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『ダオラ・クッキー』

僕は独り、雪山である者を呼んでいた。
轟々と吹き荒ぶ吹雪の中、孤独と恐怖に包まれていく僕は、叫んで、叫んで、叫んで、鳴いた。
吹雪を鎮める存在である僕は、会わなければならない存在を探していた。

「……おい、大丈夫か?」

何か堅い、それでいてスベスベとしたモノに包まれて、僕は目を覚ました。
ふと周りを見渡しても、安否を確認してくれた人は見当たらず、僕はその何かからはい出た。

「それだけ動けるのなら、心配は要らないようだな」

またあの声。僕は後ろを振り返って硬直した。僕がはい出てきたソコは、ドラゴンの腕の中―――
翼を畳み、少しの風も遮って、僕を救おうとしてくれたのだろうか。
―――古龍、クシャルダオラの寝床であった。

「―――喋れる…の?」

僕の問いに、彼(?)は答えた。
低く、芯から震えるような彼の声。
言葉を解した為か、はたまた何処かが壊れたんだろうか。僕が彼に恐怖を抱く事は無かった。

「まぁ、な。覚えた」

フッと得意げに鼻を鳴らす彼に、僕は笑ってしまった。そして、彼も笑ってくれた。











笑い声を皮切りに、僕らは色々な話をした。
互いの名前、過去、そして今―――

「……ねえ、クッキーは僕の事、気持ち悪くないの?」

蔑まれた未だ新しい記憶。二度と忘れることの出来ない16の誕生日の記憶。
生贄として村から運び出された、少し前の記憶。

「……アレン、君は普通だ。人は皆、年頃に性交の経験が無いと君と同じ事が起こる」
「……それに君のような優しい心を持つ人間といて、心地良くとも気持ち悪くはならないだろう」

彼は家族から見放された僕に優しく接し、話を聞いてくれた今も尚それは変わらなかった。
勿論事実には驚き、怒りも込み上げた。でも僕はそんな事、どうでも良くなっていたんだ。
ただ今は、人のような優しい心を持つ彼にもたれ掛かるのが、幸せだった。

「……僕はね、生贄として村からクッキーに捧げられたんだよ」
「迷子では…なかったのだな」

淡々と、でも何かホッとしたように彼は目を細めた。
その様子を見て、このだれよりも優しいドラゴンになら、何をされてもいいと思えた。










「…僕を、食べるんでしょ? …できれば、痛くしないでね?」

僕は服を脱ぎ始めた。女の子なのに凹凸の少ない身体が、少し恨めしい。
その様子を見ていた彼は僕を翼で包んだ。

「脱いだものを着ろ。……私は人は襲わない」

しかし僕は引き下がる訳にはいかなかった。
生きていても村へ帰ることも叶わず、新しい何処かへ向かうのも不可能だろう。
僕は、彼の首に抱き着きながら求めた。

「……食べて…よ。村にも帰れない。新しい街も行けない。…僕はどうせなら、クッキーの為に……」
「ふむ、ならば君の命は私が貰い受けよう」

遂に、終わりが来た。
僕は目を閉じてそれを待った。
でも、彼に掛けられた言葉は予想に反したもので。

「君には、私と共に生きて貰おう」








「これとこれとこれ…買い取りお願いできる?」

とある町のお店、フードを被った女は素材を売りに来ていた。
稀な存在である古龍素材は、常に高値で取引されている。

「おや、毎度。しかし凄いね。有名なハンターさんなのかい?」

店の主人の問いかけに、女は笑った。
そして、冗談混じりに返し、金を受け取る。

「ははは!まさか。旦那に貰ったんだよ」

店の主人の問い掛けは止み、いつものやり取りが続いた。

「それとこれ…あとこれかな。幾ら?」
「それでも鱗一枚分だね。…ハイ、確かに…毎度」

袋を片手に店を出る女は、町を出て山へと向かった。
途中にある林を抜けると、彼女を照らしていた太陽の光が遮られた。

「ただいま」
「早かったな。さぁ、行こうか」

一陣の風を残して彼等は飛び立った。
彼女の幸せそうな笑みを残して。


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最終更新:2008年07月21日 20:57
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