自分の特徴は特徴が無い事、というか『平凡』だと自負してるつもりだ
身長は中程で顔は童顔
小学生とか女の子とか良く言われるけどそれは取るに足らない
成績表に付くのは生まれてこの方3か4で体力測定はクラスで丁度真ん中
学校も別にそれほど有名という訳でもない
至って平凡な所で将来に大きな夢があるわけでもなく
只ぼんやりと普通に会社員とかになってるんだろうなぁとか思ってる
僕こと佐渡 真二(サド シンジ)
苗字とイニシャルからSだと思われがちだが
本人としてはどちらかと言うとMの気質があるかなぁなんてのが最近の悩み
そんな何処にでも居ると言いたいけれど
ここまで普通だと逆に何処にも居ないんじゃないかなぁって
思ったりするけどまぁ模範的と言葉を変えて
言わせて貰うが普通の高校1年生な僕
と思ったけどやっぱり普通じゃないのが幼い頃からのバイト経験
自分で使う分は自分で稼ごうという目論見で
知り合いの店や年齢を誤魔化してバイトをしてはや10年程
それだけならまだ何処にでもいるかもしれないがまだまだこんな物じゃない
バイト先の店長がいつの間にか僕を連帯保証人にしてたり
両親やら家族が僕だけを残して夜逃げしてたりで
僕に降りかかる膨大な借金その額壱十百千万いっぱい
勿論僕に返済能力が無くスーツ姿の仕事熱心な優しいサングラスの人に
親切な病院を紹介してもらったのがホンの2日前
体を鍛えていてもやっぱり心臓が無ければ動けないので
人生の終わりを覚悟しちゃったりした訳だけれども
居るかどうか解らない神様は誠実な人間に焼け石に水な褒美はくれるようで
臓器売買に入れ物が付いた。つまりは人身売買に押さえてくれた
その買い取った物好きな大富豪を見てビックリ仰天
同い年のお坊ちゃまで最近とある病気によってお嬢様になった
金髪ゴスロリなお嬢様
今迄自業自得な面もあるけれど自分の人生を
『コレなんて某戦闘執事物語?』なんて思わなかった事も無いのだけれど
しかもその後執事として雇われちゃったりする訳で
もう一度言わせて欲しい
コレなんて某戦闘執事物語?
「知っていると思いますけれど、右京院 真央(ウキョウイン マオ)。
貴方のご主人様ですわ」
………お嬢様然としたお嬢様という感じかな
中学3年で女体化したということは女性になって1年も経ってないんだよね
それなのにドレスが映えるのはお嬢様だからだろうか?
「仕事の内容とかは……セバスチャン!」
「此処に」
燕尾服の正装……というか、制服か
漫画のような執事さんがいつの間にか立っていた
名前もセバスチャン……外国の人かな?
「解らない事はセバスちゃんに聞くと良いですわ」
「それでは、まず仕事の説明からさせて頂きますね…
参りましょうか、佐渡さん」
「あ、はい」
僕が執事として働くようになった屋敷は広かった。そう、屋敷
それもシャンデリアが有ったりダンスパーティでも開いてそうで
恐らく僕の人生には一生縁が無かった場所だろう
「………さて、こんな所ですかね。佐渡さん、家事などは?」
「あ、昔からバイトしてたんで、一通りは」
「ほぅ、人脈の期待をしても?」
「医者に料理人に………まぁ、手繰ってみれば大抵は」
「何れ頼らせていただきますよ」
広い屋敷だというのに、使用人はメイド・料理人・庭師が共に一人ずつ
しかも殆どは無能なのでセバスチャンさんが補っているとか
はぁ、居るもんだね。化け物みたいな人が
「料理はレシピがあれば完璧……洗濯掃除は及第点
掃除に至っては目を見張る物がありますね」
恐らく試験の意味も込めた料理洗濯家事親父
どうやら認めてもらえたみたいだ
「あのー……セバスチャンさん」
「あぁ、セバスチャンで結構です。
本名の瀬蓮(セバス)に愛称と敬称を込めた呼び方ですから」
「じゃあセバスチャン……
扉の影でこちらを伺っているあの人たちは誰でしょう?」
恐らく先程のメイド・料理人・庭師の方々なのだろうけれど
さっきからずっと睨まれてる気がする。てか、睨まれてる
セバスチャンがそちらに注意を向けると脱兎の如く去っていった
仕事、しなくて良いのかなぁ?
