『たとわた』番外編1

89 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:32:55.61 ID:1yrD4Hl60
私が優秀であろう努力するのは習慣のような物で、呼吸のように自然な事の一部になっている
最初はそれこそ親に褒められたいとか、皆に認められたいとかも思っていたけど
今では優秀であろうと努力するのが自然になっている
常に1番に居て、褒められるのが当然だった
だから小学校に上がってもそれは変わらない事だと思っていた

「天河、また一位だな。皆も天河を見習えよー」
「ども」

小学校に上がってからの私は、常に2番だった

「…………」

自分のテストに書かれた「97点」という文字をジッと睨みつける
90点上位をいつも取ることは出来るけど、未だに100点が取れない
別に100点に特別こだわっている訳ではない
しかし、100点じゃないと1番にはなれないだけだ

天河 桜
入学してから3ヶ月、彼女に対する印象は「優秀」の二文字
勉強はトップであり、運動神経では男子にも負けない
それを鼻にかけるわけでもなく、どちらかといえば裏方にまわって他の人をサポートする事が多い

優秀を絵に描いた様な彼女はいつも私の上に居た

本当、忌々しい

90 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:33:45.23 ID:1yrD4Hl60
放課後、下級生の下校を促すチャイムに従い帰り支度を進める
早く帰って今週末に控えた小テストの為に今日の部分を復習し、今後の内容を予習する
いつもの様に足早に帰宅しようとした私の足がふと止まる

「天河、そういうのは上級生に任せて良いんだぞ?」
「いえ、自分の教室ですから掃除ぐらいは………それに、学年が上がれば皆やる事になるんですから」
「……もしかして放課後時々掃除してるってのは」
「えぇ、私ですが」

いつもと同じ調子の彼女の声が聞こえた
遣る事が当然と思っていて、別に意識してやってる訳でもないのだろう、彼女は

「………天河、先生は今猛烈に感動している」
「ネタ、古いですよ」

軽くあしらった彼女は、机を端に寄せ始める
皆が帰って荷物が無いとは言え、1クラス分
一人でやるにはかなりの重労働だろう

「………ん」

蛇口を適当に捻って、バケツに水を溜める
何処までやれば良いのかは解らないので内側に描かれた線まで来た時に水を止める
簡潔に言えば、彼女の真似をしようって魂胆になるんだけどね
バケツを持ち上げるが予想外に重い
振り回される形で両足が地面から離れ――

「キャアァァァァァァァ!!?」

91 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:34:37.94 ID:1yrD4Hl60
「今がプール期間だったから良いものの、冬場だったら風邪を引いている所だぞ」
「うっさいわね。それくらい解ってるわよ」

自分のタオルと彼女のタオルを借りて身体に巻いている
バケツの水を頭から被ったから、私の服は無残な事になっているからだ
彼女が同性でよかった気もするが、こんな恥を晒した事に腹が立つ

「ところで、何で行き成り掃除なんか……」
「アンタに抜け駆けさせない為よ」

呆れたような顔でこっちを見つめている

「もしや君はアレか?異常に競争心が強いタイプか?」
「別に。ただアンタが私より上だから、追い抜きたいだけよ」
「それを競争心が強いというのでは無いのか……?」

箒でゴミを一所に集めながら溜息を付いた
何処か歳に似合わない仕草をする

「そう言えば、アンタは何でやってんのよ」
「理由か………そうだな」

思いの外真剣に考えている
話の種にと思ったが結構地雷だっただろうか

「家に帰っても暇だし、寧ろ家のほうが危険性が高いからな」

自分で運んできた水に雑巾を浸し、固く絞る
結構、苦労する家柄なのだろうか?

92 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:36:04.91 ID:1yrD4Hl60
~天河サイド~

目の前で一人の女子……一ノ瀬 綾乃が暗い表情を浮かべている

「で、君は何をしている」

私の問いに、少々面食らったようだ
質問の意図を測りかねているのだろうか?

「私を追い越したいのなら、私と一緒か押し退ける位の気構えで掃除に取り組むべきではないのか?」
「う………」

いかんな、私はどうも責める様な口調になってしまう

「それは、その………私、掃除とかした事無いからさっきみたいに邪魔するの嫌だから……
 せめてアンタのやり方見て覚えようかなって………」
「…………ふぅ」

何枚かの雑巾から選んで全力投球。もとい投布
顔にジャストミート

「ちょ、これ雑巾じゃない!」
「未使用だから安心しろ。にしても…………まったく、急にしおらしくなられてもこっちが困る」

どうやら元気が出て来たようだ。暗い空気は苦手でな

「どうした、掃除は終わってないぞ。それとも真似をするのはプライドに触るか?」
「………ううん。ありがと」

………熱意が空回るだけで、基本的には良い娘なんだよな

93 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:36:44.93 ID:1yrD4Hl60
「送っていこう」

手伝わせた形になるのだから、何か償いをしようと思ったわけだ
言ったはいいが私は彼女の家を知らないんだがな

「普段、何時間勉強してるのよ?」
「あまり意識したことは無いな。気分しだいだ」

色々と取り入れる姿勢は立派だが、そんなに勉強のことばっかり考えるのもどうかと思うぞ
しかも原因が私にあるんだよな

「……あ、ちょっと待って」

返事は聞かずに走り出す。行く先も(ry
少々手間取った後、目的を果たしてUターン

「ソフトクリーム?」
「まぁ、食べなさい」

好みはよく解らなかったのでシンプルにバニラ
今通りかかった移動屋台で買った物だ
買い食いという行為に戸惑っているようだが、私が率先して食べ始めると一ノ瀬も渋々食べ始めた

「美味しい………」
「それは良かった。それじゃ一つ、アドバイスだ」

「根を詰めすぎると、逆に効率が悪くなる。気分転換も重要な勉強だ」
「は………?」

「つまり、息抜きも大切だ。ということだ」

95 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/13(火) 23:37:40.44 ID:1yrD4Hl60
よくよく考えたら今の私は彼女と同い年なのだが、一応効き目のある説得だったと思うんだ
これであの殺意に満ちた目線も少しは弱まってくれるだろう

なんて、楽観していたのだが

「おはよう」
「おはよう」

今度の目線には殺意ではなく、純粋な闘争心だけが映っていた
何だ?今日は何かあったか?
あ………国語のテストか

どうやら彼女は常に敵意を露にするのはやめにしたらしい
その代わりにテスト前などに極度のプレッシャーを掛けられる様になった
私の言ったとおり、“量より質”な闘争心にしたようだ

…………後で悔やむと書いて『後悔』

巧く言ったものだな

でもまぁ、この状況も嫌いじゃない

~続く~

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最終更新:2008年07月21日 04:34
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