『ゆき』第二章

わたしが女体化してからすでに半年あまりが経っていた。
 いつの間にか、泰雄の彼女として認知されたのか、表だっての嫌がらせは受けないようになっていた。
 いつものように、わたしたちは昼休みに二人で無線部の部室で昼食を食べていた。
「ところでさー、たしか今度の土日で東星高校の文化祭じゃん?遊びに行って見ようぜ」
 泰雄が突然思い出したように誘う。どうしようか考えていると、東星高校無線部の斉藤さんのことを思い出した。彼女とは一回無線で話したっきりだったのだ。
「うん、行こ。東星高校と言えば、わたしもちょっと行ってみたい部活あるし」
「よし、じゃあ決まりだな。土曜日は寝坊すんなよ」
「大丈夫、寝坊しても泰雄が起こしてくれるもん」
 そう言い返したわたしの顔をみた泰雄は、一瞬呆気にとられた表情を浮かべたけど、すぐに満面の笑顔になった。

昼食後の眠気と闘いながらも、なんとか午後の授業を乗り切り、泰雄と一緒に部室棟へ向かう。最近はサッカー部のマネジャーのようなこと──ほとんど泰雄専属だけど──も、させてもらっている。
 選手の中には、泰雄をからかい半分でやっかむような態度をとる人もいたけど、サッカー部には正式なマネジャーがいるし、わたしは正式なマネジャーじゃないから、あまり深刻な問題にはならなかった。
 正式なマネジャーの部員は、もちろん最初から女の子だった人ばかりで、はじめのうちは女体化したわたしにはどことなくよそよそしい態度で接していたけど、何度も話したりしているうちにだんだんと打ち解けてきていた。
 洗濯をしている私の後ろから、後輩のマネジャーたちの会話が聞くとはなしに耳に入ってくる。
「ねぇねぇ、美樹はもうエッチした?」
「ぶはっ、まだよ~。でもさ、ウチの部の中だったら誰がいい?」
「そぅねぇ…、泰雄さんかな、エースだし、やっぱりいちばんイケてるよね」
「そーよねぇ…、でも泰雄さんはもうカノジョいるからなぁ…」
 美樹はそう言いながら、ちらりとわたしの方に視線を向けた。わたしはその視線には気づかない振りをして、タオルとミネラルウォーターの準備を続けた。
「ねね、ゆきさんって」
 ふいにすぐ耳元で呼ばれた声に驚いて振り向くと、何時の間にかすぐ横に来ていた美樹の顔がそこにあった。
「ゆきさんって、もう泰雄さんとエッチしたんですよね?」
 興味津々な表情をまるで隠さないで、無邪気に聞いてくる美樹をうらめしいと思いつつも、その感情を表に出さないようにするのは、ちょっとだけ大変だった。
「え、えぇ…」
 それでも、つい本当のことを答えてしまう。さっきのうらめしさは、すでに照れくささと焦りの感情にどこかへ追いやられていた。
「やっぱり~っ!ゆきさんと泰雄さん、いっつもラブラブですもんね」
 それを聞いたほかのマネジャーたちもすぐに寄ってきて、囃したてるように矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。
 それらにまともに答えるわけにはいかないので、洗濯などをしつつ、適当に受け答えしていた。
「あ、そういえばゆきさんって─元男って、本当なんですか?」
 ふいに浴びせられた質問に、洗濯物を干す手がすべり、ハンガーごと落としてしまった。あわてて取り繕うとしたけど、もう遅かった。
「やっぱり~っ。そうなんですね」
 美樹がしたり顔で近寄ってくる。その美樹の表情ににただならない雰囲気を感じて後ずさろうとしたそのとき、後ろから残りの二人に腕を取られてしまった。
「ちょ、やめっ…」
 いくら女の子相手とはいえ、3対1では逃げられるものではなかった。
「元男の子だった女の人って、やっぱりどこか違うんですか?」
 美樹がますますにじりよってくる。その顔は興味津々といった表情を隠そうとしていない。横から押さえてる二人の顔も同様だった。
「だって、最初から女のわたしにまだ彼氏がいなくて、いくらそんなにきれいな顔してても元男のゆきさんに彼氏がいるなんて、不公平だわ」
「絶対なにか違いがあるはずよね」
 美樹たちは口々にいいながら、私の躯をまさぐり始めた。正面から美樹が、左右からそれぞれ私の腕を押さえている子たちが空いている方の手で、頬から首筋、背中や腰、足首や太股と、ありとあらゆるところを這い回る。
 はじめはおぞましさしか感じなかったけど、ついにその手が胸をさわったときには、思わず声が漏れてしまった。
「や、やめ…ひゃぁぅっ!」
「やっぱり元男でもおっぱいは感じるんですね」
 美樹の声はどこか楽しんでいるように聞こえた。
「み、美樹さ…んっ、やめ、て…おねがい」

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最終更新:2008年07月21日 03:14
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