「………まぁ、妬んでるだけでしょう。
仕事の技術で言えば貴方の方が優秀ですから」
何処か疲れてるのは気のせいでは有るまいて
「最後に執事として一番大切な事を教えておきます」
「大切な事?」
「セバスチャンさぁぁぁぁん!!
足が滑って食器棚に突っ込んじゃいましたぁぁ!!!」
「おい!セバスチャン!台所が火事だ!調理酒に引火させちまった!」
「セバスチャァァァン!!除草剤が壊れて!庭がぁぁぁ!!!」
「………マゾになってしまえば、いくらか楽になりますよ?」
「いや、そんなアドバイスされても」
執事の朝は早い
誰よりも遅くまで起き、誰よりも早く起きる
梟と朝に囀る鳥と仲が良くなりそうな生活も、
1週間もすれば自然に慣れてくる
別に日課という訳でもないけど、他にやることも無いので庭の掃除
「郵便でーす」
「あ、ご苦労様です」
おや、差出人はお嬢様の通っていらっしゃる学校からですか。書類ですかね
郵便のお兄さんのバイクが遠ざかっていく。此処、敷地内なんですが
しかし、受け取ったは良いけどどうしましょう、これ
「どうかしましたか? 佐渡さん」
「あ、グッドタイミングです」
相変わらず気配も無く現れるセバスチャンにも慣れた。封筒を渡す
何の躊躇も無く開けると、中の書類を読み始めた
「あぁ、お嬢様の学校からへの編入手続きが認められたみたいです。
貴方の」
「へぇ、僕の…………」
「編入……手続き?」
編入って、転校?
「今日からこのクラスでお世話になります。佐渡 真二です」
「佐渡君はこのクラスの右京院さんの執事さんなんですって。凄いわねぇ」
そう言えば前の高校にはまだ通ってる事になってたんだっけ
故に編入届け?
『私も学校までは付いて行けませんから。
学校でのお嬢様の護衛をお願いします』
というのはセバスチャンの談。
にしても、書類が届いたその日から通わなくても
でも上司と雇い主の言う事だからね。従うけどね
「先生、私の隣の席が空いてますわ」
「そうね。じゃあ右京院さん、色々教えてあげてね?」
「はい」
……ん?何故か鳥肌が。
アレか?学校では優等生を演じるタイプですか?お嬢様は
「宜しく、佐渡君?」
「宜しくお願いします、お嬢様」
笑顔が怖いですよお嬢様
この一週間で僕がお嬢様に抱いたイメージは、
「高圧的で我侭な典型的お嬢様」と言った所
セバスチャンが言った『マゾになれ』発言も今なら頷ける
見た目は可愛いから、プレイだと思えば耐えられる……のかな?
「……どうかいたしまして?」
「いえ、何でも」
気が付けばクラスから好奇の目線を向けられていた
「ねーねー、何で執事やってるの?」
「執事って大変?」
「つか、執事って何やるの?」
「執事って事は、右京院さんと一つ屋根の下か?羨ましいにも程があるぞ」
休み時間の質問攻めは執事縛りだった
そんなに聞かれても、一週間のにわか執事は何も答えられないんですが
「皆さん、佐渡君に校舎を案内しなくてはならないので……」
「あ、うん。ごめんねー」
あぁ、やっと開放された。
しかし助けてもらった口実が口実なので、
お嬢様についていかない訳にはいかないですね
お嬢様について廊下を歩いていくと、妙に注目を浴びてる気がする
転校生なんて何処も同じですか
「佐渡 真二、はっきり言っておきますわ」
「はいっ」
声が裏返り気味。悲しきかな雇われの性
6歳から働いてたからなぁ。かれこれ10年?
