待ちに待った夏休みも、今日で半分が経過したことになる。
それはつまり、終業式の朝16の誕生日を迎え女体化した俺が、女として大体二十日目の朝を迎えたことにもなる。
外では蝉が泣き喚き、アスファルトの上では小さい蛙がジリジリ照り付ける太陽光で干からびていた。
こんな日はクーラーの効いた部屋でレモネードでも飲みながらごろごろするのがいい。
だがしかし、そんなささやかな願いをも踏みにじり空気読めない電話を入れてくるのも幼馴染というものである。
『プール行かないか?』
この幼馴染が女であったなら二つ返事で了承しているどころか、今の俺が女であったことすらなかったであろうと勝手に思っている。
大体このクソ暑い中市民プールまでチャリをこぎこぎ汗だくになって向かうのはしんどい。
『プール行こうぜ!今すぐ行こうぜ!水がチャプチャプしてるんだぜ!』
んなこたぁわかっとる。当たり前だ。
水の無いプールなんてただの溝だ。
『水着の女の子もたくさんいるよ!視姦し放題だよ!』
二つ返事で了承した。
「うわぁー・・・いいなあ、ビキニ・・・」
隣りで奴が水着の女を視姦している。
視姦されている女は、姉貴から押し付けられたビキニを無理矢理着せられた俺である。
とりあえず奴の伸びた鼻面をグーで殴ってやった。
「・・・話が違うぞ」
奴の言った水着の女の子など、ここから見る限りほとんど見当たらない。
いても若すぎたり、老けすぎていたり、要するに子供とおばちゃんばかりで、
他の客はなんだかわからないおじさんやもてなさそうな若い男の集団。むしろ俺はそいつらに視姦される側だった。
なんてことだこんちきしょー。
幼馴染の顔面にグーパンチをもう一度お見舞いした後、俺は粘っこい視線の集中砲火を拭い去るべくプールに入り、緩やかに泳ぎ始めた。
日光に火照った身体に、程よく冷たい水が心地よい。現金な話だが、なんとなく「ああ、来てよかったかな」などと思えてくる。
ゆるゆる泳いでいるうちに少しく調子が良くなってきたので、
消防の頃から通っていたスイミングスクール仕込のバタフライで25メートルしかないプールを突っ切る。
ふふふ。馬鹿男どもの呆然としたアホー面が目に浮かぶ。
折り返し背泳ぎ。
身体を微妙にひねりながら手を大きくかく。気分がいい。
気分良く泳いでいるとあっという間に手がプールのヘリに当たり、俺は体を水中で翻すと、へりに手をかけてプールを上がった。
「「「おおおー!!!」」」
その途端、男どもの野太い歓声。ふふん。この俺の華麗な泳法に魅了されたというわけか。
やはり天才は肩身が狭い。
「・・・お・・・おい・・・・」
目の前で待っていた幼馴染が、真っ赤な顔で俺を指差す。理解できず見つめ返す。
と、奴の視線と指先が俺の胸に向かっていることに気付き、視線を下げると・・・
「・・・・・・・・・いつから?」
「・・・背泳ぎのときから」
「・・・・・・・・・・」
無言で殴りまくってやった。
しかし奴は弛緩しきった顔のまま、何度殴っても嬉しそうにするばかりだった。
許せん。あしたからはこいつへの仕返しを考えることにする。
うが。
最終更新:2008年07月21日 01:31