『瑠璃と真珠』

「なぁ、琉璃(るり)。お前って暗いよな」

「…………それについては余計なお世話、とだけ言わせて貰おうか」

俺の名前は琉璃(るり)こんな名前でもれっきとした男だ

今俺に話しかけているのは真珠(しんじゅ)。

俺の唯一の悪友だ

ま、悪友が唯一ってわけではなく、友達自体居ないんだけどね………

その昔名前の事で馬鹿にされてからは微妙に人と付き合うのが怖い。

同じ様に宝石の名前を付けられている真珠だけにはどうも親近感を覚えてしまう

真珠は俺とは違って明るい性格で、友達も多い

その上顔も良くてスポーツ万能………何処のヒーローなんだろうな、コイツは

唯一の欠点と言えばゲームに嵌りすぎてる事だ。「ギャルゲーみたいな恋がしたい」とか言ってやがる。だから未だに嫁さんももらえん

因みに俺は人と付き合わず本だけが友達な生活を送ってきた訳で、真珠に勝てる要素は頭ぐらいだろう。顔もそれほど良いとは思えないしな

でもまぁ周りから淡白、クール、冷血漢、鉄仮面とまで言われる俺にも

それなりに悩みはある訳で

明日……そう、明日だ

明日になれば俺は17歳になってしまう。それが何を意味するか?

16~7歳まで童貞だった場合は………女体化してしまうのだ

幾ら俺でも、性別が変われば困惑ぐらいするだろうしさ

「…………ム、特に変化は無いな……」

放課後、自宅。

俺は鏡の前で自分の顔をペタペタと触っている

女体化、と言う現象はしない場合もあるらしい

漠然とそんな事にならないかな、と言う希望的観測も持っていた。女になると色々と面倒だしな。月一度のアレとかそれとかな

「まぁ、悩んでも仕方ないよな」

自分の気持ちにケリを付けるかの様にそう呟く。なるものは仕方ない、よな

何時もの如く眼鏡を枕元へと外し、電灯を消した

・・・・・・

「ひ〇らぁしがな~く~♪あ〇ずのもぉりへ~♪」

どれ位経っただろうか?携帯の着信音にした少々不気味な音調が流れてくる。

真珠の勧めで設定したんだが、夜に聞くとかなり怖いな……… そんな思考を流しつつ、手探りで眼鏡をかけながら届いたメールを読む

「誕生日オメデトw見事女体化した暁には俺に言えよ?良い男紹介してやr」

パチン

最後までメールを読むことなく俺は携帯を閉じた。シャレにならんよ

大体女になると決まった訳じゃ………うん、決まってないよな。10%ぐらいの確立はあるよな

とりあえず惰眠を貪る為、俺は布団を頭から被った

ふふ、窓から差し込む朝日はまるで俺を照らすスポットライトのようで、

小鳥の囀りはまるで俺への歓声の様じゃないか……

とまぁ、現実逃避な訳だ。朝起きると体に違和感が無いといえば嘘になる

眼鏡をかけられない。今はボンヤリと移っている其れをはっきりと認めてしまう事になる

……ええい

我ながら女々しいな。此処はいっそ男らしく。いや、女なのかも知れんが鏡の前まで裸眼で行き、深呼吸の後眼鏡をかける

「…………おお」

思わず声が漏れる

男のときはお世辞にも格好良いとはいえなかった顔は、何と言うか……美少女へと変貌し、短かった髪は腰の辺りまでの長髪へと変わっている

ピッタリだったはずのパジャマは女になって小柄になった為か少しだぼだぼで其れが絶妙なエロスを(略)

そしてオプションの眼鏡も相俟って見事な委員長の様な眼鏡っ娘が其処に立っていた。って俺だ

因みに男の頃には会ったはずのものは消失しており、代わりにパジャマ越しでも存在が確認できる大きめの乳房が二つ存在している

他に変わった場所は無いかと身体に手を回す

若干細めになった俺の身体に艶かしくその存在を確認するかの様に二本の触手の如き腕が這いずり回り(略)

その、まぁ、なんだ。とりあえず男の頃の場合絶対触れることの出来ない場所などを触って確かめたんだが割愛させて頂く

そんな状態になると色々と悩むこともあると思うが、俺が考えたのはコレだった

「服、どうしよう……」

妙に高い声でそんな事を言う自分を客観的に眺め、「ああ、やっぱり淡白なのかもしれない」と言う思いが俺の中によぎった

「アラまぁ……女体化ねぇ」

母の反応はそれ程でもなかった。まぁ生きてきて彼女どころか友達の影すらなかった訳だし、当たり前か

因みに家族構成は父・母・姉・俺という具合だ。

今は普通に朝食を食べているが、自分の子供がこんな事になった場合もっと焦るべきなのではないだろうか?

