物置のいつもの冷たい空気を鼻から取り入れると、ゆっくりと吐き出した。
この物置はいつまでも変わらないな。ふとそう思ってから、忘れかけていた本来の目的を思い出す。
決して広くはない物置の中を、障害物を避けながら奥へと進む。
隅のほうには、人影が一人うずくまっていた。
「……おい、そろそろ夕飯だぞ」
「……」
反応ナシ、ね。しかしそんな事はお構いなく、続ける。
「母さんが、今日はハンバーグだって」
「…………なんで」
やっと口を利いた人影は、もぞりと動いてまた静止する。
「何でって、何が?」
「……なんで普通に話しかけるんだよ」
「そりゃま、兄弟だからなあ」
「違うよ!違う。だっておれ、もう――」
「あのなあー!俺が何年お前の兄やってきたと思ってんだよ。お前が生まれてからずっとだぞ?
そんな人間が、お前の外見が変わっただけで、お前の兄を止めると思うか?」
「だって――」
「だっても何もねーよ。変わったのはお前の身体で、お前の人格まで変わったわけじゃねーんだろ?」
「……」
「だったら、俺とお前はまだ兄弟なはずだ。違うか?」
「――兄ちゃん」
人影に手を差し出す。
「だったら、ほら、いつまでも隠れてないで出て来いよ。今日はハンバーグだって言ってるだろ」
「……うん」
人影は俺の手をとった。
最終更新:2008年07月21日 05:07