『まえむきに。』 第二話『交差』B.part

 更年期障害を抱えた母親との会話を考えると別の意味でも気分が萎える。
自分もそんな風になってしまうのだろうか?ふとそんなことを思った。

 母親との会話は予想通りのものだった。ヒステリーを起こし、見当違いな批判をされた。
思いつきと感情だけで喚いてくれたおかげでこちらは冷静になることができた。
女性ならば、論理的に物事を考え、優雅に落ち着いて行動しなければいけないよ。
そんな冗談すら思い浮かぶほどに冷静になれた。
無論、実際に口に出して、藪をつついて蛇をだすようなことはしなかったが。
 母親が落ち着いたあとの話は簡単だった。氏名、戸籍を変更するためにそっちに一度帰るよ、と伝えるだけだったから。
あとは、生理用品の事や女の子になったんだからいろいろと注意しなさいみたいな事を言われた。
そこで今回の電話は終了。母の昼休みは終わったようだ。




 確かに色々と注意しなければいけない。
女体化して人生を謳歌している人もいるが
何らかのトラブルに巻き込まれたりする人もいる。
女体化して周囲の人々に理解され、人の輪に溶け込んでいける人たちは運のいい人達だ。
なぜなら、大抵の場合、女体化するとスタイルが良くなったり、
細胞や組織の再構成が起こるため、並々ならぬスキンケアの努力をしなくても
綺麗な肌を手に入れられたりすると言われている。
これでさらに一個の人間として環境に受け入れられるのなら幸せの極みといって良いだろう。
だが、現実はそう甘くはない。
その現実に耐えられなかったのが友達だった平野涼だった。
女性になってしまったあとも氏名はそのままだった。




 彼、いや、彼女とは中学の頃はそれなりの親交はあったが、
高校に入ってからはお互い日々の喧騒に追われるままに疎遠になる一方だった。
最後に会ったのは、入学式の一週間前だったと思う。
彼は、高校受験が終わった直後に女体化したらしい。
彼女も、一般に噂されているように、美しい少女になっていた。
特徴的なクセ毛があり身長が低く小動物的な魅力を持っていて、
つい何週間か前は男だった事を知っていてもときめいてしまうほど可愛らしかった。
だが、女としての経験が浅いためか、割とガサツな言動や挙動をしていた。
男友達と同じ感覚で楽に付き合える女の子なんて引く手あまただろう、
そんなことを言ったような記憶がある。
そのときは、こいつはこのまま普通に生活していくだろうなと思った。

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最終更新:2008年06月11日 01:54
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