「……服とかどうしようかしら?」

一番に悩む所はそれですか。流石は親子

心なしか母と姉は嬉しそうだし、父にいたっては目がおかしい。変。てか怖い。大丈夫か、この家族

「とりあえず女物の服買いに行きたいし、今日は学校休むよ」

「そう。じゃ、学校に電話しとくわね」

「あ、じゃあ私も休む。琉璃の付き添いー」

矢張りどこか嬉しそうに言う。母も其れを二つ返事で受け入れる。まともな理由になって無いと思うんだが

「ん、それなら父さんも仕事を休んで付き添いn」

「いや、其れは無理だろう」

矢張り、どこか目がおかしいよ。この親父

「服買いに行くといっても、何処から手をつけたら良いものか……」

「そりゃあやっぱり下着じゃない?」

姉は意気揚々と言い放つ

俺は今姉の昔着ていた服を着ている。サイズはピッタリだ。何故か

とまぁそんなわけで俺は姉の勧めでらんじぇりーしょっぷとやらに来ているわけで

元々男の俺には入るのに抵抗がある訳で

それでも姉はぐいぐいと店内に引っ張っていく

この店は姉の行きつけで、色々と顔が利くらしい

店内に入って早々俺は店員に引き渡され、奥の部屋で下着のサイズを測ることになる

まともに見た事の無い二つの山が顕になり、自分の物とわかっていても眼を背けて終う俺の仕草に店員のSっ気が目覚めてしまった様で、

触れられる度に慣れない感覚の所為で小さく「ぁんっ……」などとか細い声を出してしまう俺に対しての行動は段々エスカレートしていき、

最終的に店員は一昔前のお代官のように「よいではないかよいではないか」と俺の体を弄(略)

サイズを測るだけでかなりの時間を費やした様だ。

いつの間にか加わっていつの間にか消えていた姉は既に幾つかの下着に目星をつけていたらしい

「とりあえずいくつか選んでみたけど、胸のサイズとかどうだった?」

「…………C」

「じゃ、こんな所かしらね。」

姉は持っていた幾つかの下着を俺の前に出した

「で、初めてのスカート着用の感想はどう?」

帰り道、今の俺の服装は白地のブラウス…というのだろうか?それにチェックのスカートといった服装である

姉は今「女の子らしさ」について語っており、とりあえず一人称は私でなければならないらしい

姉が語った中には幾つか姉が自分で守ってない物があったけど、

「琉璃は眼鏡っ子なんだからおしとやかじゃなきゃいけないの」

とか言う良くわからない理論で説き伏せられてしまった。空はすっかり夕暮れになっている。女の買い物の長さは心底不思議でたまらない

「あれ……」

家の前に誰か居る。夕暮れの所為で遠くからははっきりと顔が確認できなかったが……

「真珠?」

そう呼びかけてから俺は姉の後ろの隠れた。女体化して女の格好をしているのが妙に恥ずかしく感じたからだ

「あ、琉璃。夏祭りの知らせのプリントなんだけど、体の具合はどう……?」

言葉の終わりに近付くにしたがって声が下がっていく。恐らく俺の身体の変化に気付いたんだろう

「………………眼鏡っ娘、か」

「ふ、貴方、中々分かってるじゃない」

姉がそんな事を呟いて握手を求め、真珠は其れに応じた。二人の間に奇妙な結束が芽生えた

………何やってるんだ、お前等は

家に帰ったとき、妙にハイテンションな父母が迎え入れてくれた

何故かクラッカーを鳴らしてはしゃぎ回り、買ってきた服のファッションショーの様な事をやらされた。親父の目が変だ。なんなんだろう、この家族

「ふぅ………」

疲れた。なんかもう、色々と

今の服装は今日買ったばかりのピンクのパジャマ(勿論姉の一存で買った)

