『二人の妹~P.D.F.B~』終

「鏡、飯行こうぜ」
「おう、わかった」

俺が家を出て3日……大学の友人のアパートに宿を借りている。
気ままな一人暮しの友人は、何も言わずに俺を置いてくれている。
まぁもっとも、今までの俺の貸しの方が遥かに大きいのだけれど。

家を出てからは那菜にも禎緒にも会っていない。
わざといない時間帯に帰っているというせいでもあるけど、どのみち合わせる顔もない。
『いなくなればいい』そんな存在の俺は、家にいてはいけないんだ。

そして、5日目の事だった。
昼に目が覚めた俺がまだ夢うつつの頃、携帯が鳴った。
ディスプレイに表示されたのは那菜という文字……

「はい、もしもし」
「あ、お兄ちゃん? 久し振りー♪」
「お? おう……」

正直、素っ頓狂とも言える那菜の明るさに拍子抜けしてしまった。
俺の中で焼き付いていた泣き顔が、サラサラと崩れていく。
……やはり那菜は強いんだ。

そのまま暫く他愛のない会話をして那菜が切り出したのは、やはり禎緒の話だった。

「……でさ、お兄ちゃんてっちゃんに『いなくなっちゃえ』って言われたんでしょ?」
「あー…やー…まー…うん……」
「ブン殴っておいたから安心してね。 全力で」
「な!?」
「……ま、振るったのは言葉の暴力だけどね」

心底安心している俺がいる訳で。
……何と言うか、那菜は必要以上に逞しくもなっているのかもしれない。

「…………」
「…………」
「………ねぇ、お兄ちゃん? ……ずっと三人でいれたら良かったのにね」
「……そうだな……」

長い沈黙の後、那菜は何かを懐かしむようにそう言った。
俺も頷いたけれど、もうそれは叶わない事だろうと感じるんだ。
一度壊した関係は、同じカタチに戻ることはないから。

「……あ、そういえば」
「ん?」
「てっちゃん『兄貴を迎えに行く』って出てったよ?」
「……は?」

俺がいるのは友人のアパート。普通に探して見つかる訳がない。
……それでも家を出た禎緒は、何か心当たりがあるのだろうか?

電話を切って外に出ると、生憎の曇り空。
気が重たくなりながらも、研究室への道を歩いた。

……あ、荷物置いてくか。
ふと思い付いて向かったのは、大学の敷地の隅の方にある学生駐車場。

この5日間、俺なりに考えていたこれからの事は結局答えなんか出る訳がなかった。
でも、一つだけ分かったような気がする。
―――考えても仕方がないということ。

「……ん? 誰だ人の車に寄っ掛か……って禎緒?」

どう見ても大学生には見えない……というか、見慣れた高校の制服姿。
俺に気付いたのか、片手を挙げて、ひらひらと。

「迎えに来た! 帰ろ!」
「……『いなくなっちゃえ』じゃなかったのか?」
「う……そ、それは…………なさぃ……」
「んー? 何か言ったか?」
「……ご、ごめんって言ったの! ほら、いーから行くよ!」
「わかったから待て。 先ずは腹拵え。 話はそれからだ」

車に乗り込んで、エンジンをかけて。
雲間から覗き込む太陽に『あちぃ』なんて言いながら目を細める。
面倒臭いし、疲れるし、もう考えないで進んでみよう。

「何食いたい?」
「スパg…」
「よし、チャーハンな!?」








終わり



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最終更新:2008年07月21日 20:51
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