一匹のアヤカシが居た。
アヤカシは何でも持っていた。何でもすることが出来た。
けれど、そのアヤカシには足りない物が一つだけあったのだ。
―――こころ。
『こころとは何だ?』
アヤカシは、それが知りたくて知りたくて、欲しくて欲しくてたまらなかった。
『こころはね、ここにあるんだよ』
あるニンゲンが、自分の胸を指してそう言った。
だからアヤカシはそのニンゲンの胸を切り裂いて中身を調べてみた。
けれどそのニンゲンからは赤黒い水が流れ出るだけで、こころなんて物は見つからなかった。
『なんでだろう。もっとたくさん調べたら分かるのかな』
アヤカシはそれから、何人ものニンゲンを<調べて>みた。
だけど、何も分からなかった。
ある時アヤカシの前に、ひとりのニンゲンがやって来てこう言った。
『かわいそうに。お前は心を知りたいだけなのに、欲しいだけなのに。知らないが故に、持ち合わせないが為に、そんなバケモノになってしまったのね』
『あなたはこころを知ってる?持ってる?』
『ええ』
それだけ聞くと、アヤカシは早速このニンゲンを<調べ>ようとした。
『ごめんね』
けれど、そのニンゲンから白い光が漏れ出したかと思うと、アヤカシの体は大きな岩に変化しはじめた。
『あなたはそこで眠り続けなさい。いつか自分の中にこころを見つけるまで』
『いやだ、いやだいやだ!ぼくは知りたいんだ欲しいんだ!』
『さよなら』
『畜生畜生畜生!くそくそくそくそ!!いやだいやだいやだ!!!畜生ちくしょうくそくそいやだいやだイやダちクシょうくソクそくそくそくそくソチくしョウチクショウいヤだやだいヤダくそくそクソクソク……っ』
―――ノロッテヤル
「……で?何それ」
「お前の神社に仕える女に代々伝わる呪いのあらすじだ」
「俺にそのケモノ耳なカチューシャを付けさせる為だけに、そんな長ったらしいつくり話を考えてきたわけ?」
「いや、俺だけじゃなくて、シナリオ研究会の奴にも少し手伝ってもらったんだけどな」
「帰れ」
最終更新:2008年07月21日 05:18