電気を消し、ベットにぐったりと倒れこむ

疲れた体は休息を求めるように眠気が襲ってくるが、とある気配を感じた

「珊瑚!貴様、見ているな………?」

姉の珊瑚がベットの下から出てきた

「え、そっち?…………何してる?」

眼鏡をかけ直しつつ聞くと、珊瑚はニヤニヤと笑いを浮かべた

突如珊瑚が覆いかぶさり、ベットに押し倒される

「キャッ!」

「可愛い妹に、女の悦びを教えてあげようと思ってね?」

馬乗りになって笑う姉は妖艶な魅力と共に恐怖を感じる

姉は人差し指をペロリと舐め、ボタン式のパジャマを脱がしに掛かった

「う………」

姉の手は慣れている様にボタンを外していく

2、3個外した所で胸が顕になり、その形が現れる

今最後の一個を外し――――――

「イヤッ!」

気が着くと俺は姉の手を払っていた。少々涙目になっているのがわかる

姉のほうは狐に抓まれた様な表情で、徐々に罪悪感をあらわにして行く

「………ごめんね、なんか妹が出来た事で舞い上がっちゃって」

珍しく沈んだ声でそう言った。馬乗りの体勢から解放し、姉は部屋から出て行った

俺は其れを確認すると、震える手でボタンをかけ直した

………震える?

あぁ、そうか。俺は今姉を怖がったのか

男だった時は多少のブラコンなものの、美人の姉を誇りに思っていたが、怖いと感じたことはなかった。コレも女に変わった事で……俺の中で何かが変わってしまったんだろうか?

俺は無言で外されたパジャマのボタンを付け直す。胸の内を支配していたのは恐怖だった

今迄の自分が知らない内に変わってしまう恐怖……思えばさっき感じたのも、この所為だったのかもしれない

「…………」

最後のボタンを付け終わった後、眼鏡を外すのも忘れてベットへ倒れこみ、眠った

日差しを感じて眼を開けると、天井がはっきりと見えた

どうやら眼鏡をかけたまま眠ってしまったらしい。幸運にも眼鏡が壊れたりはしていない

暫く天井を眺めていたが、ふと時計に目をやる

「あ」

何時もならとっくに起きてる時間だ

パジャマのまま扉へ向かう。

多分朝食は用意されてるだろうケド、制服は……

ゴンッ

そう考えながら開けた扉が、何かに当たる

「………何やってるの?」

「いやぁ、無防備な琉璃の寝姿を愛眼してたらいつの間にか睡魔に襲われちゃって………」

深く深呼吸。腕を振り上げ、思いっきり落とす。

ゴンッ、と言う音と共に命中。軽く溜息

「………やっぱり、姉さんはいつもの姉さんか」

ちょっとだけ、ホッとした

「付き合って下さい!」

「断る」

学校、一人の少年の告白を眼鏡をかけた美少女が一蹴に帰す。

ふられた少年はとぼとぼと歩き去った

「………コレで七回目だ」

「アッハッハ、モテる女は辛いな」

他人事のように笑う真珠。それに呪いでも送るかのごとくじっとりとした目で睨みつけた

因みに制服は何故か用意されていた。姉の卑猥な手つきや父の妖しい目線から逃れるのが大変だったけど

「私が男の時は無視したくせに、女になった途端……男って現金な生き物ね」

「ま、見た目だけで清楚、おとなしそう、眼鏡という三種の神器を揃えているからな。モテない筈がない」

「何それ………」

呆れたような声を出すと共に、六時限目のチャイムが鳴った

覇気の感じられない教師から学校の主催する夏祭りの説明を聞き流しながらなどの外を眺める

どうやら其れも男子にとっては魅力の一つのようで、この後四人ほどから告白される事になった

「全く………」

コレだから男は、と続けそうになったが、先日までは自分も男だったので滅多な事は言えない。

今は商店街に来ている。行きつけの本屋まで行って適当に2~3冊買う。それから真っ直ぐ家に帰るつもりだ

ふとショーウィンドゥに映る自分の姿が目に入る。腰の辺りまでの黒髪に、幼い顔立ちに眼鏡をかけた(自分で言うのもアレだが)美少女……

だが、少々無愛想だ

男の頃から笑顔なんてそれほど作ってきた訳じゃないから其れはそれで仕方ないと思うが……やっぱり女の顔になると気になる

「…………」にぱっ☆

…………笑顔を作ってみたが、やっぱ無理。恥ずかしい

火照る顔を抑えながら、本屋へと向かう

「か~のじょっ!今暇?」

………今時こんな古風なナンパがあるのだろうか?

金髪ロンゲの尻軽男と、スキンヘッドの鼻ピアス、小悪党風の悪役面

まぁ、特徴だけを端的に上げるならこんな所だろうか。

この三人に今俺はナンパされている

………また、面倒な事に巻き込まれたなぁ

「退いてくれませんか。用がありますので」

あくまで感情を込めずに冷たく言う。ナンパ男達はやれやれ、といった感じのポーズを取る。言動はそれほどでもなかったが

「連れないねぇ?ちょっとお茶するだけで良いんだよ?」

「生憎お茶なら家で飲んだ方が美味しいので。失礼させていただきます」

その場から立ち去ろうとすると、ナンパ三人組は俺を取り囲む。何処の悪役だ?こいつ等

「お茶だけで良いっていってんじゃん?こっちがこんなに下手に出てるのにさぁ?」

何処が下手……

そういう意味を込めた溜息をして、呆れ顔を浮かべる。笑顔よりこっちの方が得意だ

さらに歩を進めるとナンパ組の剣幕が凄くなった

「おい、ちょっ、まーてーよ!」

え?出川?

