蛍光灯の白色の光に踊る紫煙は、ゆっくりと立ちのぼり、そして消えていく。
大人になりたくて、でもなれなくて、背伸びして自販機で買った銘柄は何だっただろう。
頬を撫でる柔らかい風は、あの頃と変わり無く私達を包んでくれている。
「なぁ、こいつは何の略だか知ってるか?」
まぁ幾つかあるんだけど…と言おうとして、私はそれを止めた。
アルコール臭の漂う部屋で、ソファに横になる男は、静かに寝息を立てている。
私は来客用の毛布を取り出し、腹に掛けてやった。
「麻矢さん…ムニュ…」と体をくねらせながら微笑むコイツが堪らなく愛おしくて、その顔に魅入ってしまった。
私は彼の夢の中にどんな姿で現れているのだろう。そう思いながら、寝ているコイツのホッペを突いた。
私は灰皿に煙草を押し付けると、半分残ったグラスの酒を飲み干した。
煙草で少し掠れた喉に、染み込むように抜けていくアルコール。
この一杯が堪らなく好きになってしまった私は、もういい歳なんだろう。
「まったくコイツは…知ってか知らずか…」
会社の上司である私の尻を追い掛け回すコイツに、いつしか好意を抱いて接するようになった私。
立場上、そして贔屓と言われないように、必要以上に厳しくしても、嫌な顔一つせずに付いて来てくれた。
恋なんてしたことが無かった。そしてもう出来る訳無いと思っていた矢先の出来事。
新しい体を持って15年、その間持つことの無かった感情を、今更抱え込んでしまった。
踏み出すのが怖い私は、それを伝えられずにいた。でもそれも終わりにしなければならない。
勘違いならばそれで良い。このまま動けないでいるのはもっと嫌だから。
眠るコイツをたたき起こして、私は口付けた。
「KEEP ONLY ONE LOVE… 私が好きなのは、ずっとお前だけだ…」
最終更新:2008年07月21日 20:54