409 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/18(日) 19:28:46.98 ID:SfeGbRk30?
安価『ダイビングキャッチ』
「ライト!行くぞ!」
「はいっ!」
金属音と共に空に舞い上がる白球
経験から来る勘で予測される落下地点まで全力疾走
高く上がった球が落ちてくる
体力と共に身体能力が落ち、思うように身体を動かせない
「っやぁ!」
グローブの嵌った右手を突き出し、勢いよく飛ぶ
白球はグローブの少し先を無情にも過ぎ去っていった
ニュートンだか何だか言う人が見つけた理に従って地面に埃を巻き上げる
最近膨らんだ二つの塊が潰されて息が詰まる
「ライト!」
「もう一球お願いします!」
「50球中1球も取れず………逆に才能だな、こりゃ」
「うるさいなぁ……」
最近女体化して、身長が小さくなった
胸が大きくなって走るのに邪魔だし、身体能力も何か落ちた
「だから、大人しくマネージャーやってろって」
「い・や・だ・ね!」
410 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/18(日) 19:29:19.03 ID:SfeGbRk30?
小学校からずっと野球をやってきたのに、こんなことで諦めたくない
力が無くても出来ることはあるし
………けど、
「バットが………重い」
これはもうダメかもしれんね
「ライトーー!」
「はいっ!もう一球お願いします!」
既に空は暗くなり、照明フル活動
他の部員は先生の周りで私を見ている
私も既に体力の限界で、既に気力だけで続けてるような物だ
「行くぞーー!!」
キィン、と少し鈍い金属音
目が霞むけど、どうせボールは見えなくなってるから関係ない
左前方へ全力疾走
これ、ファーストのボールじゃないかなぁ
とか考えていても無意識に全力疾走
既にファールの線も越えた気がする
空から落ちてくる白い点が見えた気がして、両足が地面を蹴る
宙に体が浮き、右手はボールを無意識に追う
革の低い音が聞こえた。気がする
「郁乃!?」
411 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/18(日) 19:29:57.36 ID:SfeGbRk30?
そんな圭一の声を聞いた後、頭辺りに激痛
守る位置を前にしすぎた所為か、ベンチに突っ込んだみたい
皆が慌てながら寄ってくる
「いったぁ……あ、皆」
「大丈夫か!?怪我は!?」
「あはは、大丈夫大丈夫………えと、ボールは……」
右手のグローブにしっかり収まっていた
その事に若干満足感を感じていると、白球に赤い染みが落ちた
「え?」
「郁乃!血ぃ出てる!血!」
圭一が妙に焦りながらポケットティッシュを差し出していた。用意が良いね
額へ手をやると、赤い液体がべっとりと付いていた
「血…………」
一瞬の沈黙
「………ぎゃふん」
「郁乃ーーー!!?」
目が覚めると病院で、頭には包帯が巻かれていた
頭だったから出血が多かっただけでそれほど重症でもないらしい
脳震盪?とかそんなの
目が覚めた傍には、圭一が不機嫌に座っていた
「ようやく起きたか?」
412 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/18(日) 19:30:49.25 ID:SfeGbRk30?
「………アレ?怒ってる?」
「当たり前だ」
イライラしてる事が顔に書いてある
言葉にも何処か棘があった
「今回は軽症ですんだけど、今度は取り返しの付かない怪我をするかもしれないんだぞ」
「大丈夫……だと、思ったんだけどね。中学でも何回かあったし」
パシン、と右の頬を叩かれた
中学以来かな
「お前は女になったんだ。体が脆いのも当たり前だ」
「…………ゴメン」
叩かれた頬が妙に痛む
喧嘩したときもこれほど痛くは無かった……かな
圭一からの責め句が続かず、少し疑問に思う
左手の甲に冷たい水が落ちた
「圭一………?」
圭一が私を抱きしめた
腕の力は弱く、少し震えていた
私は彼の気持ちを何も考えていた事に気付かされた
「…………怪我とかしたら、どうするんだよ………馬鹿」
「ん…………ゴメン」
私も圭一を抱きしめてあげた
413 名前:缶詰の中の人 ◆FP9rUXa9Eo [] 投稿日:2007/11/18(日) 19:32:33.28 ID:SfeGbRk30?
あの日から私が圭一と付き合い始めて、1年になる
私はベンチに座っている。………マネージャーとして
『バッター、3番……』
ウグイス嬢?が打者の名前を呼び上げた
4番の圭一はネクストサークルへと歩き出す
「圭ちゃーん、ちょっとー」
「その呼び方やめて」
まんざらでも無さそうなんだけどね
彼の耳に口を近づけて囁く
「今日打てたらね、――をしてあげる」
「…………うっしゃぁぁぁぁ!」
先程と段違いの気合を込めてネクストサークルへと向かう
単純で可愛いねー
後輩のマネージャーが話しかけてきた
「………先輩、悪女ですね」
「あはははは、そんな事を言うのはこの口かしらー?」
「いふぁいれふ、やめへくらはい(痛いです。やめてください)」
……………因みに
この年、私達の学校の野球部は、開校以来の成績を残したとか
~終~
最終更新:2008年07月21日 04:38