148 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:31:12.20 ID:rsdt1EZ40
私にとっては性別など対して気に病む必要は無い問題だった
故に私は、女体化という現象に頭を悩ませたりはしなかった
寧ろ、望んでいたのかもしれない
平凡と言う物は当事者にはありがたいが取り巻かれる方にとっては退屈極まりない
自分の起こす平凡、即ち仕事性格友人関係………
能動的な平凡は良い。自分が当事者ならば悪い方へ行くよりは平凡の方が良い。つか、楽だ
受動的、詰まる所世間とか組織とか、だ
毎日同じ訳ではないが、変化する規模は平凡の範囲内
不都合がある訳でもない
下手に殺人でも起こるよりは平凡が良い
しかし、飽きる
魔王が出現したりとか、ロボットで戦ったりとまでは言わない
龍球みたいな超人バトルもいらない
唯、不条理ギャグマンガというか
難しく考えたら負け、みたいな世界が良いなぁ、と思ったりする
私のような人間は苦労する世界だが、それもまた楽しそうだ
現実的な人間ならば、「辛い所を映さないだけだ」と言うだろう
それで良いじゃないか。楽しい事があるのは分かっているんだ
私は、憧れる
私には世界を変えようと言う野心も、それを奮い立たせる理由も無かった
だから待っていた。変わる時を。変えてくれる時を
16歳の誕生日、私は男のままだった
私は、女体化を望んでいたのかもしれない
151 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:32:26.80 ID:rsdt1EZ40
私の称号は、「天才」であり「変人」だった
碌な勉強をしなくても、成績を残していた
それは唯暗記が得意なだけだったと言えよう
学校のテストなんて物は、所詮教科書に載っている問題だ
その証拠に私には運動の才能は無かったらしくてな
空想に意識を燻らせているのは常の事
心が非ずの状態が気に食わないらしく、私は独りだった
周りも優秀では有った為、露骨に陰湿な虐め等にはあわなかったがな
………昔の話はイカンな。どうも愚痴になる
「…………朝か」
小鳥の囀りで目覚めるのには憧れるが、生憎目覚まし時計の色気ない電子音によって目を覚ます
何だか懐かしい夢を見た気がするな?
忘れると言うことは脳をタンスに見立てて、自分では記憶を取り出せない状態とは良く言ったものだな
夢……喩えるなら自然災害か。人間の力では及ばない場所では可能になる訳だな
まさか、0歳から5歳までの人生を一夜にして振り返ることになろうとは
走馬灯の原理を垣間見た気がするな
「………時計を止めねば」
しかし、少し違っていたな
私の記憶ではあんなに髪は長くなかったと思うが……ま、夢だからな
そうそう、確か夢の中の私はこんな感じに髪が伸びてて………
「…………え?」
152 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:33:27.60 ID:rsdt1EZ40
赤味掛かった茶髪のロング
女性特有の丸みを帯びた輪郭
凛とした目
すべすべのタマゴ肌
見た目推定年齢
6歳
…………夢なら覚め、なくてもいいか
何故こんな事になったのだろうか
と問われて思い浮かぶ答えはある
誕生日なのだ。今日は。私の
基準値に女体化せずに今迄男だった反動で幼くなったと
そんな所だろうか
さて、家族にはどう説明するか……と言っても、特殊な姉が一人居るだけだが
目覚ましの音が響く。どうやら姉が起きた様だ
ドタドタと階段を下りる音がして、この洗面所へと向かってくる
木造の引き戸がガララ、と開け放たれた
「え………?」
「おはよう御座います」
寝起きだと言うのに男物の服装
別に男の時の名残って訳じゃないんですよ、元男の姉は
ただ男装が趣味であり、女の子と付き合ってるとか
「………幼女には、手を出してない筈だけど」
「でしょうね」
153 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:34:24.29 ID:rsdt1EZ40
「身体の年齢で言えば、5歳ぐらいまでに若返ってますね」
姉に連行された病院で、そんな診断を下された
恐らくも何も無いが女体化が原因だろう
