無題 2011 > 11 > 20 ◆suJs > LnFxc

さて、女になって2日目の学校である。
昨日程の騒ぎになる事も無く、比較的平穏な一日を過ごせていた。
今から行われるのは午前中最後の、体育の授業。
これさえ終われば至福のカレーパンタイムが待っているのだ。

しかし今、俺は人生最大と言っても過言ではない窮地に陥っている。
実際にこの状況に陥るまで、考えもしなかった事。
体育の授業。着替え。…女子更衣室。
俺は着替えを胸に抱えながら、扉の前で立ち尽くしていた。
ただの扉のはずなのに。
かの有名な、ロダンの「地獄の門」のようにも見えてしまうのだから不思議なものだ。

…バカな。女になって僅か数日の俺に、このエリア51並の立入禁止区域へ踏み込めと言うのか?
ゲーム開始直後にラスボスに挑むようなものだ。クロ○トリガーかよ。しかも強くてニューゲームじゃないし。

「んー?西田君、どうしたの?ほら、行こ!」

そんな俺の心境を知ってか知らずか、隣の藤本が煽ってくる。
足を踏み入れた瞬間に射殺されたりしないだろうな…。

若干疑心暗鬼になってしまうが、確かにさっさと着替えないと授業に遅れてしまう。
ええい、ままよ。この難関をクリアしない限り、女としての俺に未来は無いのだ。
意を決して扉を開け放ち、一歩を踏み出す。

…思っていたのとは違った。違ったけれども。
女子更衣室の着替えと言うと、そりゃあもう誰もが上も下も下着姿でウロウロしているものだとばかり思っていた。
目の当たりにしてみると、案外そうでもない。
下はスカートを脱ぐ前にハーフパンツを穿けば良いし、そもそも俺のように最初から穿いているヤツが大半だ。
上もまぁ、完全に隠す訳ではないが、決して見せびらかす訳でもない。
皆、適度な距離感を保って着替えをしているらしい。

要は皆、同性と言えどもそれなりの羞恥心を持っているのだ。
それが、良くない。
恥じらいを持って着替えている半裸の乙女達の中に、元男の自分が乱入しているという状況だけで充分、発狂出来てしまう。

ヤバい。ここにいたら、ただでさえ可哀相な俺の頭が、目も当てられない事になってしまう。
取り敢えず、着替えはトイレですれば良いじゃないか。そうすれば皆、幸せでいられるのだ。
そう思い、踵を返した瞬間だった。





「あっはっはっは!どこへ行こうというのかね?」

首根っこを掴まれ、捕獲された。どこぞの大佐…いや、植村に。

「逃げちゃダメだよー?子猫ちゃん!」

藤本ォォーッ!お前もかああああッ!!!

「え、いや、その…ちょっとトイレに…」
「アンタさっき行ってなかった?」
「頻尿なんだよ!言わせんな恥ずかしい!」

自らを貶める最低な嘘だが、この際もう何でも良い、とにかく戦略的撤退を…ッ!

「西田君、私の目を見て言ってみて?」
「すいませんでした」

いつものハイパー藤本スマイル。
だが、裏を返せば嘘吐きを駆逐する凶悪な兵器となり得る。
それは反則ですよ、藤本さん…。

「それじゃ、恒例のボディチェックといきますか。典子、逃げないように抑えてくれる?」
「りょーかい、玲美大佐!西田君、ちょっとだけごめん!」
「はぁ?恒例?……え、ちょ、藤本さん!?植村さんッ!?」

藤本が俺の脇の下に腕を通し、羽交い締めのような格好にされる。
…植村が手をワキワキさせてるんだが。

「さーて、御開帳ーっ!」

植村は俺のブレザーのボタンを素早く外し、そのままブラウスのボタンにも手を掛ける。

「おい、何やってんだよ!?女同士はこういうのが普通なのか!?」
「そんな訳ないでしょ。でもちょっと前まで男だった娘が、どんな身体で、どんな下着なのか…気になるじゃない?ふ、ふふ…」

