『生徒会役員生徒会長補佐役』

「生きるとは何だろうね?」

何の事は無い、どうせいつもの言葉遊びだ
目の前の男は特別深い意味を以て言った訳じゃない
どうせまた何か本でも読んだんだろう

「それを知る為に生きているのかもしれませんね」

真面目な返答ではない。それっぽい事を言っておけば満足してしまうから
その程度なのだ。
別段重要ではない会話を真面目に考えるほどの時間の浪費は無い



神岡 輝(カミオカ テル)
高校2年、生徒会長
んで、「テル」って下の名前で呼ぶと怒る
実力重視の性格と虚像の権力に惑わされる事の無い確固たる自信家
生徒の為、そして何よりその生徒に含まれる自分の為に行動する
行動理念はともかく、実際に結果を残している為に支持率は高い
また、1年の頃から生徒会長を務めている

僕の仕える生徒会長様の情報は概ねこんな所
家族構成とかそういったプライベートな情報は抜きにして、ね
あ、申し送れました。僕の名は三橋 蓮(ミハシ レン)
高校2年、生徒会長補佐の役目を仰せつかっています
え?生徒会長補佐とは何かって?
文字通り、生徒会長を表裏で支える、秘書のような存在ですよ
副会長と違うのは………あくまで補佐に準じる、と言う事でしょうか
あぁ、そうそう。1年が生徒会長になれるのか?
とか、その辺の事情は学校側のある意味放任主義が招いた結果です


僕に言われても知ったことじゃないですね










「で、会長?現実逃避はそろそろ止めて貰いましょうか」
「何の話だ?」

傍らのプリント群を会長の机へと降ろす
かなりの厚さと重さの紙束は、見るだけでヤル気を失わせる

「フン………」

それらに軽く目を通して、机へ放り捨てた
嘲りの溜息までセットで
会長は回転する椅子を180度稼動させ、丁度真後ろを向く

「少しは自分達で絞ろうとは思わないのかね?これじゃ欲望の蛇口だ」
「蛇口って事は、出ない様にも出来る訳ですね」

あ、少し不機嫌
日が傾き始めた校庭に、野球部の声が響く


「……………」


黄昏てるのか、それとも部活動にでも興味を持ち始めたのか………
会長は少しも動かない
音を立てないように机を回り込み、椅子のそばへ


「はーい、起きてくださーい」


椅子の背を全力で蹴った









栄える者は必ず衰える、なんて言葉があったような
それとはまったく関係の話だけれど
最近は猛暑を振るっていた夏の足音も遠く、秋を思わせる風が吹いている
下手するとクーラーをつけるより
窓を開けた方が涼しいかもしれないな………
等と考えながら生徒会長の私室も兼ねているような生徒会室の扉を開ける

「失礼しまー………?」

自信に満ち溢れた表情を浮かべて机に陣取る生徒会長様の姿は無かった
その変わりの様にに、恐らくは見た覚えの無い女生徒が一人、立っていた

「此処は―」

生徒会以外、立ち入り禁止ですよ
言いかけた言葉を飲み込む
その女生徒に、何かしらの既視感を感じた
光り輝くと錯覚せんばかりのロングの金髪
線が細く、しかししっかりとした存在感を表す体躯
一寸の乱れも見せない制服
それら全てが引き立て役となるような
確固たる意思を持った者特有の自信満ち溢れた顔

美人、と称していいようなその姿を、知っている気がした

だけど脳内の人物像にどうしても結びつかない
何か見落としてる気もするが
あの自信に満ち溢れている所は誰かに………
ん?自信?