これを元に若返りの薬でも発明すれば世の奥様は発狂寸前だな
にしても、先程から姉が抱きついて離れないのは何故だろう
歳で言えば姉妹と言うより母娘に近いが
「一応、小学校とかにも通った方が良いと思いますが………どうします?」
問われても困るがな
簡単に言ってくれるが教育費と言うのも馬鹿にならん
家庭の事情や親の遺産などによって子供が成人する位なら賄えるほどの財産が無いでもないが
一度は通っている訳だから、その為に金を使うと考えるとどうもな
「良いじゃん、行きなよ」
顎を頭に乗せて、姉は言い放つ
確か前から娘や妹が欲しかったとか言ってたな
それはそれで複雑な気分になるが
「私は別に良いが………大丈夫なのか?」
「全然オッケー!ねぇ?」
「それなら俺も協力しよう」
「え……アンタ、医者の癖にまだロリコンな訳?」
「違う、俺は可愛い物が好きなんだ。ロリコンでもあると言え」
………私は金銭的な意味で聞いたんだが
と言うか、大丈夫じゃないのはこいつ等か
154 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:35:27.28 ID:rsdt1EZ40
「この、くまさんプリントはどう?」
「勘弁してくれ」
「……じゃあこのキャラ物」
「やめて欲しい」
「我侭ね……一体どれが良いの?」
「普通のかな……」
女児用下着売り場ではしゃぐ姉(男装)と、テンション低めの私
そりゃ数十分前まで成人男性だったわけなので、そんな切り替え早くできない
何故か姉は男装
癖と言うか中毒と言った所か
「ダメよ!下着を疎かにしちゃ!」
「別に疎かにはしていないが……」
「世の中にはね、全裸よりパンツを穿いてる方が良いって人も……寧ろ、そういう人の方が多いんだよ!?」
「いや、知らないが」
「折角攻略フラグ立てたのに、パンツで萎えるとか最悪でしょ!BED ENDならぬBAD ENDでしょうが!」
頼むから場所を考えて欲しいんだが……何だかトランス状態だな
パンツの講義は後にして、せめて服を買いたいんだが……受け入れられそうには無いな
子供の頃の服があったはいいが……これも男物だからなぁ
姉の下着もブカブカで、何か落ち着かないし
「もうこの白い奴で良いですよ」
「ダメよ!」
「は?」
「純白は男を落とす最強の武器!貴女の年齢で穿くのは早すぎるわ!」
「私は成人しているんだが」
「このピンクにしなさい!可愛いから!」
「だから……あぁ、もう聞いてないんだな君は」
156 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:36:48.33 ID:rsdt1EZ40
「最高に可愛いわ」
「自画自賛に近いな」
私の今の服装は………まぁ、服に明るい訳ではないので、語弊があるかもしれん
キャミソール、と言うのか?肩に紐をかける上半身用の服に長袖の肩を出すパーカー?を着ている
後はチェックのミニスカートに、白黒の縞柄のニーソックス………落ち着かん
詳しく映像で見たい場合は、戦闘執事物語単行本8巻のp145、和風お嬢様の頑張った服装を参考と言う感じか
「接写からローアングル!接写からローアングル!」
「……そろそろ容量が勿体無く感じるんだが」
テンションの上がった姉による撮影会
顔は大体同じだろうに、何が面白いのだろうか
「元は男なんだから女としての幼い自分を幻視しているんだろうよ。一種のナルシズムだな」
「居たんだ」
勝手に紙袋を漁る、姉の友人医者(ロリコン)
下着売り場には流石に付いて来なかったが、服の好みで姉と言い争っていた。さっきまで
いつもの事なので既に慣れてはいるが、私の意見は完璧に無視なのだな
「だから!この歳ならノーブラでしょ!服と胸が擦れて、性への興味を持ち始めるのよ!」
「馬鹿か貴様は!この歳の少女が背伸びをしてブラを付けると言うのが良いんだろうが!」
「黙りなさいロリコン!未発達の胸を服の上から弄る、あのシチュにどれだけの萌があると思ってんの!?」
「可愛い物が好きなだけだ!活発に遊んでいると無防備に晒されてしまう下着!あの萌が分からんのか!」
仲が良いな
頭の中に取り返しの付かない傷が付いているもの同士、仲良くしてくれ
…………所で、入学前からスクール水着や体操服を用意する必要はあるのか?
