僕の髪が肩を越して、太陽と蒼い空が眼前に広がる此処、雪山。
年中雪に覆われていてそれなりに防寒対策は必要だけれど、旦那のお陰で生きるのには困らない。
元々贄として来た僕も今では慣れて、洞窟暮らしを満喫中。
「クッキー! できたよぉ♪」
「む? いい匂いだな……なんだ?」
「狩りたてポポのステーキ~ロイヤルチーズ乗せ~だよ!」
ステーキって言ってもかなり巨大だけどね。まぁ体格が体格だし………
これだけの量(一匹分)を作ってもペロリと平らげてくれるんだから作りがいがあるよね。
目を閉じて口をぱっかりと開けるクッキーが何とも可愛……
「あ、クッキーご飯食べたら街まで行こうね」
「む? 何か必要になったか?」
「ブラシとタオルかな。あたしがクッキーを綺麗にしたげる!」
……まぁ、そんな会話があったりなかったりで、今僕とクッキーは山の中腹にある涌き水へときています。
人では見つけられないような洞窟の中に湧き出る水は、まるで宝石みたいにキラキラしてる。
僕は適当に見繕った鍋に水を汲んでタオルを絞り、クッキーの身体を撫で始めた。
「えへへ~、やっぱりクッキーの翼は綺麗だよね。あたしも欲しいなぁ~」
「いや、それは困るな」
「なーに、一人占めはよくないよ?」
「アレンに翼があったら、私が居る意味が無いだろう?」
「………え?(//////)」
何言ってるんだ、と言い返そうとしたけれど、顔が熱くなって何も言えなくなってしまった。
たまにくる不意打ちは、何故こんなにも僕を嬉しくさせるんだろう。
談笑混じりの一時は早く過ぎて、もう洞窟には朱い陽が差し込んでいた。
僕とクッキーは水浴びをしていたけれど、不思議と寒くはなかった。
「そろそろ帰ろっか? 綺麗になったし、ね」
「ふむ。アレン、櫛を貸せ」
「え? クッキー梳かすとこ無いじゃん」
「いいから」
この際ドラゴンが櫛をくわえてるだとかそういうのは置いておいて、意外と器用な事に驚かされた。
僕の髪を梳いてくれていたのだ。優しく、宝物を触るように。
「……じょーずだね。気持ちいいよ」
ふん、と鼻息で答えるクッキーは、目を反らして梳き続けた。
フワリ、と重力に反してたちまち不安定になってしまう身体を制し、僕らは空を舞う。
スベスベになった背中に全てを預け、束の間の空の旅。
「クッキー! ちょっと抱えてくれる?」
彼の手に飛び下り、僕は顔を近付ける。
影なんて見えないくらいの上空、見えても影は一つだろう。
こんな時、どうやって表現するのかな?
僕の初めてのキスは、沈んでいく夕陽だけが見てたんだ。
最終更新:2008年07月21日 20:58