(なーんか、ヤバいなあ)
真樹は自室で、ひとり悶々としていた。
彼女は女体化してからそろそろ一年目になる。女体化してから色々あり、今はとある神社の離れに部屋を借りそこで生活している。
その部屋には、自分が男だったときの荷物を全部持ってきていたのだが、その中には中学生男子諸君が必ず持っているであろう“そういう本”も混じっていた。
神社に来てからすっかり忘れていたのだが、久しぶりに部屋を片付けていたら見つけたので、なんとはなしに読書中なのであった。
(う~ん…)
そして彼女が悩んでいるのは、まさにその本の内容の事なのだが―――
「ぜんっぜん面白くねえ」
当たり前と言えば当たり前なのだが、彼女自身はいまだにココロは男のつもりでいたので、これは結構ショックなのであった。
(しかも……なんっつーか…むしろ……)
その本のだいたいのページでは、女性がきわどい服を着ていたり、むしろ一糸纏わぬ裸であったりするのだが、そんな中に時々“男性とからんでいる”ページもあったりする。
「う~ん……」
ほんの少し頬を赤らめて、真樹が頭をポリポリかいていると、
「こーんにっちわーっす!!」
表で大きな声がした。
「わっ!」
真樹は慌ててその本を隠し、転びそうになりながらも出て行った。
「よーっす!真樹!」
その少年――武井は、いつものように山全体に響き渡るのではないかと言う声量で挨拶をしてきた。
「お…おう!」
真樹が少し汗をかき焦っているように見えたので、武井は不審な顔をする。
「…どした?」
「ど、どーもしてねーよ!」
「ふうん」
納得したのかしていないのか、武井は曖昧な表情になる。
一方真樹は、武井の捲くられたシャツから伸びている腕と、ボタンを外して襟元から覗いている鎖骨から目が離せなくなっている。
(な、何でだ……!? こんなの見慣れてるだろ? って違う!そうじゃなくて……)
一人で混乱している。
「ホントにどしたの?」
ずいっ。と顔を近づけてくる。
「わひゃ!」
「……何だよ。女の子みたいな声出して?」
「俺は女だろっ!」
「“体は女だけど、心は男のままだ”って、いつも真樹が言ってたんだろ?」
「うう……っ」
言い返せない。
いや、それよりも。
(武井の汗のにおいが……)
はっきり言って臭いと思う。しかし、どうしようもなくその匂いに惹きつけられてもいる。
それが「男のにおい」だと理解するには、真樹はまだ女体化して日が浅かった。
「ああ~!くそ!なんなんだよ!?」
気づくと大声を張っていた。
「こ、こっちが聞きてーよ」
「とにかくだ!俺は何でもねーの!ホントに!!」
それはむしろ自分に言い聞かせていた。
「分かったか!?」
「でも、さっきから顔真っ赤だぜ?」
言いながら武井は真樹の顔を指さした。
「気のせいだよっ」
「ホントか~?」
「さっきからそう言ってんだろ!」
「……」
「……」
自然とにらみ合い、お互い見つめあうかたちになる。
自分で言っておきながら真樹は、耳まで顔が熱くなっていくことを自覚してしまう。
「やっぱ赤くなっ…」
バシン!
武井に何か言われるよりも早く、その口を顔ごとぶっ叩いて黙らせると、脱兎のごとく奥に引っ込んでしまった。
「な、なんだよ……」
一人残された武井はそう呟くしかない。
「嘘だろ……」
自室に引っ込んだ真樹もまた、シミのできた自分の下着を前に呟いていた。
最終更新:2008年07月21日 05:27