植村の顔がヤバい。うわぁ…。
頼りになるはずの先輩、武井と小澤は哀れみの目でこちらを見ていた。助けてくれよ。

「と言う訳で西田君、ちょっとだけ我慢してね?大丈夫、怖くないからね~?」

それに比べてやっぱり藤本は良い子だなぁ。
…あれ?何か騙されてるような気がする。

「あ、脱がすなよおい!武井!小澤ッ!何とかしてくれ!」
「悪いね、僕らもやられたんだ。西田だけ助かるのは不公平だろう?まぁ同情はするけどね」
「うんうん、洗礼みたいなものだからね。受け入れた方が楽じゃない?」
「アッー」





「恒例の」って、そう言う事かよ…!
抵抗虚しくブラウスを脱がされ、キャミソールを捲り上げられてしまう。

「やっぱり大きいなぁ。ブラは薄緑ね、なかなか可愛らしい色じゃない」
「無地ってところに恥じらいを感じるよね!」
「心はまだ男なのにブラを着ける屈辱とか羞恥心とか、そう言うのがあるんじゃない?それを突くのが最高にイイんだけど」

植村は、俺や武井たちのような元男の羞恥心を弄ぶのが好きな変態だったらしい。
抵抗しても逆にそれは、植村の嗜虐心をくすぐる結果にしかならないようだ。
このサディストが…ッ!

「この変態淑女がああ!見世物じゃねぇんだよ!金取るぞ!」

強がってはみるものの、藤本の前で(と言うか藤本も加担しているのだが)醜態を晒してしまい、
真っ赤になっているのが自分でも分かる。
更にあろうことか、植村が胸を触り始めたではないか。

「んー。G65くらい?」
「何で分かるんだよ!ぁ、…!……ッ!!」

ヤバい、まただ。またあの感覚。

俺が藤本にやりたかった事を、藤本の前で、俺が植村にされている。
何なんだ、この状況…!
変な声が出そうになり、慌てて目を堅く閉じ、両手で口を押さえる。
膝なんて、ガクガクと大爆笑中だ。

「玲美、ちょっとやりすぎだよ!西田君が可哀相でしょ!?」
「はっ!私より大きかったから、ついどんなものかと…。ごめんね西田、大丈夫?」
「はぁ、はぁッ…!ついじゃねーよッ!この性犯罪者ッッ!」
「性犯罪者ぁ!?アンタだって思いっきり感じてたくせに!」
「~~~~ッッッ!!!」
「西田君落ち着いて!ほら、よしよーし。ごろごろー」

藤本に頭を撫でられる。
あったかい。ふわふわする。きもちがいい。

「…くそっ、早く着替えねぇと授業に遅れるぞ」

植村を止めてくれた藤本に免じて、ここは許してやろう。
植村も悪ノリが過ぎただけだろうしな、うん。
頭を撫でられたのは関係ない。…多分。

「典子、アンタ完全に西田を手なずけてるみたいね…」
「西田君は猫科だからじゃないかな?ほら、うち猫飼ってるし」
「猫科じゃねぇよ!せめて人間扱いしろよ!」
「可愛いから良いの!」
「…そっすか」

よく分からん押し切られ方をするハメになった。
…惚れた弱み、だな。
こんな感情は早いとこ消えて欲しい。
余計な事を考えずに友達でいられるようになれば、それは素晴らしい事だ。
女になってしまった以上、それが最良の関係なのだから。





「にしても西田のあのヨガり方、やっぱり噂はホントみたいね」

着替えをしていると、近くで同じく着替え中の植村が呟く。
視線を向ける勇気は無いので、頑なに正面を見つめながら返事をする。

「話を蒸し返すなよ…。あん?噂?」
「女体化した子は感度が良いんだって」
「はあああ!?」

全然嬉しくねぇ…が、否定は出来ない。
自分で触るのは平気だが、他人に少し触られたらあのザマだ。確かに異常としか思えん。
武井と小澤に聞いてみるか。

「…先輩方はどうなんだ?」
「僕は他人に触られた事が無いからね、彼氏もいないし。何なら西田、触ってみる?」
「勘弁してくれ」
「あ、えーっと…私も無いなぁ、あはは…」

武井はいつもこんな調子だから何とも言えないが、
小澤のうろたえ方は明らかに怪しい。
俺ばかり恥をかくのは御免だ。道連れは多い方が良い。
そうだろう?小澤よぉ…ッ!

