安価『俺はうるさい蠅を落としてくる』

『待避~~っ!!』
 甲板に設置されたスピーカから号令が響き渡る。
 甲板上にいる人々が弾かれたように艦橋や待避所に走りだした。
 俺も急いで手近な待避所に転がり込む。
──次の瞬間、頭上を敵の攻撃機が轟音とともに通り過ぎる。数瞬遅れて艦尾近くで衝撃とともに爆発音が聞こえてきた。
「どうした少年兵。震えてるだけじゃ何もできないぞ」
 震える俺に見かねたのか、同じ待避所にいた古参のパイロットが声をかけてきた。
「実戦は初めてか?なに、この艦は簡単には沈まない。大丈夫だ」
 パイロットは白い歯を見せて笑いながら俺の頭をぐりぐりと撫でた。
「いたい、いたいですって」
「ははは、震えは止まったみたいだな。俺たち飛行機乗りは君たちがいてくれるから安心して飛べるんだ。だからしっかりしててくれよ」
「お、俺、飛行機乗りになりたいんです!」
 俺の言葉を聞いたパイロットは、嬉しそうに目を細めた。
「そうか、じゃあ、俺はうるさい蝿を落としてくる。帰ってきたら色々話してやるな」
 パイロットはそう言って立ち上がると、発進準備ができた飛行機に向かって行った。
 パイロットが飛び立つのを見送り、次の作業に取りかかる。
 しばらくして、また待避の号令がかかった。慌てて待避所に駆け込もうとしたが、濡れていた甲板に足を滑らせてしまい、したたかに頭を打ってしまった。
 気がついたのは、医務室だった。起き上がろうとすると、軍医がそれを制止する。
「気がついたか。…おっと、まだ寝てなさい」
 横にはあのパイロットもいた。彼はかなりの重傷のようだ。
「君たちは次の輸送便で本土に帰り給え。負傷除隊処分だ」
 軍医の口から出た言葉を、にわかには信じられなかった。
「な、なんで俺も?──え?」
 思わず聞き返した自分の口から出た声に違和感を感じる。
「彼はともかく──女子は戦場にいさせるわけにはいかないからな」
 軍医の言葉に、俺が俺でなくなったことを悟った。

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最終更新:2008年07月21日 03:20
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