何ていう突っ込みも虚しく心の中で渦巻き、肩に手を置かれた事で常に感じる熱さが限界になった。

ゴッ

鈍い音を立てて、俺の振った鞄が金髪ロンゲの鼻にヒットした

「―――ってぇ!何しやがるこの女!」

………さて、どうしよう。勢いでやった物の男3人に敵う自信はない。「ムシャクシャしてました」じゃ流石に無理か

等と考えている内に金髪ロンゲの怒りのボルテージは最高潮。さあどうしよう

「金ちゃん!大丈夫か!」

「鼻血は出てないか金ちゃん!」

「だぁー!!俺をその名前で呼ぶなぁーー!!!」

名前っつーかそれニックネーム。金髪ロンゲこと金ちゃんは鼻を押さえながらこっちを睨みつける

金ちゃんは徐にポケットを探り出し、バタフライナイフ(刃の部分が普段は柄に収納されてる奴。多分)を取り出した。其処までしますか

「出来れば穏便に済ましたかったんだが……顔に傷の一つでもつけられたら大人しくしてくれるだろう?」

どこぞの悪役の様な台詞で、ナイフを俺の頬へ触れさせる

鉄のひんやりとした感触が気持ち悪い

「オイ」

唐突にその声は響く

少しマヌケな声を出して振り向いた金ちゃんは左頬を殴られ、地面に這い蹲る。散々な扱いだ

まるでヒーローの様なタイミングで現れたそいつは、真珠だった

空手で全国大会に行った事もある所為か、徒手空拳での真珠は強かった

金ちゃんと愉快な仲間達は各々負傷した部分を抱えて逃げ去ってしまった

「大丈夫か?琉璃。お前結構可愛いからな、気をつけろよ?」

さらっと言い放たれたその言葉に少々顔が熱くなる

え?おかしくないか?今日告白された中には真珠よりも格好良いと思える

人が居たのに、それでも何にも思わなかったのに……

漫画みたいに助けられたぐらいで男の時からの親友にそんな感情…………

いやいやいやいや

そんな葛藤を他所に、真珠が俺の顔を覗き込む。やめてくれ、何か、もう………

「顔赤くないか?体調悪い?」

内心はもの凄くうれしかった。自分を気遣ってくれてる、気にかけてくれることが。だけど不幸な事に感情を隠すのが得意だった

「なんでもないわよ」

なんでもない様に言う。それから少し考えて、言葉を付足した

「………助けてくれて、有り難う」

後ろに居たので真珠の表情は見えないが、多分ニヤケ面をしていた事だろう

「………そうか、琉璃はクーデレなのk」

ゴッ

…………ホント、何でこんな奴の事を

それから二週間ほどは、俺の身の回りが変わった

毎日姉には口調等の注意を受けたし、少なからず女子から声をかけられることも多くなり、興味本位の告白なども減った

そして間近に控えている夏祭り……

複数の学校主催の夏祭りで、学校内に収まらず町中に生徒が店を出すことになっている。うちのクラスはお化け屋敷だ

まぁ其れが近づいている事もあって、夏祭りをキッカケに友達以上の関係になろうとする男子女子もちらほらと見受けられる

…………因みにお…じゃなかった、私もその中の一人だったりするんだけど

やっぱりイザとなると元々男だったと言う事実が足枷になる

(………いいさ。女子の中では一番近くに居れるんだから)

