無題 2013 > 08 > 01 ◆fJTEST3ltw

「好きです。付き合ってください」

「えーっと……リョウくん?たしか私が女体化した元男だってこと……言った……よね」

「はい、聞きました。そのことも、先輩の性格とか外見とかも全部含めて先輩が好きです」

「…………うんとさ、私女体化してから誰かを好きになったとかなくてさ……だから、友達から……でいいかな?」

本人が言ったとおり、俺が告白した人は厳密に言えば女性ではない。
言葉の通り、女体化した元男なのだ。

15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化するウイルス。
そのことで一時期は大騒ぎになったが、世界中の国が全力を尽くしてそのことについて研究したおかげで、わずか数ヶ月でウイルスのワクチンが作られたのはずいぶん前のことだ。

ただ、先輩のようにたまにワクチンが聞かない人間もいる。
ちなみに俺もそういうタイプの人間だ。さらに余談だが俺の誕生日は3月なので16歳の誕生日までかなり余裕がある。
そのような人については、

「がんばって童貞を卒業してください」
というのが国の意見だそうだ。
命に別条もなければ、女体化する確率も10%以下と、かなり低いのでほぼ放置されているといっても過言ではない。

そして、先輩は去年の16歳の誕生日に女体化してしまったらしい。

女体化した人間に対する世間の目はなかなか厳しい。だいたいの人から男性としても女性としても扱ってもらえない。
中には、付き合っていた彼女が女体化した元男と知っただけで別れた男もいるだとか。
先輩と出会ったのは高校に入り、コンビニのバイトを始めた時だ。

「君の指導をすることになった○○です。ちなみに女体化した元男です。よろしくっ」
と言われたのがとても印象的だった。

本人曰く、
「どうせ隠してもいつかはバレるんだし、そんなら早めに言った方がよくない?」
とのことだ。

先輩と俺は趣味もあい、たまたま帰り道も一緒だったのでシフトが同じの日はよく一緒に帰っていた。
先輩に惹かれ始めたのはその頃だ。肩くらいまである綺麗な髪、スレンダーな身体、サッパリとした人見知りしない明るい性格、先輩が女体化したということなんか関係なしに俺は先輩を好きになっていた。

そしてバイトを始めて数ヶ月たった、ある日、俺はバイトの帰り道に先輩に告白したのだ。
暑い。
夏の日差しが容赦無く照りつける。
あれからまだ半日も経っていない。俺は、通学路をひたすら歩いていた。

うちの学校は夏休みにも関わらず、いや、最近はどこもそうなのかもしれないがとにかく夏期講習というものがある。
そのためにわざわざ夏休みの午前中を潰すなんて馬鹿げている話だ。

だが学校へ向かう足取りが重いのは間違い無く暑さのせいでも夏期講習のせいでもない。

昨日の先輩の困った顔が脳裏に浮かぶ。悪いことをしてしまったなと思う。
俺にはよくわからないが女体化したとはいえきっと心は男なのだ。女の子を好きになるのが普通だろう。

そんなことを考えていると、急にバチン!と背中に衝撃が走った。

「ようリョウ!どうしたあ!?元気ねーぞ!」

「いってぇ……なんだ山内か」

「なんだとはなんだ!このささくれっぷり…………さては貴様フラれたな!相手は……いや、言わなくてもわかるぞ、お前のバイト先の先輩だろ!?大方友達としか思ってないとか言われたんだろ!まあ美人だもんなーあの人。というより可愛い系か?俺もあそこのコンビニはよくいくからな~。前なんかリョウと先輩で仲良く二人でレジ打ちなんかしちゃって!ざまあみやがれ!」

声をかけてきたのは山内だった。
入学当初、席が近くお互い帰宅部だったのですぐに仲良くなったのだが、見ての通り良く言えば元気、悪く言えばうざったい。
あと空気の読めない節がある。

今回に限ってはハイテンションに加え、言ってることがほとんどあっているのが余計に腹だたしい。
こんな奴ですら彼女がいるらしいというのに、俺って男は……


「だいたいあってるけどイラつくからとりあえず腹パン一発な」

「うげぇ!!」

「ところで山内、今日暇か?」

「人を殴っといて何事もなかったかのように……まあ暇だしいいけどよ。先輩のことで相談か?」

「お前はマジてエスパーかなにか?とにかく放課後付き合ってくれ」

山内はこれでも彼女がいる。少なくとも俺よりはずっと女心がわかるはずだ。山内の知識が女体化した人にも当てはまるかどうか、は別として。
「で、一応確認するが相談ってなんだ?まさか先輩が非処女だったとか?」

「真面目な話だ。お前の想像通り、先輩のことで相談だ」

講習のあと、俺と山内は近くの喫茶店に入った。中に入ると、冷房がきいていて汗がひいていくのを感じた。

正直、おれは先輩が女体化した人であることを打ち明けるかどうか迷っていた。
だが、俺の悩みはこのことが前提なのだ。まずこれを話さなければ何も始まらない。
これも先輩のことを少しでも理解するためなんだ。そう自分に言い聞かせて、俺は口を開いた。

「俺が告白した先輩さ、あの人……女体化してるんだ」

山内の表情がなくなった。
いつもはうるさい山内が、急に黙った。

何分経っただろうか、体感で三十分ほどたったとき、ようやく山内が口を開いた。

「お前……それマジで言ってんの?」

「……ああ」

「お前はそれ…………知ってたのか」

「……ああ」

「…………わりぃ。人の趣味にとやかく言うつもりはねーけどよ、俺には理解できねえ。元男だったんだろ?俺なら絶対無理だ。そんなん考えらんねーよ」

やっぱりこうなるのか。
あまり考えないようにはしていたが、なんとなくこうなるんじゃないかって心の隅では思っていた。
それほどまでに世間の目は厳しい。
女体化した人が誰かを好きになるということは、身体面か精神面のどちらかで同性愛者となってしまうのだから。

「わかんなくてもいい。ただ、おれが先輩に告白したことで先輩がどう思ってるのかが知りたいだけなんだ。もし、先輩が女の人が好きで、今回のことで迷惑したり不快に思ったんなら謝りたいっておもってる」

「……まあお前がそれでいいって思ってるんなら口出したりはしねえよ。というより、そんならもう何をすればいいかは決まってんじゃねーのか?」

「どういうことだ?」

「お前は先輩の気持ちが知りたいんだろ?そんなら図書館なりインターネットなりで女体化について調べればそれで解決するんじゃねえの?」

頭にガツンと衝撃がきた気がした。
完全に忘れていた。
少ないとはいえ、女体化した人はすでに何人もいる。
だとすればそれについての本がでてたりインターネットに何かしら情報があるのは当然なのだ。

「それだよ!山内、ありがとな。なんか好きなの頼んでくれ。図書館行ってくる」

「おい!まて、言いたいことが……!」


財布から千円札を二枚抜き出しテーブルに叩きつける。

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最終更新:2014年04月19日 14:56
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