安価『早朝に掃除している巫女さん』

 冬の早朝、陽が昇ったばかりとは言え、かなりの冷気があたりを包んでいる。
 そんな中ひとりの巫女服の女の子が、神社の境内を掃き掃除している。
「ううー……、くそ、寒いな」
 少し口が悪いようにも聞こえるが、それは元男という事で仕方が無い。
 そう、彼――いや、彼女はいわゆる女体化した者である。
「はぁ~~っ」
 手に自分の息を吹きかけて、なんとか温まろうとする。しかしまあ、無駄なことである。今冬の冷気は尋常ではないのだ。

「おーうい、真樹ー」
 そんな彼女を呼ぶ声がある。声の主は神社へ続く階段を昇りきり、ふうと一息ついてから彼女を見つめた。ランニングジャージをしっかり着込んだ少年である。
「おはようっ!」
「また来やがったのか、帰れ」
 半目になりながら、真樹と呼ばれた彼女は冷たく言い放つ。
「熱心な参拝者に向かってなんて事言うんだよー。ほらほら、もっと笑顔で出迎えなきゃ!」
 一人で盛り上がる少年に対して、少女は「けっ」と毒づく。そしてそのまま少年を無視して境内の掃除を再開する。
「なあ、やっぱ学校来ないの?」
 少年は側にあった狛犬にもたれかけ、白い息を吐きながら語りかける。
「面白いよ、学校。そりゃ楽しい事しかない、ってワケじゃあないけどさ、でも来てみて損は無いよ?」
 真樹は少年の方をちらとも見ずに、竹箒を動かし続ける。
「お前のアタマならさ、奨学金だって貰えるぜ?」
「あっそ」
「……興味ないんだ?」
 ばすっ!
 真樹の持っていた竹箒が、少年の顔面を完璧に捉えた。
「うるせえっ!気が散るっ!」
 そのまま箒でぐいぐいと少年を階段の方へ押し出す。
「うわっ、お前落ちるって!」
「落ちろ!」
 ふぎゃあ、と情けない声を出しながら、少年は階段を転がって行った。
 そのまま何事も無かったかのように掃除を再開した真樹だったが、ぴたりと手を止めて、長いため息をついた。

「興味ねーわけねーだろ……」

 真樹が独り言をポツリとこぼしたその時に、背後に立つ影があった。その人物は体中傷だらけになりながら、ぽんぽんと真樹の肩に手を置き、
「そうか。だよな。じゃあ、いつでも待ってるからな」
 うんうんと一人で勝手に頷いた少年は、今朝二度目の階段落ちを体験する。

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最終更新:2008年07月21日 05:17
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