そんな消極的な考えを、私は、やっぱり後悔する事になった

夏祭り、前日―――――

「真珠さん……ずっと好きでした!付き合って下さい!」

私は告白の現場に、遭遇した

別に偶然、と言う訳ではない

真珠の態度がよそよそしく感じ、好奇心から後をつけて見た結果がコレだ

「あ…………」

私がそう呟くと、いち早く相手の女の子が気付く。それに釣られて真珠も

「あ、はは………お邪魔してゴメン、ね?…………ごゆっくり!」

最早文は支離滅裂、私はその場から走って逃げた。

女になった私の脚力ぐらい本気の真珠なら追いつけるけど、幸か不幸か、真珠は追ってこない

私は目頭が熱くなるのを感じて、こみ上げてくるものを必死で我慢したとにかく走った、走った、走った

息が切れて立ち止まる頃には、家の近くまで来ていたその時にはもうこみ上げてくる物がなかった

心が、怖いくらい冷たかった

夏祭り当日、なんだか懐かしい心境だった

心を閉ざして自分を創っている、中学までの自分。それに戻っただけじゃないか………

………駄目だ、やっぱり、辛い。高校に入ってからはご無沙汰だった、孤独な感覚

いつの間にか真珠に癒されてたんだろうな………男の時から、惹かれていたんだろう

それが女になった事で発覚して………でも真珠にはもう彼女が………

頭の中に、真珠の笑顔が浮かぶ

始業式の次の日に話しかけてくれた事や、体育の時間に張りきりすぎて転倒した事や、自分の趣味について仲間に熱弁してることや、

自分の理想の恋愛を語って女子にドン引きされてた事や、自分が女になってから初めて顔を会わせた時の驚愕の表情や、

ナンパされてた自分を助けてくれた事や…………女子になっても変わらず接してくれた事や…………

悪ふざけで抱きついたら妙に意識されちゃって、顔を真っ赤にしてたことや……………

そして、告白されていた時の照れたような表情が、よぎった

「ひっ………ひぐっ………うっ………!」

涙が出る。我慢する事が出来ない通学路、電柱の陰に隠れて、声を押し殺して泣いた………

涙を止め、赤い眼を「寝不足で充血した」程度まで冷やしてから学校に着いた

夏祭り当日と言うのも有って、皆最終調整に余念がない

かくいう私のクラスのお化け屋敷もお化けの演技の確認、通路の調整等を決めていた。大抵こういうのは仕切り屋な物好きが居るものだ

私は真珠に依存しすぎたんだ。優しいからって、それに甘えていた

真珠を吹っ切る良いチャンスじゃないか。コレをきっかけにして新しい友達を作ればいい……

そう自分に言い聞かせ、ふいんき(なぜかへんかんry) 作りの為の蛍光塗料を塗ったりしていた

自分に嘘をついてるってことは、充分に解っている。でも、そう思わなきゃ駄目なんだ

真珠にはもう彼女が出来た。もう私みたいな女に構ってる暇は無いんだ

「オイ、琉璃」

背筋が固まる。此処で甘えちゃ駄目なんだ。自立しなきゃ……

「琉璃ちゃーん、こっち手伝ってくれなーい?」

「はーい、今行きまーす」

聞こえないフリ。我ながらワザとらしい。でも、コレで良いんだ。コレで………

その後も数回話しかけてきたけど、その全てを無視した

少しでも挨拶してしまったら、決心が鈍りそうだから、優しさに甘えてしまいそうだから

因みにこの夏祭り、文化祭などと違って現金を取る。

学校が主催しているというだけで、後は普通の夏祭りだ(売り上げのいくらかは学校側に入るらしい)

最も売り上げを獲得した所には賞金が与えられるらしく、皆気合の入り方が違う

私にも「頑張ろうね!」と言ってきた女子が居る。男の頃に比べたら結構な進歩………だと思う

でも心の何処かは冷えている。体の中に鉛でも埋め込んだような感覚。気分が悪くなる

「…………琉璃ちゃん?具合悪いの?」

一緒にお化け屋敷の宣伝に出た女子が、心配そうな表情で尋ねてくる。

恐らくまたこの世の全てに興味を持てない、無味乾燥な表情をしていたのだろう

「ううん、大丈夫。ちょっと昨日遅くまで本読んでて寝不足で……」

やっぱり私は嘘が下手だ。でもこの女子はそれ以上は追及してこなかった

お化け屋敷の宣伝は、プラカードを持って町中を歩く。勿論何人かのグループに分かれて、だ

「ねえ、琉璃ちゃん?そろそろ休まない?」

朝から歩いて、もう昼を越えている。それまで休み無しで歩き続けたのだ。女子には酷だろう

どうやら女の体になってもスタミナは落ちて無いらしい。男の時も足は遅かったが疲れる事は無かった

手頃なベンチに座って、店に出ているジュースを買った。適当に最近ついて行ける様になった話題を広げていると、遠くに見慣れた姿を発見する

「姉さん?」

赤主体の浴衣に、朝顔の模様。大人の魅力、と言うのだろうか

「やっほぉ~!今日も立派に女の子してる?」

妙にハイテンションだ…アルコール摂取済み?

ベタベタと纏わりつく姉の肩越しに、姉の友達が見えた

各々浴衣などを着てこちらを見ている。見ている。………見ている。え、ちょっと止めてよ。友達でしょ?