「………会長、女装趣味でも?」


脛を蹴られた









「今日一日、誰も俺と気付かなかったな」
「へぇ、知った事ではないですね」

どうやら女体化してしまった生徒会長様
何処から調達したんでしょうね?女子制服
そう言えば今日は会長の誕生日でしたか………

「………会長、何歳でしたっけ?」
「17だ。ま、15~16ってのはあくまで目安だからな」

外見が女の子になっても中身は変わりないんでしょうかね?
そういえばフリルの白ですか。いいですねぇ、清潔で

「そう言えばお前の誕生日は何時だったか。気を付けた方が良いぞ」
「あぁ、大丈夫ですよ」
「へ?」

女体化するのはあくまで「女性経験の無い男子」ですからねぇ………
そう言えば会長が引き入れた一年の………八月一日君、でしたか
彼、来ませんねぇ
ま、半ば強制的でしたし、
別に無理に来る必要は無いと言えば無いんですが………

「………経験済み?」
「えぇまぁ。中学三年の時に」
「へ、へぇ~。か、彼女とかい?」
「? それ以外に無いでしょう?」
「うん、そうだな、うん………」

おや、目に見えて意気消沈していらっしゃる
一体どうしたのでしょうか

…………なんて、どこぞの漫画の主人公のようですね、このセリフ







「その後直ぐに別れましたけどね。
 どうやら惚れっぽい性格のようでして、付き合ったの僕は3人目だとか」
「じゃあ、今彼女は……」
「居ませんね」

今度は元気になりました
しかし先程から全然仕事が進んでやがりませんね
そう言えばこの書類の束、本当は先生の仕事なのでは?
生徒の自主性を高めると言えば聞こえはいいですが、
仕事を押し付けるのは間違いだと思うんですがねぇ

「……あぁ、体を赦したのは僕が初めてだと言ってた様なない様な?」
「ふ、ふぅん?そうなのかぁ~」

空気って重さあったんですね。何か物理的に重くなってるんですけど
さっきから疲れないんですかね、この人は
というか、人の色恋話なんて聞いて楽しいんですかね
女子じゃあるま………あ、女子でしたね
にしてもこれは異常な気が………

「会長」
「何だ」



「もしかして、僕に惚れましたか?」



「っっっんなぁ!?そそそ、そんな事あるはずないだろう!」


うわ、わっかりやす
………会長を弄れるネタが、一つ増えましたね








「………これでチェックです」
「くそっ………!条件が同じなら、負けはしなかった!!」

部室が与えられるのは一定人数に達している部活、つまり「部」として認められているところ
一定人数以下の「同好会」になった場合、部室立ち退きを進言するのも生徒会の役目
しかし頭ごなしに言っても反発を呼ぶので、チャンスを与えるのが今の所の方針
それ即ち相手の土俵で勝負するというので
今は囲碁将棋部とチェスで勝負し、無事に勝利した所です
………何故、チェス?

会長が女体化してから数日、結構馴染んでいた
男の時は「冷血」「狡猾」といわれていた政策も今では何故か大歓迎
このマゾ共め
ま、遣りやすいなら何でもいいんですがね、僕は
そう言えば名前が「テル」から「ヒカリ」になった
女の子らしくていいですね

「囲碁将棋、漫画研究部、スリッパ卓球部にベーコン・レタス研究会………」

これでノルマは達成ですが………
つか、部員集まったんだ、スリッパ卓球
今日はもう仕事も無いですし、これ報告したら解散ですかね…………

「失礼しまーす………」

おや、誰も居ないんですかね? 
ってあぁ、僕が用事を言いつけたんでしたか………

「ふぁ………」

さて、どうしましょう。立場上帰る訳にも行きませんし
かといって後どれくらいかかるかわかりませんし………

ま、生徒会の予備室で仮眠でもとらせて貰いましょう。最近寝不足ですからね










夕焼けに響く野球の金属音は、何処か哀愁を感じますね
寝過ごしました
夕焼けといっても既に暗くなり始め………もう皆帰ってますかね

『―――……好きです!』

おやぁ?ロマンスの匂い……わざわざ生徒会室でやらなくても
生徒会室は関係者以外立ち入り禁止なんですがね………

『ゴメン……私は、好きな人がいる』

この声……会長?
なるほど、会長に告白するのなら生徒会室は絶好の場所ですが……
何時も居るし、邪魔も入りませんしね
でもフラれちゃったみたいですね。どうしましょう、凄く気まずい
……とか思いながらも覗いてるあたり、僕も人の子ですか