「藤本先生『あれ』、やってやれ」
「よしきた!梓ちゃん、私の目を見てもう一度言ってくれるかな?」
「ちょ、ちょっと藤本ちゃんやめてよ!それは反則だって!」

藤本、恐ろしい子…!
あれ?そう言えば藤本って、女子の名前を呼ぶ時は下の名前で呼ぶんだよな。
何で俺だけ「西田君」なんだろう。少し寂しい気もする。

「…うぅ。実は今、彼氏がいて…」

多少粘ったようだが、あえなく小澤も撃墜されたようだ。
よく頑張ったよ、お前は。俺なんて即死だったからな。
俺が藤本をけしかけたとは言え、少し気の毒だったか?

「へぇー小澤、彼氏いるんだ?相手は誰なのかなー?」

植村はこの手の話が大好物のようだ。この機を逃す気配は無い。
弱り切った小澤に対しても追撃の手を緩めない。

「…浩一君、なんだけど…」
「浩一って、アンタが仲良いグループの田坂浩一?幼馴染って言ってたっけ?」
「ぅ、うん…」

恥ずかしいのだろう、顔を真っ赤にしてモジモジしている。完全に恋する乙女だな。
植村が根掘り葉掘り聞いたところによると、どうやら小澤はもう非処女らしい。
処女だの非処女だのと言われても、この間まで男だった俺にはピンと来ないが。

それにしても、女体化して付き合った相手が幼馴染かよ。
俺で言うところの涼二じゃないか。

涼二と付き合う?
手を繋いで、キスして、セックスして。
順調にいけば、結婚。
…無理無理無理ッ!考えたくもない。
昨日のアレも単なる礼であって、涼二もあれ以上を求める素振りは無いじゃないか。

でも、うちの母さんも女体化して、幼馴染みの親父と結婚したんだよな…。
いや、考えるのはよそう。アイツとはこれからもずっと幼馴染みで、親友だ。





体育の授業が終わった。

やっとカレーパンにありつける。
涼二が人混みから脱出して来たのを見つけて駆け寄る。
さぁ早く!早くこちらにカレーパンを渡すのだ!

「ほれ忍、今日の餌はカレーパンと焼きそばパンだぞー」
「餌って!俺は動物じゃねーぞ!つーか持ち上げんなよ!取れねぇだろ!」
「いやぁお前のさ、カレーパンを見て駆け寄ってくる感じとか、こうやって届かないカレーパンに必死で手を伸ばす感じが…
 餌を欲しがる猫みたいで…ぶふっ」
「…ッ!」

うぜえええ!!
笑いを堪えるクソ野郎に悪態をつこうと思ったものの、こちとら世話になっている身だ。
喉まで出かかった罵詈雑言をギリギリ飲み込む。

「そう怒るなって。そもそもお前、猫顔だしさ。ほら、今度こそ自分で大事に持っとけ。さっさと教室戻ろうぜ」
「…ふんっ。猫顔は母さん似だからだろ」
「秋代さんが親猫で、お前が子猫か。違和感ねぇな」

下らん事をほざく涼二はスルーだ。
愛しのカレーパンと、おまけの焼きそばパンを受け取り、教室に戻るために並んで歩く。
ふと隣の涼二を見上げると、額や首回りにしっとりと汗をかいているようだった。
そうか。さっきは体育だったし、続けざまにあの購買争奪戦だったからな。
ツーンとするようなキツい悪臭ではないが、少し汗の匂いがする。

涼二の、汗の匂い。…雄の匂い。
男の頃には気にも留めなかった匂いなのに、何故か妙に気になってしまう。
ただ臭いだけの汗は嫌だが、この感じは…何と言うのだろう。
ドキドキするような、惹きつけられるような、頼りたくなるような。
独り占めしたい。もっと近くで感じたい。

そんな事を考えている自分に、驚きと戸惑いを覚えた。
女子更衣室で考えた事を思い出してしまい、慌てて頭をブンブンと振る。

「どうしたんだお前?何してんの?」
「何でもねぇよ!つーか、お前ちょっと汗くせーぞ」

とっさに口走ってしまうが、「だがそれがいい」とまでは言えなかった。
言ってたまるか。自分でも理解不能なんだから。

「マジか!?キモいって言われるより臭いって言われる方がキツいッ!この精神的ショックは計り知れねええッ!
 …はぁ、スプレーでも買うかな…」
「あ…いや、そこまでしなくて良いんじゃないか?そんなに気になる訳じゃないからさ。大丈夫だろ」

