安価『まっぱ』

「あー、くそっ!ずぶ濡れだ……」
 悪態をつきながら、神社の屋敷へと少女が走って行く。狐の嫁入り―――天気雨が降ってきたのだった。
「天気雨のくせに、なんつー勢いだよ」
 少女に続いて、同年代と思われる少年が走ってくる。二人は玄関を抜け、応接室に飛び込む。
 二人ともびしょびしょに濡れそぼってしまっている。少年の紺のブレザーは、濡れたせいでてかてかと光っている。
 少女の方は、頬には一筋髪の毛が垂れ、肌は雨水を弾きながらも普段異常に白く映えている。何より目を引くのが、体のラインにぴったりと沿って張り付いた巫女服だった。
「はやく着替えないとな」
 少年は意識的に視線を逸らしている。
「ああ、そうだな」
 そう言うと少女は、奥の間へ続く襖を開けた。
「俺はこっちで着替えるから、お前も適当に服脱いどけ」
「おう」
 襖が閉められると、早速少年は上着を脱ぎ始めた。
「……なあ」
 すると襖の向こうから少女が語りかけてきた。
「そのー、何だ?あの……、女ってのはやっぱ、スカートとかを履くべきとか思うか?」
「へ?いや、別にそんなの人それぞれだと思うけど……」
「そ、そうだよなっ!」
 やけに弾んだ声が聞こえてきたかと思うと、ごそごそと何やら静かな物音がし始める。
「ん?もしかして……」
 ――隣の部屋で着替えてんのか?

 そう思うと、途端に心臓の動悸が激しくなった。別に実際に見ているわけでもないのだが、この薄い襖の向こうで少女が裸になっているかと思ってうと、体が固まってしまったのだった。
「おい」
「うわっ」
 驚いて振り向くと襖が開いており、そこには私服姿の少女が立っていた。パーカーにジーンズという、普段の巫女服姿からはあまり想像できない格好だった。
「……な、なにジロジロ見てんだよ」
 言われて少年は、自分が目を見開いて少女を観察していたことに気がついた。
「いや……その……」
 ――かわいい、なんて言ったら、やっぱりこの少女は怒るのだろうか。では……、
「私服姿も、イケるなっ!」
 本人としては、かなり気をつかったつもりで最大限に褒めた。
「……着替えてくる」
「え、何で!?」
 少女は半目になって少年を睨み付けてから、また襖を閉じて隣の部屋に引っ込んでしまった。
 襖が完全に閉じてしまう一瞬前、少年は部屋の隅にフリフリのスカートが乱雑に放り置かれているのを見た―――気がした。

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最終更新:2008年07月21日 05:20
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