相手方は………確か、同じ学年の人ですね
サッカー部で、結構活躍してて異性にもおモテになるとか
ということはプライドが高いですから、あの断り方じゃあ………

『………やっぱ、三橋なのかよ』
『………彼は関係ないよ』
『………嘘だっ!!』

……女体化して数日で目をつけるだなんて、手が早いというか

『嘘じゃ、無い』
『ふぅん……そうか、よ!』

会長が壁へと押しやられる。ム?抵抗しないのか?









『な、何を!?』
『鍵は閉めた………どうせ誰も来ないんだろうがな』
『離せ!』
『女の力で抵抗できる筈、無いだろ?』

………ん?僕は何か凄い思い違いをしてないか?
今迄が意見以外の差異が無い故に男のように扱ってきたましたが
女になるって事は、やっぱり筋力も落ちるのでは?
そういえば当たり前か、『女の子』ですものね……

(カメラカメラ…………有った)

何でもあるね、此処
行ってる間にサッカー君が強引に攻めていった

ボイスレコーダーのスイッチを切って、シャッターをパシャリ
何時仕掛けたのかって?それは聞く事無かれ

「こぉんにぃちはぁー」
「み、三橋!?」
「よ、よう、居たのか」

見るからに動揺するサッカー君
そして、涙を浮かべる会長。初めて見た
珍しい物を見せてもらった事に感謝はしますがそれとこれとは別な訳で

「期待のストライカー様がレイプ紛いとは、いけませんねぇ」

デジタルカメラをこれ見よがしに見せつける
と同時に諦観を表すような表情になる、いいですねぇ、理解が早くて








「未遂ですが………この写真と声があれば、
 一体どれだけの信用と名声が消えるんでしょうねぇ?」
「…………いくらだ?」
「はい?」
「いくら出せば、それを譲る?」
「これはこれは、理解が早くて助かりますね」

「でも、別にお金なんか要らないんですよねぇ」

カメラを一回転。恐らく僕の言う事を理解した様なサッカー君
苦虫を噛み潰した、といった表情

「ただ、今後は
 僕のお願いをちょーっと聞いてくれるだけで良いんですが………」

「………チッ、解ったよ」

ふむふむ、頭の回転も速いようですね
未練がましい捨て台詞も無く非常によろしい
人の弱みは自分だけが握ってこそ価値がある、という良い例ですね

「さて、会長?」
「勘違いするなよ。私は別になんとも思ってないからな」

顔真っ赤にして否定されても
というか、何の追求もしてませんがね

「………いやぁ、格好いい人でしたねぇ」
「女子にも結構モテているし、顔も良いからな
 しかも成績優秀で運動も得意と言う、完璧超人だからな」

「ふぅん?詳しいんですねぇ」







知識を持っている人は少なからず知識を持っている事に優越感があるわけで
それを披露したいと思うのは人として当然と言うか、仕方が無い事な訳で
こちらが知らないような素振りを見せたら
すかさず知識を披露してしまうのは、誰もが一度はなってしまう物です
ま、墓穴を掘ったって事を言いたいんですが

「………いや、これは、お前が知っていろというからだな?」
「記憶によれば、頭ごなしに拒否していたと思いますがね」
「いやいや、あの後流石に悪いと思ってな?
 しかし教えろと言うのも尺だからこっそり……」
「格好良い男の人に目をつけていたと?」
「いやいやいや、そういう訳じゃなくて」

冷や汗を流す会長。墓穴掘った時点で逆転は無いのにね☆
うわ、キショ。思いのほかキショい
恐らく会長の頭は今堂々巡りと言う奴でしょうか
ま、言い訳は苦手分野ですからね
しかしまぁ、女になっちゃってからキャラ変わりましたね
クールな感じだったのですが、前は
やはり女体化すると性格にも違いが………

「あー、うん!私はだな!」

両の腕で僕の顔を挟み込み、ムリヤリ顔を向かせる
まるで沸騰寸前なまでに赤くなった顔が近くにあった

「私は、お前以外の男は眼中に無い!」

照れ隠しのように大声を出す
これはこれは、彼………いや、彼女ですか
彼女らしくない直情的な告白を聞けましたね
ま、可愛いから良いんですけど?

