安価『ブラックデー』

 闇の中から声が聞こえてくる。
「諸君は『ブラックデー』なるものをご存知か?」
 どこから聞こえるのかはハッキリしないくせに、やけに明瞭に響くその声は闇の中から問いかけた。
「いや、聞いたことがないな」
 誰か一人がそう言うと、周りもそれに同意する。波紋のようにそれが全員に行き渡るのを見計らってから、また闇の中から声がした。
「そうだろう。何しろ、それを知っていれば諸君らはこんな目にはあっていないはずだ」
 誰もその言葉に反応する者はいない。ぐっと息を呑む音がかすかに聞こえるだけだ。
「ブラックデー。そう、言ってしまえばそれは君たちのような者のための日だ」
「俺たちのための……?」
「そうだ、君たちのための日だ。バレンタインなどという舶来の記念日に現を抜かしておる輩ども。そんな奴等を馬鹿にしながらも、心の奥底ではその祭りに参加したい、だが出来ない哀れな男どものための日なのだ!」
 「おお…!」と感嘆の声があがる。
「それはまさに2月15日!忌々しき呪いの日の翌日に行われる!全てのモテ男に復讐を!君たちを見捨てた全ての女に制裁を!」
 闇の中の声が叫ぶと、次々に周りの者たちが唱和しはじめる。
「復讐を!制裁を!」
「よし!まもなく日付が変わる!忌むべきバレンタインデーから、栄光のブラックデーへと!!いざ行かん、戦場へ!我等の死に場所はそこにある!!」
「おお!!」

 ガラリ。
 襖が開かれると同時に、眩しい光が部屋中を照らし出す。その逆光の中、一人の少女が仁王立ちしていた。
「お前ら……、何か悪さをするんなら、ボクが相手になるよ!?」
 その少女はフリフリヒラヒラな服をしっかり着こなし、手にはステッキ頭には猫耳と、かなりソッチ系な格好をしている。
「あ、いや、あの……別に悪さとかじゃ無くてですね……」
「言い訳無用!!ねこねこパーーーーンチ!!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!!!!」
 ―――バレンタインデーが、終わろうとしている。

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最終更新:2008年07月21日 05:05
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