モクモクと立ち昇る紫煙はデスク横の空気清浄機に吸い込まれて消えた。
ここは戦場……私も今は鬼の上司として睨みを利かせ、自らの手をも休められない忙殺の時間帯だ。
私の彼も、書類や電話応対に奔走し、そんな姿を見る事が職場での私の唯一の愉しみの一つになっている。
―――そして勤務時間も終わり、今は人も疎らになっている。
私と彼は、相変わらず残業と称してタラタラと雑務に励んでいた。
必要の無い残業ではなく、次の仕事の能率を上げる為の準備と言った方が正しいのかもしれないが。
「麻矢さん! こっちは大体オーケーです!」
「ん、わかった。よし、帰るぞ」
職場の電気を消して部屋を出る頃には、夕食には少し遅いくらいの時間になっていて、私と彼は近場の飲み屋の常連となっていた。
元々は私だけだったのだが、彼が私を慕っている事を伝えられてから、ここは二人の場所になった。
「おやっさん、いつものと……麻矢さんは?」
「私も、いつもので」
「あいよぉ!」
主人の威勢の良い掛け声と間もなく手元に置かれるジョッキ。
これからしばし相棒のKOOLとは離れ、料理と酒に舌鼓を打とう。
「麻矢さんが元男でも、僕は麻矢さんしか見えませんから」そう言ってくれた、彼と共に。
最終更新:2008年07月21日 20:55