遥か聳える山々を越えて、僕らは海沿いへと遊びに来た。
雪山での生活を考えると暑すぎるこの場所も、心地良い風がそれを和らげてくれる。
「ふむ、この場所なら人も来ないだろう。アレン、本当にいいのか?」
この風を起こしてくれている本人が僕に語りかける。
出掛けに言った事をまだ気にしているのだろうか。
「あたしはクッキーがいるから楽しいんだよ。クッキーがいれば、何もいらない」
僕が臆面も無くそう言い放つと、彼は顔を背けた。
誰もが恐れる風翔龍ともあろう者が照れているなんて、誰が想像するだろう。
一緒に暮らし始めてからもう4年経つというのに、まったく不器用だね。
「ほら照れない照れない、折角だし遊ぼうよ♪」
「む……照れてなど……というかその服はどうにかならないのか?」
ここは海。それで人間が着るものと言えば……そりゃあね?
「それも今更でしょ? 大体あたしの見てない所なんてないじゃない」
また目を泳がせる彼。「むぅ……それは……そうだが……」なんて言ってる。
確かに場合が場合かもしれないけど、見たことに変わりはない訳で。
「はいはい、ほら、遊ぼ? あたしはクッキー無しじゃつまらないの!」
首元に抱き着くと、彼は観念したかのように浜辺へと出てゆく。
南海の孤島、密林を背にしての贅沢なプライベートビーチ。
「……死ぬまで、可愛がってよね?」
そんな事を言ったら怒られたけど、本気だよ?
真夏の太陽、真っ青な海。
慣れない暑さで少しクラクラして、結局二人ではしゃぎ回って。
―――僕の大好きな、翼に包まれて眠った夏の一日。
最終更新:2008年07月21日 20:57