157 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:38:06.45 ID:rsdt1EZ40
遅ればせながら初めまして、私の名は天河 桜花(テンカワ オウカ)
知ってのとおりこの物語を一人称でお送りしている
誕生日に大体16~7歳ほど若返ってしまったが、大学は卒業している
両親は既に他界していて、元兄である姉と二人暮らしだ
一応裕福な家系ではあるが、どうやら私の親は嫌われ者だったらしい
遺産やらの相続権はあるものの、親戚とかの類が尋ねてきたことは一度も無い。と思う。
目下の悩みは………そうだな
身長が低くなったことで、ちょっと不便になったことか
後は妙に姉馬鹿の形になったことだな
因みに女になってしまった今、私の名前は天河 桜(テンカワ サクラ)だとか
なんとなく平仮名の方が良いと思うのは何故だろうか?
で、姉の天河 百合華(テンカワ ユリカ)
元の名前は天河 秋人(テンカワ アキト)
女体化したら名前を変えて良いとは言え、このネーミングセンスはどうだろう
名前を書く時はカタカナで書いている
『職業はコックじゃないし、パイロットでも味覚がダメでもありません!宜しく!』
と言うのが、姉の自己紹介の定番文句
とりあえず味覚はダメだと思う
私と姉は正反対であり、私と違ってかなり友好的だ
顔が広く、リーダー的な存在と言える
恐らくこの姉が居なければ、私は今此処に居なかっただろう
その恩は、一生を掛けてでも返して行きたいと思う
だが
「そのままスカート捲くってみて!ギリギリ見えないぐらいに!」
………それとこれとは話が別な訳で
158 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:39:26.26 ID:rsdt1EZ40
そんなこんなでハチャメチャ(死語?)な日々が過ぎ………
入学式当日
「………まさか、本当に通う事になろうとはな」
「良いんじゃない?可愛いし」
事前に通知されたとおり、空っぽの赤いランドセルを背負う
帰りには教科書やらで重くなっていることだろう
しかし、また小学1年からやり直しとは
身体の縮んだ名探偵の苦労が分かる気がするな
「そっちは良いのか?仕事」
「便利な後輩が居てね……」
「いや、良い。それ以上聞きたくは無い」
なにやら不穏な空気を察する
恐らくは身代わりになっているのだろう。誰かが
今日の姉の格好は所謂男装と言う奴
鬘とコルセットを駆使した荒業である
別にこういうのが本業と言う訳ではなく、趣味である。少なくとも今は
「………ところで、その格好は」
「人が集まるところだと、この方が有利なんだよね」
「何に……とは聞かんが。人の家庭を壊すようなマネはするなよ」
「君は僕を何だと思ってるのかな?」
等と姉妹コントをしている内に、クラス割りが発表される
………1のA。A組と1組の違いが分からないな
159 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/10/30(火) 00:40:59.39 ID:rsdt1EZ40
机に名前のシールがあるのは、何処も共通なのだろうか?
と考えつつ、自分の名前のラベルが貼られた席に座る
「………男女別々の列と、入り乱れた列はどっちが多いのかな?」
そういえば都合上軽く流していたが、女体化してから入学するまで軽く1年ほど経っている
女と男の違いをみっちり教えらえたり、部屋の模様替えなどで色々とあったからかなり短く感じるがな
つまり結構時間が経っているわけで、それだけあれば同年代の友達も一応居る
今の子供も公園で遊んだりするのだな。多少安心した
仲の良くなった二人、男が一人と女が一人居るのだが、その二人とは別のクラスになってしまった
別のクラスになったその二人は一緒のクラスらしい。分かりにくい
つまり私は顔も知らない人たちの中で、一からやっていくことになる
あぁ。かなり不安だな
周りを見渡せば、歳相応の瑞々しさをもった児童達の姿
そのくらいの歳だと恐らくは男子や女子などの垣根は無い者が多いのだろうな
自分の小学校時代の頃を思い出していると……いや、今の現在進行形な訳だがそれは置いといて
教室内に一人の少女が入ってきた
肩の辺りで揃えられた深い緑の髪をなびかせて、肩で風切るように歩いてくる
その存在には一目を惹きつけてやまぬ何かがあるように、教室の誰もが一度は振り返る
私の隣の席にランドセルを下ろし、私に向かっていった
「1-A 一ノ瀬 綾乃(イチノセ アヤノ) 宜しく」
「天河 桜、だ。こちらこそ宜しく」
後から思い返してみれば、恐らく此処は入り口
男の時とは違う、もう一つの人生
女としての人生の出発は、多分此処からだったんだろう
続く
最終更新:2008年07月21日 04:35