「さんちゃ~ん、そろそろ行くよ~」

その中の一人が距離を置いて声をかける。それに続いて他の人も数歩距離を置いてバラバラに呼び寄せた。友達だろ?

結局微妙に酔っ払った姉は、友達の手によって連行されていった

「個性的なお姉さんだねー」

アレを個性的で片付けるとは、この娘相当やるかも。どうでもいいか

姉の友達が去り際にくれたソフトクリームを食べ終わり、またプラカードを持って宣伝の行進を再開した

ふと、自分の異変に気付く

気分が軽い

先程まで胸を支配していた鉛の様な違和感が薄まり、頭が少しスッキリした

そうだ、あの姉はいつも、気を楽にさせてくれる

それが男の頃の自分と違って友達も多く、皆から慕われている理由だと思う

「……………」

俯いて、誰にも気付かれないように、小さく笑った

「あ、範囲此処までだね。もどろっか」

「うん」

多分、面と向かってじゃ言えないと思うから……言わせて貰うよ

有り難う、お姉ちゃん

「いらっしゃいませー」

「それではこちらをお付け下さいー」

受付係の女子がカップルに3D眼鏡(と言うのだろうか?)を渡す

どうやらかなり凝った内容らしく、立体的なホラーとなっているらしい。

因みに私はこー言う接客業に免疫が無い訳で恥かしさで少々頬が赤らんでいる事は充分自覚している

まぁ、何だ。失恋の痛みと言うのは簡単には拭えないらしい。

失恋と言うか一方的に片想いして、想い伝えずしてその人には彼女が出来ちゃったと言うなんともヘタレ極まりない

NARUT〇のヒ〇タとかそういうキャラもこんな気持ちなのかな………とかどうでも良い考えに陥ってしまう

因みに落ち込んでる時の表情とふと我に返ったときのちょっとした羞恥を混ぜた表情のを繰り返している

その所為で主に男性客が増えているという事は、後々知った

「る~り~ちゃぁ~ん♪」

「………お酒臭いですお客様に迷惑です目障りです消えて下さい酔っ払い」

「うぐ……お姉ちゃん泣いちゃうよぉ?そんなこと言ってるとぉ~!」

「泣くなら誰の眼にも付かない所でお願いします」

酔っ払いこと姉の珊瑚が数人の友達を引き連れて絡んできた。お酒臭い

って言うかなんでこの人お酒が入るとここまで豹変するんだろう。同級生男子・女子の目線が痛い

「……なんか他の人も近寄りがたい見たいなんで、退いてくれませんでしょうか」

「じゃぁ~お酒買ってきてぇ~」

未成年にお酒かわせに行きますか?普通

そしてその普通じゃない姉は友達を巻き込んで店番を変わっていた

………お気の毒に

案外すんなりとお酒は買えた。「あのお姉さんじゃ大変だねー」とか言われた訳だけど、姉の悪評は何処まで響いてるのだろう……

町中に店は有るのに酒関係の店は少ないのに気付いた。多分これを見越して買いに行かせたのだろう。セコイな

「琉璃」

一瞬、時が止まったような気がした

息を切らした愛しい人。その目は真っ直ぐ自分を向いている。恐らく走ってきたのだろう

でも、この時間、確か真珠はお化け役だった筈なのに………!

「あ………!」

怖い。逃げ出したい。今すぐ此処から

怖い…………?