「私は借金まみれで何時、
永遠に行方不明になるかも解らない貴方を救った。そうですわね?」
「はい」
役に立つかどうか微妙な能力だけど、人の怒りには敏感な方だ
お嬢様、少し怒っておられる
「いうなれば、貴方の命は私が買ったような物………つまり」
「貴方は、私の物ですからね?」
「って事があったんですが、遠回しに死ねって言われたんでしょうか?」
「どうしてその解釈に至ったのか理解できませんね。馬鹿ですか?」
おや?もしかしなくても今、侮辱された?
「あ、砂糖とって下さい」
「……今日は何だか、気合入ってますね」
チョコケーキって、手作りできたんですねぇ。初めて知りました
それにしても今日は気合入ってますね。
この屋敷で一番の大部屋がいっぱいですよ。パーティでもあるんですか?
「ありますよ」
わぉビンゴ。平日にこんな大規模なパーティ。貧乏人には理解に苦しみます
言う間にセバスチャンは涼しい顔でケーキを仕上げ、次に移る
「元々は身内での誕生日パーティだったんですがね。いつの間にか大規模なパーティーですよ」
殆ど目を向けずに包丁を操る。お見事
金持ちの見栄とか付き合いって事なのかな。大変だなお嬢様も
「……仕込みはこれくらいですか。後は空調設備の点検に行きますよ」
「はい」
仕込みというか、仕上げまで行ってる気もしますけどね。まだ何か手を加えるんですかそうですか
「「「セバスチャァァァァン!!!!!(さぁぁぁぁん)」
あ、滅びの歌が聞こえる
「…………ふぅ」
「…………僕、向こう手伝ってきますね」
自分でも一番何とかなりそうな、メイドさんの声がした方へ
え?楽したいだけなんじゃないのかって?アー聞こえない
「大丈夫ですか?」
「さ、佐田さん………助けてくださぁい」
「佐渡ですけどね」
倒れ掛かる棚。それを支えるメイド
地面に放り出され、唸りを上げる掃除機(業務用)
なるほど、掃除の最中に足を滑らせるなりして
棚に突っ込みそうだったのを何とか堪えたは良いけど
その時に手をかけるなりして与えた衝撃で
棚が倒れそうになったのは必死で支えている
こんな所ですか
何故此処に棚が有るかといえばこんな環境ですし
一所にまとめておくと危険だからだとか
しかし賞状などの棚を廊下に設置するのはどうかと。ホントどうかと
というか、貴女はこの間も同じ事をやっていませんでしたか?
『世間ではドジなメイドに愛嬌が在ると言いますが、
被害を蒙る方にとってはそんなこと全然ありません』
『というか寧ろ、殺意すら覚えます』
そうですね、まったくですねセバスチャン
貴方の言葉はいつも後になって頷かされます
「もー!早く助けてくださいよぉ!!」
そこでキレますか。涙目になりながら必死で耐えている。
相当辛いんだろうなぁ
ん?僕ってもしかしてSの気もあるのか?今迄Mだと思ってたけど
「ありがとう御座いました……それでは」
掃除機(業務用)を持つというよりは担いで、
早足で逃げるように去っていった
そう遠くない場所でこけた。掃除機のコードが引っ掛かったようだ
黒髪長髪のメイドは何だか優秀に見えるのに、
何故こうも外見と能力が一致しないんでしょうか
「佐渡」
黒と白のフリルの付いたゴシックドレスのお嬢様
白いドレスより似合ってますよ
まるでお嬢様のなめらかな体型の為だけに作り出されたようでぷっ
「今何か失礼な想像をしたでしょう?」
「いえとんでもない
ゴスロリという言葉がここまでにあってる人を見たのは初めてでふぁっ」
「ロリって何かしら? 何処を指してるのかしら? ねぇ? 何処かしら?」
日傘で突くのは反則だと思います。室内で持ち歩かないで下さい
「………絆創膏ありますか?」
頬の傷に絆創膏が貼られる。キャラ物ですか
お嬢様の趣味なんでしょうねぇ、きっと
「気をつけてくださいね」
妙に真剣看な声
「私の勘ではお嬢様には………ヤンデレの素質があると思いますから」
……………やんでれ?
