安価『シャワー』

「ラスト50!もう一踏ん張りだぞ!」
 プールサイドからチームメイトの声援が聞こえた。
 県大会400m自由形決勝、今まさに全力を振り絞って最後のターンを決める。
 残り50mを泳ぎ切り、会場の電光掲示板を振り返る。
 そこに表示された順位は──1位。
「やったぁぁぁ!!!!!」
 プールサイドでチームメイトたちが歓声を上げていた。
 表彰式で金色のメダルとトロフィを受け取り、意気揚々とシャワー室へ向かう。
 シャワー室では、同じ決勝を戦ったライバルたちと決勝を振り返りながらも、戦いの後の清々しさで一杯だった。
 そのとき、不意に目眩を感じ、シャワー室の壁にもたれるようにへたり込んでしまった。
 どのくらい気を失っていたのかは判らないが、どこかで横になっているのがわかっただけのとき、周りではなにか騒然とした雰囲気なのが感じ取れた。
「う…う~ん…」
 何とか体を起こすと、チームメイトの一人が気づいたようで近寄ってくる。
「気がついたか!よかった…」
「あれ、シャワー浴びてて…俺、なにがあったの?」
 チームメイトは、俺が無事らしいということに気がつくと一瞬笑顔になったが、すぐに済まなさそうな顔になった。
「あのな、おまえ、全国大会、行けなくなった」
「え!どうして!」
 納得がいかず、そう聞いた俺に、チームメイトは口を開いた。
「おまえが勝ったのは男子400m自由形だろ。…女子じゃない」

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最終更新:2008年07月21日 03:17
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