ああそうか、怖いんだ。真珠に彼女が居るのを認める事が。

実際に、真珠自身から突き放される事が。

だから、私は真珠から………

真珠の口が言葉を紡ごうとする

言葉に出来ない恐怖が湧きあがる

私はその場から、逃げ出した

「オイ、琉璃!待てよ!」

走る私の後ろから足音が重なる。が、それほど差は縮まらない。私って結構足速かったんだ…

持っていたお酒も放り出し、我武者羅に走る

毎日の癖か、学校へと向かって走っていた。祭りと言う場の所為か周りの人もあまりこちらを気にしてない

しかし精神が体を凌駕するなんてのは漫画の中しかありえないようで、全力疾走を続けているとたちまちスタミナ切れに陥った

体育館の脇の茂み、その中に作られた体育倉庫の傍に座り込む

茂みと言うか林のようで、おいそれとは見つからない場所だ

「あー……もう駄目だ。限界」

肉体的にも、精神的にも

既に涙が溢れている

しかし、それを止めるつもりも無い

「あは………ははは………ははははは………」

空元気で出した声は、虚しく乾いていた

「琉璃」

私を真っ直ぐ見据えて、真珠は言った。この場所には今迄何度も隠れた事がある。迂闊だった

真珠は球の様な汗を浮かべ、肩で息をしている。恐らく全力で走ったのだろう

額に浮かべた玉の様な汗にすら気づいて無い様な、真剣な眼差しだった胸の奥が、切なくなる

「琉璃………」

この人は、いつも私の殻を破る

そうと解っていたから、避け続けたのに

真珠が一歩分、こちらに踏み出す

彼が、狂おしいほど愛しい。

――――――もう、ダメだ

「来ないで」

我慢していた気持ちが、心の殻を突き破る

「何で真珠は、そんなに優しいの………?」

「え………?」

涙が溢れる、でも、そんな事構う物か。思いの丈を、子供の様に全てぶちまける

「真珠は!優しくて!格好良くて!運動も出来て……!好きな事には一生懸命で………!」

最後はもう涙声だ

体裁も、恥も、何もかも。取り繕う余裕が無い

「無口だった男の頃の私と友達になってくれて………私が女になっても……変わらず接してくれて………」

「いつも、守ってくれて………それじゃ、………それじゃあさ」

「好きに、なっちゃっても………しょうがないじゃんか………!」

遂に言った、言ってしまった。今迄必死に抑えていた物が、制御できなくなる

ダムが崩壊したかのように、瞳からは涙が溢れ出した

「今、何、て………?」

「だから!好きなの!私は!真珠の事が!私っ、男だったのに!本当は男の子なのに!好きになっちゃったの!どうしようもなく!」

勝手に好きになって、勝手に絶望して、八つ当たりして………最低だ、私

真珠が此方に寄ってくる。怒るのだろうか?呆れるのだろうか?其れとも………軽蔑されるのだろうか。

嫌だ。どれも、嫌。来ないで。来ないで。コナイデ……

ふいに、前方へ体が引き寄せられる

それが真珠に抱きしめられていると認識するのは、少し時間が掛かった

「ゴメンな……最低だな、俺って。こんな可愛い娘泣かすなんてさ……」

予想外の言葉だった。貶すでも、攻めるでも、呆れるでもない。謝罪

「同情なら、要らない……」

「そんなんじゃねぇって…………大体な、俺、あの告白断ったんだよ」

今度は、私が聞き返す番だった

「は………?」

「だから、断ったんだって」

衝撃の告白。……の割りに淡々と言い放つ

「な、何で!?アンタみたいに見た目の割りにロリ入ってて告白してフラれた回数は二十を越えてそのたびにフィギュア(ロリ系統)買っちゃって

 部屋にはポスターとゲームが散乱しててどうでも良い知識に脳の要領の大半を使う某電子の妖精ファンのアンタが

 何であんな可愛い子からの告白断ってんの!!?」

「あれれ~?さっきと打って変わって酷い言われようだよ~?」

実際そんな気持ちだった。脚色もしていない。因みに私の台詞、以前真珠がふられた時の女の子の台詞だったと記憶している

それは兎も角、私の所為で(おかげで?)シリアスなふいんき(なぜか(ry)は吹っ飛んでしまい、真珠は軽く笑う

そして、少し間を空けて私を握る腕の力を強めた

(嬉しい………)