『今日は集まって頂き……』
恐らくはお嬢様の親戚がマイクで挨拶をする
40代位の美しいお人だ
にしても学校から帰ってきた後にこれの準備で……よく数時間で出来るなぁ
空が暗くなる辺りからパーティの参加者が集まってきていた
テレビで顔を見る人とかも居た
しかも燕尾服の執事姿の人も結構居る。えーと、日本だよね?此処
「接客を教えてなかったので、
佐渡さんはホール付近の見回りをしてください」
「はい」
「「「ゼバスチャン!俺(僕・私)達は!?」
「あなた方が動くと碌な事にならないので、
部屋に篭ってたけのこの里でも食べてなさい」
「きのこの山でもいいですか!?」
「良いですよ。とりあえず外に出ないで下さい」
「「「了解った!」」」
「………良いんだ?」
「見回り………と言われても」
パーティを開催する部屋の周りを適当に歩く
空を既に暗くなってる訳で、廊下が無駄に広い
このお屋敷は何と言うかマジ怖いです
そう言えば、こんな廊下で襲われる映画あったっけ
………何今思い出してんの?馬鹿か?僕は馬鹿なのか?
「ねぇ」
あぁ、人って恐怖で軽く死ねるんですね
振り返ると其処に居たのはドレス姿の
恐らくはパーティに来ていたどこぞの令嬢様
深い青の美しい髪と、お嬢様と同列のようでありながら
どこか優しさも感じさせる、美しい方
髪の色とかに深いツッコミは入れないことですね
どうせ創作ですからって何言わすですか
「貴方が、真央の新しい執事?」
「ハイ、その通りですが」
真央って確かお嬢様の名前でしたね
お嬢様、としか呼んでないから忘れてました
「へぇ、凄いのね」
「いえ、お嬢様方のほうがよほど大変な経験を………」
「そうじゃなくて……」
其処で、令嬢がある一点を見つめているのに気付いた
足の親指と親指にある場所で、男性の一番の弱点でもあるところ
「って、何処見てるんでスカー!!」
「何処って………おちんピー」
「言わなくていいです!お嬢様がそんなこと言っちゃだめです!!」
この人は天然系なのでしょうか?
見た目は秀才で人をからかってそうなんですが
いや、人を見かけで判断してはいけませんね。どこぞのメイドとか
「それじゃまたね。………佐渡 真二君?」
「え?あ、はい……」
それだけ言うと、令嬢は堂々とした様でパーティ会場の方へ去っていかれた
「また」ということは、もう一度会う機会があるんでしょうか?