何となく、この匂いを消されたくなかった。

「そうかぁ?でも匂いはするんだろ?女になるとそういうトコも敏感になるのかねぇ」
「知らねぇよ…」

ホント、女の身体ってのはよく分からん。





「そうだ、お前にこれ買って来てやったんだ。やるよ」

カレーパンに舌鼓を打っていると、涼二が可愛らしくラッピングされた謎の物体を机に置いた。

「…何だよコレ。この世の物とは思えないほど怪しいぞ」
「でも可愛らしい包みじゃないか。プレゼントかな?」
「騙されんなよ、こいつが俺にマトモな物を渡すとは思えん」

横から口を出してきた武井に忠告する。
…マジで怪しい。
涼二と、可愛らしいラッピングのプレゼント(?)。更に渡す相手は俺だ。
こんなに不気味な組み合わせはそうそうあるものではない。

「まぁ開けてみろよ」

このままでは埒が明かないと判断したのだろう、涼二が促してきた。
仕方ないので嫌々開封する。

…これ。国民的人気キャラクターのキ〇ィちゃん、か?

「…ストラップ…?」
「何だ、普通に可愛いストラップじゃないか。女の子はこう言うの好きだからね。中曽根は案外、手が早いのかな?」

女になったとは言え、俺はこの手の物は別に趣味ではない。
だが武井の言う通り、世間一般の女の子なら好む代物だ。

え、何?
俺、涼二に女の子扱いされてる…のか?

かぁっと顔が赤くなったのも束の間、パッケージに書かれた文字が目に入る。

「…防犯ベル?」
「そ、物騒な世の中だからな。小学生くらいの子供は誘拐とかされてもおかしくねぇし」
「俺、高校生だけど」
「そりゃ俺らは分かってるけどさ。誘拐犯が見たらどうだろうな?」

涼二が言わんとしている事を理解した瞬間。
俺の顔の赤色は「恥じらい」から「怒り」へと、その意味を変えた。





こ、この野郎…!
どうせマトモな物は寄越さねぇと思ってたけど…!
俺を馬鹿にするために無駄金使って買ってきたとか手ぇ込みすぎだろッ!!

俺が怒りのあまり言葉を失っていると、これを素敵なプレゼントだと勘違いしていた武井が口を開いた。

「そういう事か。西田、どうやら中曽根は君の事をちんちくりんと言いたいらしいよ?」

うん、知ってるんだけどね、武井。
いちいち声に出して言わなくても良いんだよ?
イラっとしちゃうから。ね?

「おいおい、折角俺がオブラートに包んだ言い方をしてやったのに。武井は酷いヤツだなぁ」
「おっと、これは失礼」
「あはは」
「ふふふ」

あ、ダメだこれキレるわ。

「てめぇらああーッ!!人の身体的特徴を馬鹿にすんなって小学校で習わなかったんですかあァァァッッ!?」
「はいストップだよー西田君。怒っちゃダメ!」

机を叩きながら怒りの咆哮を放っていると、突然割って入ってきた藤本にまたもや頭を撫でられる。
西田忍、完全に沈黙。

「ん?何これ、キ○ィちゃんのストラップ?……じゃなくて防犯ベル…っぷぷ…」

そして続いて現れた植村が、またもや話を蒸し返す。何なのコイツ。

「せっかく俺が買ってやったのにさぁー、怒るんだよコイツ」
「あっはっは!そりゃ怒るでしょー!」

俺の怒りは正常なんですね。良かったです。

「まぁ何にせよ、せっかく中曽根がアンタに買ってくれたんだから。西田、携帯貸しなさい」
「あ、おいこら!」

許可していないにも関わらず、植村は机に置いてあった俺の携帯を勝手に奪う。
そして実に手早く、この忌々しいストラップ型防犯ベルを付けてしまった。

「何かスマホにストラップって似合わないかも」
「えー?キ○ィちゃん可愛いから良いんじゃないかなぁ」
「おいィ?持つのは俺なんだが?」
「ピンチになったら作動ピンを抜くんだぞ、忍!」
「使わねーよハゲ!!」

見た目は、少し大きめのキ〇ィちゃんのストラップだ。その辺のJKが付けていてもおかしくはない。
はぁ…。ま、良いか。

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最終更新:2011年12月08日 05:08
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