会長の腕を取り、傍の机へと文字通り押し倒す








「三橋?」
「僕はですね、会長。口で言われてもそうそう信じれないんですよ」

長机に足以外を乗せた形の会長を、上から見下ろす
今の拍子に着崩れた制服から白磁のような肌が覗く

「僕が望むのは、態度での意思表示です」

野球部の怒声が小さく聞こえる
部屋の中が急に暑く感じて、額を一筋、汗が伝う
会長の顔にも流れる汗は、その女としての魅力を引き立てるようにも見えた

「嫌なら止めておきますが…………どうしますか?」

言い終わると共に笑みを浮かべる
「笑い」や「微笑」などというポジティブな物ではなく
謀を思わせる黒い笑み
会長が熱に犯されたように、とろんとした表情を浮かべる
その凄艶を思わせる唇は、消えるように危うく言の葉を紡いだ

「許す」


その声に本気を汲み取り、ようやく僕の中にあった迷いが消える
ま、あくまで目線が上なのはご愛嬌?
静かに笑みを浮かべ、自分の体の高度を下げる



唇と唇が重なった












※しばらくお待ちください………












「降ろせ」
「お断りです」

空も夕暮れから夜へと変わる、妙に寂しくなる時間
会長を背負って下校中
何故かと問われればまぁ、
会長は女性になって数日、勿論経験なんか無かった訳で
多分下半身は今も痛みを引き摺っているのでしょう。抵抗も弱いですし

「恥ずかしいから降ろせ」
「嫌です」

妙に視線を集めていますが気にすることもないでしょう
注目を集めるのは慣れてますからね

「あぁ、会長。これどうぞ」
「何だ?紙袋?」
「バイブですよ」

後頭部に痛撃。良い頭突きだ

「お前………頭よさそうだけど、実は馬鹿だろ?」
「さっきまで乱れていた人に言われたくないですねぇ」
「なっ!?お前、アレはお前が!!」
「声大きいです声」


でも、まぁ、なんというか



ちゃっかりバイブを持ち帰ろうとしてるその強かさ、僕は好きですよ










「…………というのは、おおよそ一年前の事ですか」
「長い前フリだな」

女性姿もすっかり板に付いた会長。進路は何処にするんでしょうかね?

「それで先日、八月一日君が女体化してしまったらしいですが………」
「あぁ、彼か。告白騒ぎで有名な」
「会長に似ていますね。2年での女体化といい、
 彼の考え方には共通する物を感じます」
「ま、引き抜いた私の目に、狂いは無かったな」

煽てると直ぐに調子に乗りますね。二人っきりの時に限り、ですが

「で、これをプレゼントしてみようと思います」
「…………何だこれは」
「双頭ディルドーです」
「言わなくていい。というか、これは女同士で使うものじゃないのか?」

興味津々ですねぇ
たまにはそういったアブノーマルなプレイでも期待してるんですかね

「女同士だったら良いでしょう?
 どうせ坂下さんとお付き合いするでしょうし」
「女になったんだから、男と付き合うんじゃないのか?」
「ハァ………ダメですね。ホントダメだ。何かもうダメダメですね」
「………何がだ」
「貴女は、自分で彼女と似ていると言ったのでしょう?」



「僕は、貴女の事を一番知っている人間なんですよ?」

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最終更新:2008年07月21日 04:14
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