………って言うか、名乗りましたっけ?僕
「女性関係で何か悩んでますか?」
「は?」
僕ってそんなに顔に出るのかな。それともセバスチャンが凄いのか
「すみません。若干幸薄そうな人相に変わっていたので」
「あれ?遠回しに喧嘩売られてる?」
テーブルの大皿を片付ける。
といっても機内食を売るときのあの台車みたいなのに重ねて
一気に持っていくだけだ
「何の役に立つかは解りませんが……
とりあえず、これをプレゼントしましょう。気休め程度にはなるでしょう」
「紙袋?」
必要以上に質素な紙袋の中から出てきたのは、黒光りする男性器
の、形をしたバイブ
「………本当、何の役に立つんですか?」
「こう、逆レイプされそうな時に反撃とか」
「襲ってどうするんですか!!」
と言いつつバイブをしまうのは雇われている立場と男の悲しい本能
男は狼なのよ
「………さて、今日は軽く労働基準法を無視した
働きをさせましたからね。もう休んで結構ですよ」
「セバスチャンは休まなくても?」
「えぇ、執事ですから」
一応僕も執事なんだけど、ねぇ
お暇を出されました
いや、クビって事ではないですよ?多分
パーティの翌日の休日、セバスチャンから言い渡された
『この一週間働きづめでしたから、今日は休暇をとってはいかがです?』
文体で見ると自由意志にも見えるが、妙に強制力があってですね
それで休暇をとらせてもらった訳です
しかしまぁ、町が違って見えますね
2週間前は普通に暮らしていて、1週間前には借金を抱えて……
で、今日は執事という仕事に就いている
…………いやぁ、何か凄いな僕
午後の紅茶のティーカップを置く
午後に飲む紅茶と言う意味であの飲料の名前ではない
「セバスチャン」
「はい?」
丁度シンプルなショコラケーキを運んできたセバスチャン
本当、この方に弱点は無いのでしょうか
「……佐渡さんは、私の事何か言ってまして?」
「気になるんなら本人に聞けば良いじゃないですか
本当、貴女は回りくどいですね」
「……それが出来たら苦労しませんわ」
窓からは、何だか妙に悲惨な事になってる庭が窺えた
簡潔に言ってしまえば一目惚れ、という事になるんだろうか
同い年の男の子が借金まみれで人身売買寸前、なんて聞いたから
半分同情交じりに助けたのが始まり
正直何処に惹かれたのかも解らない
それでも気付いたら好きになっていた………と、自覚したのは最近
彼がクラスメイトからチヤホヤされるのを見て、何だか気分が悪くなった
自分の物を取られたくない独占欲と勘違いしてるのかもしれないけど
「貴女と彼を繋いでるのは今の所、主従関係だけ……
その内、盗られちゃいますよ?」
「分かって、ますわ……」
本当、この執事ときたら………
何でもできるくせに、私の手助けはしようとしない
自称Mの癖に、絶対サディストですわ
「私は主人の選んだ道を全力でサポートする。それだけですよ」
「だから、道を選ぶ手助けまではできない、というわけですか?」
「その通りです」
嗚呼、笑顔が憎い
分かったわよ、強行策でも何でも、自分でやるしかないんでしょ。どうせ
「セバスチャン」
なら私なりの手段をとってあげるわ。せいぜい苦労しなさい
「睡眠薬と手錠を用意なさい。後は、私の部屋を……」
「全て了解です、お嬢様」
町の中のどこかの、佐渡の背筋に寒気が走ったとか走らないとか
特に真面目に考える必要も無い事なんだけれど、
僕の人生の変わり目には『一週間』という単位が関係しているように思う
今日は僕が学校に来て1週間目な訳で、
こんな事を言うからにはちょっと変わったことがあったのさ
『放課後、誰も居なくなったら貴方の教室で』
ピンク色の便箋に、丸みを帯びた文字でこんな事が書かれていた
そりゃあ僕も健全な男子高校生ですから
それなりに健全な期待をしない訳ではないですよ
「……佐渡?どうかしまして?」
「いえ、特には」
どうやら僕は感情が顔に滲むタイプなんですね。平常心平常心
あっという間に放課後
授業を殆ど聞いてなかった気もする
ちょっとした雑務を引き受けて、遅くまで校舎に残る
お嬢様は先に帰っているようなので、少し胸を躍らせながら教室へ
