『狼子、銭湯に行く』

『狼子、銭湯に行く』

ある夏の夕方・・・私の部屋の風呂が壊れた。業者が来るのは明後日の午前中らしい。
しかし、暑さに加えてじめじめし始めるこの時期、明後日まで風呂を我慢するなんて到底考えられないことなので、
私はいつも通学中に前を通り過ぎるだけで一度も入ったことのなかった銭湯に行ってみることにした。

 ピポピーンポーン

玄関のチャイムが鳴る。
2連打はあいつの訪問のしるし。
以前、変な人につけ回されて酷い目に遭った経験から、そうしてもらうことにしている。
覗き窓から確認してから、ドアを開ける。
洗面器にタオルと替えの下着だけ入れたあいつが立っていた。
こういうとき、持ち物が少なくて済んだ男の頃が懐かしくなる。

「遅いぞ!さっき電話してから三十分も経ってる!」
「仕方無いだろ。電話来たとき家の外にいたし。これでも早く来れた方だと思うぞ」
「うるさいうるさい!お前そこで待ってろ!今準備してくるから!」
「今から準備かよwwwww」
「うるさいうるさい!!黙って待ってろー!!」
「へいへい」



ニヤニヤしてるあいつの首筋をひと噛みしてから表に出て、3分ほど歩いたところにある銭湯に向かう。
以前、ローカルニュースで銭湯が減少してる、なんて話があったけど、この銭湯は昔から元気だ。
古くからの住人が多い街だからだろう。



歩きながら話していると、3分なんて当然あっという間に過ぎる。
気がつくと、男湯・女湯の赤と青の暖簾の前に辿り着いていた。
      • さて、さっきも言ったが、銭湯に来ることなど初めての経験だ。
中学の修学旅行はボイコットしてしまっていたし、たくさんの人と一緒に風呂に入った経験も無い。
大体、今の私は女湯に入るべき立場なのだ・・・

「大丈夫か?ひとりで行けるか?」

迷っていると、あいつはそんな事を言いながら顔を覗き込んでくる。

「当たり前だろ!子供じゃないんだから!早く行けー!!」
「へいへい」

あいつの背中を押して無理矢理暖簾をくぐらせると、私は反対側の暖簾をくぐる。



くぐったはいいものの・・・どうするのが作法なんだっけ?
横には番台の上から不思議そうに眺めるお婆ちゃん。
昔の漫画なんか見ると、料金を台にぱちんと置いて脱衣場に進むんだったような・・・

「お嬢ちゃん?」
「あ、ああ、お金、こ、ここに置いとくから!!」
「ああ、それはいいんだけどねえ・・・」

振り向くと、困った様子のお婆ちゃん。
      • え?何か失敗した?

「こっちは男湯ですよ」
「亜qwせdrftgyふじこlp;@:!!!111!!!!!!!!111???!!11」

      • じゃあ、あいつを押し込んだ暖簾の先は・・・

『キャーーー!!!』
『痴漢よーーー!!!』
『ウホッ…』
「ご、誤解だああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ……」

      • 気付かなかったことにしよう。



つづく。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年07月21日 02:34
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。