず痒いだけだしな。

食後のコーヒーを飲み終え、ふと気付くと母さんは親父に頭を「いい子いい子」されて大人しくなっていた。
顔は相変わらず真っ赤だったが。いい歳こいてバカップル…いや、最早クソップルと言って差し支えないだろう。

「…さて、そろそろ支度しねぇと」

もう少ししたら涼二が迎えに来る。クソップルを尻目に俺は、洗面台に向かうのだった。



「忍が女体化してたらさぁ、秋代さんみたいになったのかね?」

登校中、たわけた事をほざきやがるのは幼馴染で親友の中曽根涼二である。

ちなみに秋代さん、と言うのはうちの母さんの事だ。確か男の時の名前は秋雄だと言っていた。
昔、一度コイツが俺の母さんに「おばさん」と言った事がある。
その時母さんは、顔はニコニコしながらも額に青筋を浮かべ、くわえていた煙草を噛み千切り、
持っていたビールの缶をグシャリと握り潰した。
幼かった彼にとって、それはそれは大変なトラウマになったらしく、それ以来秋代さんと呼んでいる。

「確かに俺は母さん似だけど、もう今更な話じゃねーか。俺は大丈夫だったんだから」
「まだ油断は出来ないだろ?俺、昨日あまりに暇だからネットの姓名判断で遊んでたんだけど」
「お前が一人寂しくパソコンに向かって姓名判断してる光景を思い浮かべたら、
 俺の方が悲しくて死にそうなんだが。どうしてくれんの?」
「まぁ聞けって。お前の名前でもやってみたわけ。
 そしたらさ、『西田忍』さんの人運は『意志薄弱 失敗 挫折 病弱 転換』だって!」
「…おいコラ。なんかネガティブな単語ばっかりじゃねーか!」
「俺が思うに、意思が弱い故に脱童貞に失敗し、挫折し、女体化病を患って性転換!って事だと思うんだが?」
「ざけんなああ!俺は生まれて名前を付けられた時点で女体化が決定してるって事かよ!」

朝の母さんとの会話と言いコイツと言い、何なんだ今日は。
ここらで流れを変えないと変なフラグが立ちそうだ。今更女体化なんて冗談じゃない。
話の矛先を涼二に向ける事にする。
コイツはイケメンのくせに童貞という矛盾した存在なのだ。せめてどちらかになればいいのに。

「ともあれ現に俺はセーフだ。それより次はお前だろ。まだ誕生日は暫く先だけど、アテはあんのか?」
「俺は…行くぜ!国営にッ!」

国営風俗。
女体化による男性の減少に歯止めをかけるために、政府が管理しているソープランドである。
どうやら在籍しているソープ嬢は、全員がかなりの美女だという話だ。
学校にも何人か行った事のある奴がいるが、そいつらの話を統計しても眉唾ではないと思われる。
望まない女体化を遂げた人が、これからの若い世代に同じ気持ちを味わわせまいとソープ嬢として勤めているという噂もある。
女体化した男が漏れなく優れた容姿になるのは周知の事実だ。となると、あながち嘘ではないのかもしれない。
ただし童貞専用施設なので、いくら気に入った嬢が出来ても2度と行く事が出来ないのがネックだそうな。

「なんなら、忍も一緒に行こうぜ。一人で行くのは心細いんだよ」
「俺はもう慌てる必要無いからなぁ。わざわざ高い金出して女とヤるってのも…」
「安心するにはまだ早いだろうが。相手のいない男が確実に『男』でいたいなら、そのくらいは必要経費なんだよ。
 それともアレか?初めての相手は藤本が~!ってか?男がそれは引くわー」
「おい、やめろ馬鹿。この話題は早くも終了ですね」

ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべる涼二を一発殴ってこの話は終わらせる。

…別に、藤本典子とは付き合っているわけではない。
あまり積極的に女子に絡めない俺に、中学時代から変わらずちょくちょく話しかけてくれる、貴重な存在の同級生。
彼女の向日葵が咲いたような笑顔が好きだ。と言うポエムじみた話を以前うっかりコイツにしてしまって以来、
そのネタで弄られるハメになってしまった。

