「ねぇ、今何歳なの?」
「……さぁな。 疾うに数えていないくらい昔だったことは確かだ」
「そっかぁ……」
実りの季節を迎えた山々が燃えるように紅く染まっている。
私たちは今日、山の恵みに肖ろうという事で紅葉狩りに来ていた。
赤い絨毯の上で鋼色の翼を広げて悠々と寝そべるのは、私の旦那様。
「……アレン。 君は、私といて辛くは無いのか?」
「……え? いきなり何を―――」
「私には人間のような温もりも、柔らかさも無い。 君を愛することも、君と共に朽ちてゆく事など叶わない。 君はこのままでいて―――」
風が鳴るような低い声で、彼は伏し目がちに私に問う。
確かに彼の言う通りかもしれない。
私は、彼より早く朽ち果てる。 同じ時を生きることなんて、出来ないってわかってる。
でも―――
「はいストップ! クッキーはあたしといるの、嫌?」
「嫌なものか! ただ、私は―――」
「あたしは、わがままなの。 自分がしたいようにするって、決めたの」
「―――そういうの、考えないわけ無いじゃない。 拾われてから…もうそんなの、何回も考えたよ? でも考えたって仕方ないから、だから―――!!!」
「―――!? アレン!!!」
―――!!!
何かが焼け付くような熱さが風を切り、私の肩を貫いた。
それは、樹に当たって止まる。
―――貫通弾、だった。
肩口から生温いものが流れて、段々と感覚がはっきりとしてくる。
それが痛みだと気付いたとき、私はもう倒れこんでしまっていたようだ。
「アレン、アレン!?」
彼の、呼ぶ声が聞こえる―――
―――だいじょうぶ
込み上げてくる痛みで、その一言が言えない。
早く、笑って、大丈夫、大した事無い、って言わなきゃ―――
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…――…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―
風が、目を閉じた女を包んだ。
燃えるような紅の中、空を翔る鋼色の飛龍。
逃げ惑う射手はその姿に怯え、いたずらに銃を乱れ撃った。
「貴様ぁ……」
もうその言葉は、唸り声にしか聞こえないほど怒りに満ちていた。
弾丸も、射手の声も、風の轟音にかき消されてしまう。
龍はその四足を地に付き、射手の方向に向き直った。
風が龍の目の前に収束してゆく。
次の瞬間―――龍の目の前には、抉れた道が出来上がっていた。
射手の姿は、もうその近辺には見当たらなかった……
「……あれ……ここは……ッ!」
私は目が覚めると高台の上にいた。 肩の痛みが、私はまだ生きていることを知らせてくれている。
ふと、私を影が蔽った。 見上げると、見慣れた鋼色……
「クッキー!」
「大丈夫かアレン。 すまない、私のせいで……」
ふわり、と柔らかい風と共に舞い降りた彼は、私の体を翼で包み込むように被った。
ひんやりとした感覚が心地よくて、私は体を預ける。
「大丈夫……心配かけちゃったね」
「いや……コレを使え。 昔拾ったものだが、使えるだろう」
彼はそう言うと爪に引っ掛けた布切れを差し出した。
中には、小さな瓶が二つ…見慣れた粉と、琥珀色の液体。
「薬と……はちみつ?」
「何かあった方が飲みやすいと思って、な」
彼にもたれかかりながら、私はその優しさに頬が緩んでしまっていた。
どうしてこんなにも、彼は私を気遣ってくれるのだろう。 これじゃ、離れられるわけがないじゃない。
暖かい毛布みたいなその優しさが、私を掴んで離さないんだから。
「アレン、私は決めた」
「……なぁに?」
「私も、いたいからお前の傍にいるのだ―――」
最終更新:2008年07月21日 20:58