暗い感情が消えていくのを実感していると、真珠が改めて口を開く

「好きな人が居るのに他の人と付き合えるほど、俺は器用じゃないよ」

「好きな人って……誰?」

「解ってるくせに……」

真珠が困った様に笑う。ちょっと可愛い。もしかしたら、私はSの気があるのかもしれない

身体を放して、しっかりと目を見つめた。頬が少し赤くなって、深呼吸している

「えーとナ………俺は、お前が好きだ!女体化したお前を初めて見た時から、お前に惚れてた!」

真珠は耳まで真っ赤にして、叫ぶ………とまでは行かないものの、大声でいった

その言葉を聴いて、私はまた涙を流した。今度は悲しさじゃなく、嬉しさで

「それで………俺は、お前が元々男だったから………やっぱり男から好きって言われるのは迷惑かなと思ってた……けど!」

「お前が、俺の事を好きになってくれたのは予想外……ってか嬉しいし…… まぁ、何が言いたいかと言うとだなぁ!」

深呼吸。そして私の目を見据えて

「俺と、結婚してくれ!」

「けっ…………こん」

真珠の言葉をなぞる様に言う。「付き合ってくれ」と言われるとばかり思っていたけど、まさか一足飛びで来るとは

「うん…ちょっと早い気もするけど、それだけ私の事を想ってくれてるって訳だし……真珠が良いなら、その、あの……」

急に歯切れが悪くなったのを疑問に思ったためか、真珠は不安そうな顔をする。そしてちょっと考えるそぶりを見せて―――

慌てだした

「え、あ、ゴメン!間違えた!そうじゃなくて、えっと、結婚はまだ早いしな、俺が言おうとしたのはだな………」

そんな姿を愛おしく感じ、訂正する前に抱きついた。自然、表情は笑顔になる

「ん、良いよ。真珠が其処まで言うなら結婚したげる」

さっきまで泣いていたのを棚上げするように、お姉さんぶって言った。真珠が少し笑う

それから見つめ合った。多分、こんな時にすることは一つな訳で―――

真珠の顔が徐々に近付いてきた

ガサッ

唇が重なり合う寸前、茂みからそんな音が聞こえる

其処には、思いっきり躓いた姉と、その友達と、その他大勢(クラスメイト全員。ってお化け屋敷はどうした)がいた

つまり、今迄の一部始終を見られていた訳で……

「最近の若いモンは進んでるねー」

とか、

「真珠君だいたーん」

とか、

「泣いてる琉璃たんハァハァ(*´д`)」

とか、

「何故だ!?何故真珠なんかに惚れたのだ!くっ、誰か俺を慰めてく

れェェェェェェ………」

等が聞こえてきた。泣きたい

「違うぞ!?俺は健全に琉璃と付き合おうと思ってだなぁ!」

とか真珠が言い訳を始めたが、私は放心状態だ

でも、まぁ……

この方が私達らしい、かな?

因みに余談になるが、私達のクラスのお化け屋敷は一位だったらしい。

酔っ払いこと姉の策略により、姉の友達が一緒にお化け屋敷を回ると言うオプションが聞いたらしい。お気の毒に

姉の友達は格好良いor可愛いor綺麗な人が揃っていたりするので、可也の男女(主に一人づつ)が客として入ったらしい

手に入った賞金は皆平等に………って事でカラオケに行った。何故カラオケかは不明。食事とかでも良いと思うだけどな

私は前のように、最近ご無沙汰だった真珠とその愉快な仲間達のグループで歌っていた。

女ならではの高い声での歌やら真珠とのデュエットやら………まぁ、楽しい一時だった(何故か姉やその友達も居たけど)

そんなこんなで、まぁ、ハッピーエンドと言う奴だろうか?

最終的に「結婚してくれ」は撤回も訂正もされる事も無く姉は何故か婚姻届まで用意している始末で

クラスの皆の前で婚姻届を書かされるというある種究極の羞恥プレイも味わった。あれ?姉妹揃ってS?もしかして。

この日から真珠の姓で呼ばれる事もあり、それはそれでまんざらでもない私が居る

当面の問題は真珠の初体験をいつ奪うか、と言う事だろうか?

後日談

「行ってらっしゃい……今日は何時に帰ってくるの?………か、勘違いしないでよね!ご飯の都合の心配で、別に会えなくて寂しいとかじゃないんだからね!」

「えー……と、琉璃さん。何をしてらっしゃるのでしょう?」

「見ての通りツンデレメイドですが、何か?」

「何か?じゃなくてね?ご近所から好奇の目線に晒されているのが見えないかね?君は」

あの衝撃的告白から数年、高校生を無事卒業し、立派に社会人となった夫……真珠を送り出す私は、メイド姿だったりする訳で。

何故メイド姿かと言うと……趣味だ

これ以外にもナース服やらスクール水着やらメイド服外出用やら夜の営み用等がある。ご近所からは好奇と共に面白い人と取られている様だ

因みに夜の営み用というのは無論、アレをナニする行為である。好奇心から着衣に手を出して見た所、どうやらメイド服が一番興奮するらしい

メイドと言う本来服従する立場の者が主導権を握る、そんな下克上なシチュエーションが良いらしい。多分M入っているんだろう。根本的な部分で相性が良いみたい

「それは兎も角、行ってらっしゃいませ旦那様♪」

「まー♪」

あ、そうそう。子供も出来た。可愛らしい女の子で、名前は琥珀。この子も例に漏れず特注のメイド服を着ている。何でって?趣味だからよ。私の

そういえば、真珠がこの頃夜の営みの件についてマンネリ気味らしい。

ひっじょ~に忌々しき事態だと思う。

今夜は普通にしようか?其れとも姉に新しい衣装を貰いに行こうか。

まぁ、その辺は家事でもしながらゆっくりと考えよう

「さ、行こうか琥珀。今日はケーキを作るよ」

「は~い」

何はともあれ、私は今最高に幸せです

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最終更新:2008年07月21日 03:56
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