扉を開けたら委員長がナイフ持って襲ってきた
なんて妄想が一瞬よぎる
いや、現実とアニメをごった煮にしてはいけませんね
漫画みたいなお金持ちの存在は最近知りましたけど
「失礼しまーす……」
「こんにちは、佐渡……真二、君?」
パーティの日、廊下で会ったあの令嬢が居た
制服、上履きの色から判断するに同じ学年の、多分違うクラス
あぁ、だから「また」なんて言ってたんですね。知ってたんですか
「どう?少しは驚いてくれた?」
「えぇ、まぁ」
目の前の令嬢は悪戯が成功した時のような笑みを浮かべる
お嬢様とはまた違うタイプの人ですか
「それで、何のご用件でしょうか?」
「ふふ……冷たいなぁ。あ、もしかして告白でも期待してた?」
図星ですね
一気に寒くなってきた気候に追いつくように、
沈むのが早くなった太陽が校舎をオレンジ色に染める
その中に佇む令嬢はまるで一つの絵画のようでした
「ま、別に間違ってはいないかもなんだけど」
ダンスを踊るかのように一回転
スカートが花のように膨らむ
「………言ってる意味が理解できませんが」
「んーと、つまりね……」
「君、私の執事をやってみない?」
お屋敷に付く頃には、夕方というより夕暮れといったイメージでした
令嬢から誘われた事は……まぁ、保留、といった形でしょうか
あちらも答えをせかす訳でもなく、唯「ゆっくり考えて欲しい」との事
「………ただいま、です」
「あぁ、佐渡さん。お帰りなさい」
セバスチャンがまた何かしら割れた食器類の後片付けをしていた。
大変ですね
「慣れましたよ。それより、お嬢様が呼んでいたので着替え終わったら行って上げて下さい」
「………お嬢様が?」
黒い燕尾服?というでしょうか。とりあえず執事の制服へと着替える
そして不必要に大きい扉を開けて中へ
「お呼びでしょうか?」
「えぇ……とりあえず座ってください」
天蓋付きベットなんて初めて見た。枕元のテディベアがgoodですね
見回していると睨まれた
テーブルを挟んでお嬢様の向かい側の椅子に座る。
わぁ、クッションが凄い
純白のティーカップに注がれた琥珀色の液体へとそっと口をつける
………味で銘柄なんて分かりませんよ
ん、アレ、何か瞼が重く……
「………ごめんなさい」
椅子から転げ落ちる。ティーカップは何とか割らなくてすんだみたい
一体どれだけ眠っていたんだろう、頭がボーっとする
恐らくは紅茶に睡眠薬でも入っていたんだろうか
頭が鉛のように重い
「お目覚めかしら?」
お嬢様の凛とした声。靄のかかった思考が幾分かましになった
ガチャリ
後ろ手に響く金属音。その段階でようやく僕は自分の状況を理解する
お嬢様に向かい合うように地面に座らされていて、
腕は後ろで手錠が掛けられている
フリルを重ねたような白黒のゴスロリファッションに身を包んだお嬢様が、
目の前のベットに腰掛けて僕を見下ろしていた
その表情は何処か熱に冒されている様な、ボーっとした感じ
足を組んでいる所為で、
上とお揃いの白黒のミニスカートから、桃色の下着が覗いている
そして何故かそそり立つ僕の陰茎。チャック開いてます
「あの、お嬢様……これは」
「お黙りなさい?」
「あぅ!?」
黒いニーソックスに包まれたお嬢様の御足が、僕の陰茎に触れた
それだけで大きく脈動し、背中が弓なりに曲がる
「あら?足で擦られただけでこんなに反応しちゃうのね?
まるで盛りの付いた犬じゃない」
嘲笑混じりにお嬢様が言って、足の裏を使って全体を擦り始める
もう片方の足が指で包むように亀頭を刺激する
ソックスの不規則な刺激と知り尽くしたような力加減で、
丹念に擦り挙げられる
その内、僕の意識とは別に出た透明な汁が部屋の中に粘っこい水音を
奏で始めた
「ほらほら、イっても良いのよ? 我慢しないで出してしまいなさい?」
「あぅ……」
歯を食いしばっても声が漏れてしまう
お嬢様の言葉攻めと背徳感が、快楽を後押しする
休憩するかのように、いったん刺激が止まる
限界が近付いてくるのが分かったので、少しホッとした
しかし、それは直ぐに誤りだったと気付く
根元から一気に擦られ、尿道への強い刺激が与えられる!