初体験の相手が藤本であれば良いが、そんなのはあくまで理想だ。
健全な童貞系男子としては、突然家のベッドで美少女が全裸待機していたら、
それが好きな子でなくとも即ル○ンダイブは止むを得ないだろう。
それこそ有り得ないシチュエーションだが。
その後も涼二は、「国営は指名は出来るんだろうか?」とか、
「マットプレイはあるのか?」とか、そんな話を延々としていた。知るか。

適当に相槌を打っていたら、もう校門だ。
憂鬱な月曜日が始まった。



「西田君はまたカレーパンなんだねぇ。飽きない?」
「う、美味いモンはいくら食っても飽きねぇだろ」

昼休み。購買の争奪戦に勝ち抜いた俺と涼二が戦利品を貪っていると、藤本が通りがけに話しかけてくる。
もっと気の利いた返事が出来ないのか、俺は。言ってから後悔するのはいつものパターンだ。

「えへへ、私も好きだけどね、カレーパン。あと、椅子に片膝立てるのはお行儀悪いんだからねー?」
「へいへい」

そう言って藤本は、いつもの女子グループの方へ行ってしまった。一緒に弁当を食べるのだろう。
…椅子に片膝立てるのは、DQNな母親の影響だったりするのだが。

「顔、ニヤけてんぞ」
「…第40代アメリカ合衆国大統領はだーれだ?」
「全然関係ない話で話題をすり替えるんじゃねえええ!ちなみにロナルド・レーガンだ。
 しっかし、そんなに良いかね?藤本。まぁ悪くは無いと思うけど、もっと上がいくらでもいるだろ?」
「んーまぁ、な…」

藤本の顔の作り自体は中の上と言ったところだろうか。
確かに、中学の頃に初めてクラスが同じになった当初は、然程興味は無かった。
いつからだったか、藤本と話をするようになった頃。
あの笑顔が自分に向けられた時、初めて藤本を可愛いと思った。
あれから数年、悶々と片思いを続ける自分は本当にヘタレだと思う。

結局俺は女体化しなかったから良かったとは言え、誕生日の前は本当に悩んだものだ。
確実に男でいるには童貞を捨てるしかない、かと言って国営に行くのは嫌だった。
なのに藤本に告白する勇気があるかと言えば無かったし、誕生日から1ヶ月も経って気の緩んだ今は、もっと無い。
そんなヘタレな俺は、天に運を任せるしかなかったのだ。



午後の授業、教師が唱えるラリ○ーマは教室全体に甚大な被害を与えている。
いつもなら俺もすぐに寝てしまうのだが…今日は眠いと言うより、なんだか頭がボーっとする。視点が定まらない。
熱っぽい感じだ。風邪でもひいたのだろうか?

「おい忍、寝るのはいいけど頭揺らしすぎると目立つ…ってお前、顔赤いぞ?どうしたんだ?」

後ろの席の涼二が俺の肩を揺すりながら、小声で囁く。
自分では気付かなかったが、頭がフラフラ揺れているらしい。

「…なんか調子悪ぃ。熱っぽくて、ボーっとする…」
「なんだよ、しょうがないな。せんせー!コイツ、持病の仮病が悪化したみたいなんで、保健室連れてきます!」

涼二が張り上げた声のせいで、眠っていた連中の視線までこちらに向いてしまう。
つーか持病の仮病って何だよ。笑われてるだろうが。
このアホにツッコミを入れてやりたいが、今はそんな気力すら沸かない。

