>>8 「やーいやーいデカ女ー!」
「アンドレ・ザ・ジャイアントー!」
「なんだとガキども!!」
「うわーい!アンドレが怒ったー!」
「にっげろー!」
「待ちなさーーーい!!!・・・ハァ」
走り去る近所のガキどもの背中から目線を足元に下げ、私はため息をつく。
確かに身長180センチ超の女子高生の方がおかしいんだろうとは思うけれど・・・人の体のことを言うのは反則だ。
しかも私の名前は大林朋子・・・どっかのスポーツ選手の名を体で表すかのような・・・いや、この使い方は間違いかな?
こんなガタイなものだから、いつもバスケ部やバレーボール部と間違われたり、両者からの度重なる勧誘もあったのだが・・・
実は私、手芸部だ。こう見えて手先はなかなか器用なんだよ?
しかし、恥ずかしながら今まで一度の恋も実ったことがない。
理由は、勿論身長。
自分より背の高い女とは付き合えない。口には出さずとも、雰囲気でわかった。
それでも、この身長のおかげで得をした経験も山のようにある。
男相手でも喧嘩には負けたことが無いし、同世代の女の子達が抱えられもしないものを片手で持ち上げる馬鹿力、
また何故か女の子には変な意味でモテモテ、その他云々・・・これでは余計に男子からは敬遠されるわけだ。
「ハァ・・・」
軽く蹴飛ばした小石が、私の足元から弧を描いて家々の屋根の向こうに消える。
驚いた?私には朝飯前。なんならあんたのケツでも蹴っ飛ばして鳥の気分を味わわせてあげようか?
・・・なんてね。
「朋ちゃん・・・」
振り返ると、大きな荷物を抱えた小柄で気弱そうな女の子。
・・・まあ、この子もつい先月までは小柄で気弱そうな『男』だったわけだが・・・理由はわかるよね?
ちなみに彼女の名前は真琴。男だった頃からこの名前だ。
男だった頃から小さく細っこくて、性格を見てもまるで男らしさと無縁なキャラクターだったものだから、周りからは随分いじめられていた。
・・・ま、そのせいで私が男相手の喧嘩などという小学生みたいな事をする羽目になったわけだが。
そういうわけで、手芸部唯一の男子部員だったこの子は、その性格が災いしてかこんな有様になったわけなのだが・・・
・・・しかし、神様は不公平だ。この子に与えた半分でもあたしによこしゃあ良かったのに。
「いつまで待たせんのよもう・・・さっさと帰るよ」
「あ、うん・・・」
私がさっさと歩き出すと、真琴はその後ろを小走りについてきた。
・・・ドイツ人と散歩すると疲れるというが、私と同じペースで歩こうとすると、どうしても小柄な真琴は小走りになってしまうわけだ。
「あ・・・と・・・朋ちゃん」
「・・・なに」
疲れを訴えたのかと思い、振り返る。
今日はバテるのがやけに早い・・・いつもはもう少し頑張ってついてくるはずなのに。
「・・・僕、朋ちゃんの味方だからね」
「・・・はぁ?」
腑抜けた声で答えると、真琴は赤面してうつむいた。
そこで一瞬沈黙が流れる。
そして、こちらに顔を向きなおしたとき、その目には今までにないくらい強い光が宿っていた。
「誰が何を言ったって、・・・僕は、朋ちゃんのこと、わかってるから!」
「・・・プッ」
思わず吹き出してしまい、私は真琴に背中を向けて身体を丸める。
「なんで笑うのー!」などといいながら、真琴はその背中を殴る。
「あははは、ごめん、だって、いつになく真剣にそんなん言うから」
「もー!せっかく恥ずかしいの我慢して言ったのに!もう朋ちゃんなんて知らない!」
ぷんぷん怒りながら、真琴は先に立って早足で歩き出す。
「ごめん!あはははは、真琴の言いたいことはわかったからさ!ありがと!ちょっと楽になった」
「もう知らない!」
「まあまあ、これ持ったげるからさ」
そう言って真琴の抱えた無闇に大きな鞄を掠め取ると、私は一目散に駆け出す。
「ま、待てーーー!!」
「捕まえてみなー♪」
これからも私は自分の外見・・・あと、性格と戦い続けることにはなりそうだけど・・・それでも。
横に居てくれる人が居れば。理解してくれてる親友がいれば、きっと大丈夫なんだろうと思った。
・・・後日、この親友と親友以上の関係になってしまうことは・・・ま、関係ないので割愛しとく。
―fin―
最終更新:2008年07月21日 01:30