気を抜いた瞬間の最大級の快感に、一気に我慢の限界を迎えてしまった
火傷するかと思うほどの熱を持った精液が放出される
擬音が聞こえそうなほどな勢いの射精が続き、
お嬢様の黒いニーソックスに白い装飾を施した
手錠をかけられた手首が痛い……
「あはっ♪汚れちゃいました………」
嘲りの音を含めたお嬢様の声が聞こえる
一度射精をした事で、疲労感が襲ってくる
涙が浮かんでいるだろう目線を、お嬢様へと向けた
目線を合わせたお嬢様が、足をこちらへと向けた
「……舐めなさい?」
「ふぇ……?」
「汚れちゃいましたわ。貴方が舐めて、綺麗になさい?」
指先が口の前に移動する
ソックスの黒い指先に僕の精液がかかり、なんだかエロかった
無意識のうちに僕は親指を口に含んでいた
「む………うん、ふぅ」
「中々上手いですわ。その調子で綺麗にしてくださいね?」
「………ふぁい」
子供をあやす親のように優しい声
不思議な気分になる
自分の精液は苦いが、お嬢様の脚なら大丈夫だと思えた
指先から足の裏、足の甲、足首、ふくらはぎ……
丁寧に丁寧に舐め取っていく
それだけで、一度射精した僕の陰茎が少し硬さを取り戻していく
ふくらはぎから太腿へ
ソックスの範囲が終わり、お嬢様の生の脚へと舌を這わせる。凄く熱い
「あぁ……ん、その調子、ですわよ……」
お嬢様が身を震わせた
既に湿り気を帯びているスカートの中身へと舌を移動する
一際熱を持ったソコは柔らかく、唇を押し当てるとずぶっと沈んでいった
呼吸すら忘れて刺激を与え続ける
味のしない液体が口腔へと流れ込んでくる
飲んでも飲んでも無くならないそれは、逆に量を増してくる
「ん!も、やめ………あぁん!」
お嬢様の体がビクっと震え、弓なりに反る
支えの無い身体がベットへと倒れ、僕はようやく口を離した
所謂、イった、ということでしょうか?
「あぁ………」
「………お嬢、様?」
唇の周りの粘っこい液体を手の甲で拭う
一瞬注意を別に向けた隙に、お嬢様が僕をベットの上に押し倒した
というより、横に移動させた形になる
手錠はかけられたままなので、少し痛い
「佐渡………」
「何でしょうか、お嬢様……」
「言いましたわよね? 貴方は私の物だって……」
覆いかぶさる形で、お嬢様は独り言のように呟いた
その腕は僕の陰茎に当てられ、上下に動いていた
一度目の射精以前の硬さを取り戻したのを確認すると、
お嬢様あるものを取り出す
ヘアゴム………というかどうかは分からないが、
髪をまとめる時に使う、切れにくい幅広のゴム
「あの教室………校庭から中が見えるって、知っていました?」
この話題を持ってくると言う事は……もしかして、
令嬢に呼び出されたのを見ていたとか?
なんて悠長に考えているうちに、お嬢様が行動に移す
「…………身体に教えて差し上げますわ。貴方が私の所有物という事を」
二重三重にしたヘアゴムで、大きく反り返った僕の陰茎の根元を縛る
かなりの痛かったが、悲鳴を許されなかった
「覚悟なさい……?」
桃色の下着から片足を抜き、もう片足の膝に引っ掛ける
妖しい艶を感じさせる笑みを浮かべ、自分の入り口を陰茎にあてがい、
そして、一気に腰を下ろした!
