安価『アンダーヘアな昼下がり』

 朝でもない、夕方でもない、かといってお昼はもう過ぎた。
 そんな、どっちともつかずな時間帯。小高い山の上にある神社で、巫女服姿の少女が一人、境内を掃き掃除していた。
 雲も空気も、時間さえゆっくりと流れていくように感じながら、少女はじっと山の麓まで続く階段を見つめていた。
 すると、その階段からたったったったっと足音が聞こえ始める。すると少女は半分止まりかけていた掃除を慌てて再開する。
「こーんっちわーっす!」
 この山全体に響き渡るのではないかという程の大声で、足音の主は挨拶をした。制服の上着をサラリーマンの様に脇に抱え、ネクタイを少し緩めた極めてラフな格好の少年である。
「また来やがったのか」
「わはは!暇だからな」
「はっ、この年中暇男が」

 もちろん少女は、この少年が決して暇ではない事を知っている。今は学校行事で言う所の「期末試験期間」だ。普通はその為に勉強しなくてはならないだろうし、だからこそこの少年は平日のこんな時間に自分を訪ねてくるのだと言うことも。
 だがお互いにその事には気づかない振りをして、今日もまた意味も無く雑談を繰り広げる。
 それは今朝見たニュースの話だったり、最近読んだ本の話だったり、街でみかけた人の話だったり、お気に入りのスポーツチームの話だったりする。
 そして、少年が通っている学校の話も出る。
 はじめは、少女が学校に通っていない事もあって、その話題を振るのに抵抗のあった少年だったが、むしろ少女の方がその話題を欲しがっているので、最近では普通に喋ることにしている。
「んでさ、またその先生が俺の髪にイチャモンつけてさ」
 少年はその茶色い髪の毛を掴んでみせた。
「髪の毛を染めるなと何度言ったら分かるんだ!この不良が!……ってね」
 顔中に皺を作って、問題の教師の顔真似をする。少女はそれを見て少し笑った。
「何度も何度も『地毛だ』っつってるのにさ。ありゃ通じないんじゃなくて、単に文句つけたいだけなんだな」
「まあ、誰だってその髪の毛を見れば、染めてると思うのも仕方ないな」
「おいおい、ホントだってば。証拠見せようか?」
 言うが早いか少年は制服のズボンに手を掛け、脱ぎ始める。
「うわっ!?お前なにしてんだよ!」
「え?いや、アンダーヘアを見せれば納得するだろ?」
「帰れこのヘンタイっっ!!」
 脱ぎかけのズボンの所為でろくに受身も取れず、少年は無残に階段を転がり落ちていった。

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最終更新:2008年07月21日 05:21
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