「そうか、持病の仮病か。…ふざけるなよ中曽根ェェッ!
 …ん?西田、本当に調子悪そうじゃないか。仕方ないな、中曽根頼む」

保健室に行かせてくれるのは有難いが、この状況は正直恥ずかしい。
ほら、藤本までこっちを見てるじゃねーか。心配そうな視線はちょっと、嬉しいけど。

「立てるか?」
「あぁ、何とか…うぉっ」

立ってはみたものの、足腰に力が入らずよろけてしまう。

「危なっかしいなオイ、マジで大丈夫か?…よっと!」

涼二が肩を貸してくれたので体重を預ける。
何とか歩けたが、教室を出たあたりから、全身の関節が痛み出す。
身体中が燃えるように熱い、息も苦しい。

「は、はぁ、はッ…!なんか、くるし、はぁっ、熱、痛ッ…!」
「お、おい?どうしたんだ?そんなにヤバいのか?救急車呼ぶか?」
「くそッ、なんだ、これ…!、っうッ…」
「…!?お前、なんか小さくなってねぇか…!?」

激痛を伴って、ゴキンゴキンと関節が悲鳴を上げている。
涼二の肩に担がれていた腕がずり落ちていく。
膝から崩れ落ちているのかと思ったが、そうではない。俺はまだ一応「立って」いる。
その意味がようやく分かる。背が、縮んでいる。

「おい、これって…」
「うるせぇッ!はぁっ、1ヶ月っ…経ってんだ、ぞっ…!はぁッ、今頃…!これは、風邪、だろッ!」

強がる声すら、既に俺の声ではない。

「馬鹿言って……ゃねーよ!……!誰…救…車呼ん…くれ!」

いつの間にか廊下に飛び出していたクラスの連中に向かって涼二が何事か叫んでいるようだが、
俺の脳は仕事を放棄したらしい。何を言っているのかを処理出来ず、殆ど分からない。
そのうち熱いのも、痛いのも、苦しいのも、感じなくなってきた。
それと引き換えに俺は、意識を失っていった。



ふと気が付いたら、頭を、髪を撫でられている感触があった。
柔らかい、小さな手。誰だろう。
誰だっていいか。気持ち良いし、今朝の惰眠の続きといこうじゃないか。

「おーっ涼二君じゃん、学校帰りか?わざわざ悪ぃね!」
「こんちわっす秋代さん。忍、どうです?」
「まだ寝てるよ。どうよ?アタシにクリソツだろ?」

まどろみから、急に現実に引き戻された。
母さんと…涼二の声がする。クリソツ?…なんだ?状況がいまいち分からない。
もぞもぞと上体を起こす。
全体的に白っぽい印象の、見慣れない部屋に俺は寝かされていた。
…病院の個室、か?

「ん、起きたか?気分はどうだ?我が息子、改め娘!『こっちの世界』へようこそ、ってか?」
「おーっ、マジで秋代さんにそっくりだなー!」
「はぁ?何言って…、…あーっ?ゲフンゲフン、ア゛ー?…何だこの声?つーか髪うざっ!なんでこんなに伸びて…、…あ、」

そうか。俺、学校でぶっ倒れたんだった。
慌てて自分の身体をチェックする。細く小さくなった手足、伸びた髪、張り出した胸、逆に何も無くなった股間。
…まさか。まさかまさかまさか…!

「落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…あれ?素数って何だっけ!?」
「てめー頭脳がマヌケか?」
「素数使えねええ!…あー。これはアレか。風邪の症状の一種か?」
「現実逃避してんじゃねぇよ!どっからどう見ても女体化だろうが!」
「ほれ鏡見ろ。これからずっと付き合ってくツラとのご対面だぞ」

母さんが化粧用の手鏡を取り出し、こちらに向ける。
確かに俺は母さん似だったが、そこまで女顔だったわけでもない。
それがどうだ。
鏡の向こうから、マジで母さんにクリソツな…猫みたいな大きな目をした少女が、こちらを見つめているではないか。