「―――っ痛!?」
「あ、ぅ……お嬢、様ぁ……」
抵抗を感じさせるまでも無く、経験の無いお嬢様の膣内へと陰茎が収まる
同時に流れ出す、生暖かい液体
相当痛いのか、お嬢様が涙を我慢している
そして、僕も膨張する陰茎に比例するように、
縛られた箇所の痛みが増していく
「良い、ですこと!? 貴方は、私、だけを、みていなさい!」
涙声を必死に堪える声で、お嬢様が叫ぶ
その目じりからは真珠のような雫が流れて落ちた
膠着状態が少し続き、そして破られる
お嬢様が上下に運動を始め、陰茎が膣に擦られる
それだけじゃない
膣の中ではまるで陰茎を取り込むかのように中の肉壁が圧迫を加える
ヤバイ、これは気持ち良い
思考が下半身へと集中し、他の事が頭から消えていく
しかし、快感と同じ量の激痛が与えられている
自分で取り除こうとしても、手錠が邪魔をする
半狂乱のように我武者羅に腕を動かすと、手首に血が滲む感覚があった
「どう?苦しいかしら?楽になりたい?」
「なりたい、です……」
「そう?だったら誓いなさい?」
「な、何を……?」
自分の目から涙が出るのが分かった。食いしばった奥歯が今にも折れそうだ
「貴方は私の物だと……私だけを見ると、誓いなさい?
そしたら、楽にしてあげる」
結合部が、僕がお嬢様の中をかき乱している事を、聴覚で伝える
ベットが壊れそうに軋む
お嬢様はヘアゴムを切る為に剃刀を手にしていた
白い肌に浮かんだ汗が、僕の身体に落ちた
だんだん頭の中が真っ白になっていく
「僕は……お嬢様、だけの……物、です!」
食いしばる歯から、どうにかして音を出した
お嬢様の征服感に満ちた表情すら、今の僕には快感に感じられる
「良く言えたわね………それじゃ、ご褒美よ」
陰茎は既に紫色に変色しかけている
原因のヘアゴムが、お嬢様の手によって切られ、開放された
その瞬間、呼応するかのように快感の限界がやってきた
「うわああぁぁぁぁっ!!!痛い!痛い!痛いぃぃぃぃ!」
まるで針の付いたボールでも出しているかのような激痛
快感とかを通り越して、激痛が走った
涙が反射的に流れ、顔を抑えようとした手首の痛みも打ち消される
お嬢様の中へ注ぎ込まれた精液が容量を上回ったのか
まるで精液が逆流するかのような感覚
ゴポッ、っと音を立てて、陰茎が引き抜かれた
僕だって男の子なので、自慰の経験が無い訳じゃない
しかし今日のこれは、そんなことが馬鹿らしくなるほどの快楽と、痛み
この痛みも、何だか癖になりそう。やっぱMなのかな、僕
血と精液の混ざった
ピンクに染められている陰茎は、射精の残滓のように未だ硬さを保っていた
そしてまだ出ているかのように、痛みも続いていた
「………ベット、汚してしまいましたね」
「………ん」
………寝ていらっしゃる。
お嬢様の膣から流れるピンク色の液体が服を汚していた
さて、どうしましょうか………ん?上着に何だか違和感が
「………バイブ?」
ゼバスチャンから頂いた、黒光りするバイブ
無防備に眠っているお嬢様
芽生える悪戯心
「……さ、佐渡!やめなさ……」
「……僕も虐められたんですし、不公平でしょ?」
「そんな……キャッ!」
「さ、観念してください?」
「………さて、どうしましょう?」
扉の外、清掃道具を完璧に揃えたセバスチャンの姿があった
………いつかと同じシチュエーション
夕方の教室で、令嬢と二人っきり
別に浮気ではないですよ?誓いを立てたことですし
「折角ですが……執事の件、お断りさせてもらいます」
「……給金が不満なら倍出しますし、借金が気になるなら……」
「いえ」
例えば僕がお嬢様に抱く感情が"愛"か
何て聞かれても、多分Noだと思います
だったら何か、と言われたら困ってしまうんですが………
たった一つ言える事
僕は、お嬢様のお傍に居たいんだと思います
「何と言われても、僕は、お嬢様の物ですから。では、失礼します」
そうとだけ言って、教室から立ち去る
下駄箱にお嬢様をお待たせしてしまっていますからね
「………む、格好良いじゃない」
教室で一人、呟く
窓から見える校庭に、お嬢様と執事の姿を確認する
「……でも、諦めた訳じゃないからね?佐渡 真二君……?」
教室は、オレンジ色に染められていた
最終更新:2008年07月21日 04:14