安価『逃亡』

今、俺は2人の幼馴染から逃げるために走っている。
ブラジャーもつけずに男物の服のまま走っているので胸が擦れたり揺れたりして痛い。
さらに、下校途中の高校生や遊んでいる子供が俺をガン見している。
だが、そんなことは気にならないほど俺は焦っている。
他人からしたらバカバカしい理由かもしれないが、今の俺にとってはかなり大切なことだ。


今から約10時間ほど前のことだ。16歳の誕生日の朝、起きたら俺は女体化していた。
まあ、することもしていなかったし仕方がないか。そうは思ったものの、やはり悲しい気分になる。
とりあえず、学校に女体化するため今日は休むと連絡をいれた。
それから女物の服を買いに行こうと思ったのだが、ここで一つ問題が生じる。
近くの服屋までそこそこの距離(おそらく1~2km)があるということだ。
さすがに下着もつけずに男物の服のまま長時間外に出て女物の服を買いに行くのには抵抗がある。
そこで、幼馴染の高橋早希に女物の服を貸してもらうことにした。
今からメールをしておけば家に帰ってくるまでには俺のメールに気がつき適当にサイズの合う服でも持ってきてくれるだろう。そう思い、早希にメールをした。
今思えば、これが大きな間違いだったのだ。
それから俺が女体化してから9時間後、つまり2人の幼馴染から逃走し始める1時間前、早希と、もう1人の幼馴染である山崎裕二が俺の家まで服を届けにきてくれた。
早希は両手に大きな紙袋を持っている。
ん?何で服を届けるのに裕二までいるんだ?
「服を届けにきてくれたのは嬉しいんだが……何で裕二までいるんだ?」
「なんでって……そりゃあ大親友の藤本明夫くん……いや、藤本明子ちゃんが心配だからに決まってるじゃないか。」
いつから俺は明子になったのだ。
「勝手に改名するなよ。身体は女になったとはいえ、心は男のままなんだからな。」
「まあまあ、私たち大親友なんじゃない。それに細かいことは気にしない気にしない。」
裕二も早希もやたらニヤニヤしている。何となく想像がつく。
こいつらは間違いなく俺が女物の服を着る姿をからかいにきたのだ。
まあ服を持ってきて欲しいと頼んだのは俺だしこれくらいは我慢するべきだろう。

「まあそれはともかく……どんな服を持ってきてくれたんだ?新しい服を買うまでの繋ぎとはいえ、やっぱり気になるしな。」
「ああ、その服だったら全部明子にあげるわよ。間違いなくあたしは着ないものだしね」
勝手な改名はともかく、どうやら服をくれるようだ。今度飯でも奢ろうかな。
そんなことを思いつつ早希から紙袋をもらう。
気になるのは2人の顔がずっとにやけていることだ。
まさか露出度の高い服でも持ってきたのか?なんてことを考えながら紙袋の中身を見てみる。
中からメイド服がでてきた。
…………………………は?
まさかと思い紙袋を逆さにして中のものを全部出した。
出てきたのはナース、猫耳、その他コスプレ衣装etc……
普通の服は数着しか入っていない。
それもやたら短いスカートなどの露出度が高いものだ。
なんとなく2人の考えが読める。間違いなくこの2人は俺にコスプレをさせる気だ。
チラッと早希の方を見る。
「当然でしょ?目の前に美少女がいるってのに。」
いや、理屈はおかしい。
「おとなしくしてろよ。すぐに立派なコスプレ美少女にしてやるからな。」
気がつくと後ろに裕二がいた。
まずい……!
俺は家を飛び出した。

「逃げたぞ!早希、追うぞ!」
「もちろんよ!」
家を出る時そんな言葉が聞こえた気がする。


そんなこんなで今俺は走っている。
かれこれもう30分だろうか、しかし体力のあった男の身体と違い、限界はすぐにやってくる。
オマケに向こうは二人掛かりだ。すぐに捕まるに決まっている。
諦めて捕まってしまおうか……ふとそんな考えが頭をよぎる。
いや、それだけは駄目だ。早希と裕二に捕まったが最後、元男として大切な何かを失ってしまう気がする。


「あ、明子ちゃん発見!」
やばい、見つかった!
力を振り絞って走り出す。早希相手ならまだ振り切れる可能性がある。女になったとはいえ元男だ。負ける訳にはいかない。
「裕二、そっちの方向に逃げたわ!」
どうやら2人は携帯電話を使って連絡をとっているようだ。
「そこまでやるか!?」
つい本音がでる。本当なら無言で走ればいいだけなのに。
「あたし、美少女にコスプレさせるのが小さい頃からの夢だったの!あんたか裕二が女体化したら絶対コスプレさせてやるってずっと思ってた!」
「このド変態がっ!!」
そろそろ体力もきつい。コスプレさけるにはもう一つしかない。
この2人に悟られないように家に戻り、鍵をかけ、コスプレ衣装をすべて捨てる。
それですべてが丸く収まるはずだ。
最後に早希を見かけてから20分後、なんとか俺の家に戻ることができた。家を飛びたしてから1時間は立っているが妙に懐かしいような、嬉しいような気分になる。
のんびりしている暇はない。さっさと家に入って鍵をかけなければ。
そう思ってドアを開けると、裕二が満面の笑みで立っていた
………………なんで?


男である裕二と元男である自分では勝てるわけもなく、あっという間に捕まえられる。
「くそ……お前ら、携帯電話で連絡を取り合って俺を追い詰める作戦じゃ……!?」
「最初はそのつもりだったさ。ただ、ついさっき早希からお前が家の方向に戻るって言われてな。俺が家でお前を待ち伏せることにしたのさ。」
どうやら俺の作戦は失敗していたようだ。
だが、俺が今考えるべきことはそんなことではなく……


「裕二!確保したのね!?」
早希が帰ってきた。俺の死刑タイムスタート。
「早かったな。じゃ、さっそく始めるとするか。お前が帰ってくるまでずっと我慢してたんだからな?」
「じゃあ、まずこれなんかいいんじゃい?」
そう言って早希が取り出したのは俺が最初に見つけたメイド服だった。やたらスカートが短く、胸元が大きく空いている。間違いなく本物のメイドは着そうにもない。
「おい、早希。下着も忘れるなよ?こいつ走ってる途中もずっとノーブラだったはずだしな。」
そう言って裕二は女物の下着……すくなくとも俺にはただの紐にしか見えないが。
「な、なあ……2人とも……冗談だろ……?そろそろ話してくれよ……」
最後の抵抗だ。自分でも声が弱くなり涙目になるのがわかる。
だが、それが逆効果だったようだ。
「そんなわけないじゃない!さあ、覚悟を決めなさい!」
「あきらめろ!お前はもう明夫ではなく明子ちゃんなんだ!」
やたら目が輝いている2人が俺にせまる。
「おい、やめっ……!あわああああああ!!」


それから数年後、俺がコスプレに目覚めるのだが、今の俺や早希、裕二にはそんなこと知る由もない。

~おわり~

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年04月19日 14:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。