「やっぱり俺の予想は当たったな。忍が女体化したら秋代さんみたいになるって」
「はあああ…。マジか?マジなのか?俺はセーフじゃなかったのか…?」
「アタシん時は誕生日に朝起きたら、ってよくあるパターンだったんだけどな。
 お前みたいに誕生日を過ぎるケースだと、急な発熱、動悸、関節痛なんかを伴うものなんだとさ。さっき先生が言ってたよ」
「くそ、ぬか喜びさせやがって…!おいッ!この怒りは誰にぶつければいいんだよッ!」
「お前の普段の行いが招いた結果だろ。いや、この場合は『行わなかった』が正解か?」
「涼二ぃぃい!てめーも人の事言えねーだろうが!」
「病院で騒ぐんじゃねーよ。あと今のところ身体に異常は無いって。一応今日は検査入院で、明日には健康診断だけして退院だとさ」
「良かったね、忍ちゃん!って、あれ?名前はどうするんだ?改名するのか?」
「一応アタシらがコイツに名前を付ける時、男でも女でもいける名前にしようって事で『忍』にしたんだけどね。
 ほら、アタシは名前変えるハメになっただろ?…まぁ、忍がもっと女の子っぽい名前にしたけりゃ改名しても良いんだけどさ」
「…考えとく」

275 名前:268[sage] 投稿日:2011/11/12(土) 02:59:37.31 ID:fKtDv+sF0 [8/9]
その後、仕事が終わってから直行してきた親父も病室にやってきた。
俺がぶっ倒れて病院に運ばれた、と職場に連絡が行った時にはどうやら早退しようとしたらしいが、
命に別状は無いから仕事が終わってからで良い、と母さんに言われたそうだ。
まじまじと俺を眺めてから、一言。

「…母さんにそっくりだねぇ」
「またそのリアクションかよ!」

母さんが女体化経験者なだけに、両親ともショックは少ないようだった。
涼二も俺の容姿には興味津々な感じではあるが、
「女になったって言っても、やっぱり中身は忍だなぁ」とか言って笑っている。
てっきりお通夜のような空気になるかと思っていたが、親と親友の変わらぬ態度に、
俺は肩透かしを食らった気分になった。



3人が帰り、夕食に病院食を食べた。
不味くはないが、美味くもない。
いつもだったら物足りなく感じる量だろうが、残さず食ったら腹一杯だ。

「…胃も小さくなったんだろうなぁ」

胃だけじゃない。身体全てが小さくなった。
15~16歳位までに童貞を捨てなければ女体化。それはこの世の掟で、小学校の性教育で習う一般常識。
遥か昔から現代に至るまで、女体化を遂げた男はごまんといるし、何より俺の母さんもその一人だ。
女体化した当人の周りは多少の騒ぎになるものだが、世間からしてみれば今更騒ぎ立てる程の価値もない、
ちょっと珍しいだけの「普通」の現象。

先程まで病室にいてくれた3人だって特に驚いた素振りは無かった。
その空気に流されて、半ば他人事のように考えている自分もいた。
だがこうして一人になると、そう簡単に割り切れるものではない事に気付いてしまう。


もう藤本と「男女の関係」になる事は、永久に叶わない。
俺がいくら俺であろうと、身体の違いは決定的だ。
藤本や、周りから見たら同性愛…になるのだろうか?なるんだろうな、きっと。
恋愛対象の土俵に立つ事すら出来なくなってしまった訳だ。

無いとは思うが、仮に藤本に同性愛の気があったとしたら、
百合百合しい関係にはなれる可能性はあるが…俺はそれで良いのだろうか?
俺は身も心も男として、藤本の事が好きだったのだから。

…うじうじと考えていても仕方がない。
どうせ男のままでいても、ずっと片思いを続けていたんだ。
暫くは引き摺るだろうが、そのうち諦めが着くだろう。
せめてこれからは、「同性の友達」になれるよう努力しようじゃないか。
元男とも、仲良くしてくれるかな。そこは心配だが、少しずつでも前向きに生きようと思う。

眠りに落ちる前、少し涙が出た。


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最終更新:2011年11月19日 23:02
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