うちの学校の修学旅行のしおりにはこんなことが書いてある。
『修学旅行中に女体化した場合、一日の間他生徒との交流を禁じ、担任と女性教諭一名とともに身支度を整えること』
まさか女体化するバカなんていないだろうと思ってた。
16歳を過ぎて女体化、ましてや修学旅行中になんてな。
高校生活最大の行事、修学旅行が台無しになっちまう。
でもな、時たまいるんだよ。そういう本当に運の悪い可哀想な奴が。
しかも最終日間近の沖縄観光の日にな。
「いやーお前も可哀想なやつだよなぁ。まさか修学旅館中に女体化するなんて」
「うるせぇ!俺だってこんなんなりたくなかったんだよ!」
「ん?いいのか?タメ口きいていいのか?内申点さげちゃうぞ~」
「ほんとやってらんねえよ、クソ」
そうだよ。俺だよ。女体化して修学旅行を台無しにした運の悪い可哀想なやつってのは。
姫野薫十七歳。悩みは名前が女っぽいこと。現在修学旅行中に女体化して、旅館の部屋で担任と二人きりの時間を過ごしています。
ちなみにこいつの担当科目は倫理政権。無精髭がチャームポイントの三十七歳独身だ。フレンドリーで親しみやすい性格もあり生徒からの評判は上々ってところだ。
「まあそうカッカすんなって姫野」
俺の背中をバンバンはたきながら担任は続ける。
「もともと女っぽい名前だったんだしこれで問題ないだろ」
笑顔でのサムズアップ。
『いいこと言ったね俺!』みたいな顔しやがって。
ぶん殴りたいこの笑顔。すっげー殴りてえ。
このサムズアップは担任の癖みたいなものだ。誰か(主に生徒だが)をからかう時の癖。それはわかっている。
だが今は無性に殴り飛ばしたい!
「よしわかった、落ち着け!その制服似合ってるぞ!最高だ!よし、これで満足だな!」
「殴らせろ!一発でいいから!」
「まあマジでさ、前向きに考えろよ。今から二十年くらい前なんでまだ女体化した人は――」
それはもう知っている。
昔と比べて今が恵まれている状況だってのは。
だがそれは当然のことだ。
時が経てば文明が進歩するように、物事はいつかは良くなっていくのが自然というものだ。
少なくとも俺はそう考えている。
あれ、てことは今の状況も……ってさすがに無理か。修学旅行がもう一度くるなんてことあるわけがない。
だからイライラしているというのに。
「それと、あまり不幸ぶるな」
「どういうことだよ」
担任が顔をしかめた。
「不幸なのはお前だけじゃないってことだ」
何が言いたいんだこのおっさん。
まったくもって意味がわからない。
「俺は現役女子高生の水着が見たかったんだよ畜生おおおおおお!!」
あいた口が塞がらないとはこの事を言うのだろう。間違いない。
先程も述べたが俺が女体化したのは沖縄観光の日。もとい、生徒のほとんどが海で泳ぐ。
俺も友人達と泳ぐ予定だった。
こいつのような邪な気持ちが少しもなかったと言えば嘘になるのだが……
「うわあああああ!!なんで女体化しちゃってるんだよお前!本当なら今頃女子高生視姦し放題だったんだぞ!?なのにこのくそ暑い中、ババアとお前で買い物にいくとかなんなんだよ!!マジであり得ねえから!!!」
あいた口が塞がらない。
本当にアンタ教師なのか!?教師をしていいのか!?
つーかババアもくんのかよ!
ババアってのはうちの学校の馬場田先生のことだ。毒々しい色の髪、馬鹿でかいピアス、血を連想させるような唇。生徒からは畏怖の対象として見られている。担当科目は……忘れた。なにやってんだっけこの人。記憶にないぞ。
担任は未だに意味のわからない言葉の羅列を叫んでいる。
これ迷惑行為でホテルの人とかくるんじゃないのか。
そう思った刹那。
「うるさいわよ山内先生!私だってねぇ、水着の男子高校生見たかったわよ!」
「うげぇ!馬場田先生!」
ババア襲来。
戸をあけて叫ばれました。
おいまて。ズンズンとこっちの部屋へ入ってきてるぞ。くんな。帰れ。
そして担任、もとい山内に強烈な平手打ち。
間抜けな声を出しながら床にたおれこんだ。ババア強え。
「山内先生、あんたアタシのことババアとか言ったね!?あたしゃまだピッチピチの五十代だよ!!ただ周りにいい男がいなかっただけさ!だから今回いい男を見つけ出そうと思ったのに!そもそも――」
怖えよババア。
午後からこの三人で身支度整えるなんて想像もしたくない。
この世に地獄があるとするなら多分ここだ。
女体化してなんてクソくらえ。
「姫野!あんたもなに女体化してんのよ!あんたはアタシのお気に入りランキング――」
訂正。
女体化バンザイ。
女体化最高です。文句なんて言いません。
おわり
最終更新:2014年04月19日 15:12