『隣のお兄ちゃんが女体化』前編

僕の隣の家にはね、お兄ちゃんがいたの。
いたっていうのは、お兄ちゃんじゃなくなっちゃったんだ。
今は、お姉ちゃんになっちゃったの。

ずっと、ずぅーっと前から僕はおにいちゃんが大好きだった。
お祭りに一緒に行ったり、そこで綿飴を買ってもらったりしたよ。

優しいお兄ちゃんは、僕のヒーローだったんだ!
迷子になった時だって、最初に迎えに来てくれるのは絶対お兄ちゃんだった。
大きくて、強くて、優しいお兄ちゃんが、お姉ちゃんになっちゃったのは、昨日。
ちょうどお兄ちゃんの誕生日だったの。

僕が家の前でチラッと見たのは、綺麗な女の人だった。
最初は何も聞いてなかったんだけど、笑い方がお兄ちゃんそっくりなの。
あのね?ふわっと笑うんだよ?お花みたいに!

僕は学校があったから夕方の帰り道かな。
朝会ったお姉ちゃんとお家の前であったの。

「よっ!勇気!」ってお兄ちゃんそっくりに笑って言うから、「…お兄ちゃん?」って聞いちゃった。
そしたら「ははっ!よく分かったな。偉いぞ」って僕の頭を撫でてくれたの。
でもね?おに…お姉ちゃん泣いてた。

お姉ちゃんは僕の家に来て、お母さんとお父さんとお話してたの。
「大変だね」ってお母さん達が言って、お姉ちゃんは「大丈夫ですよ」って言ってた。
だけど僕はお姉ちゃんがまた泣いてたのを知ってるの。
だって、お目目がウサギさんみたいだったから。





次の日も、次の日も、お姉ちゃんは元気が無かったの。
「俺、フラレたんだ。まだ告っても無いのにな…」って僕には話してくれた。
僕には、「元気、だして」ってしか言えなかったけどお姉ちゃんは少し、笑ってくれた。

それからちょっとして、お姉ちゃんは元気になったの。
「ありがとな」ってギュッってしてくれた。
前みたいに痛くなくて、柔らかくて…なんだか甘いにおいがした。

そして、お兄ちゃんがお姉ちゃんになって2ヶ月くらい経った時だったかな。
僕のお母さんとお父さんがお仕事で遅くなるからって、僕はお姉ちゃんの家にお泊りしたの。
お姉ちゃんのお母さんとお父さんも、僕に優しくしてくれるの。だから大好き!

晩御飯を食べて、僕はお姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったの。
背中の洗いっこをして、お湯に入ったの。
「おっぱいおっきいね!」って言ったら、「触ってみるか?」って触らせてくれたの。
お姉ちゃんのぼせちゃったみたいで、顔が真っ赤だったよ。

お風呂をあがって、僕たちはお姉ちゃんのお部屋に行ったの。
もう僕の分のお布団は敷いてあって、電気を消してお休みなさいしたの。
でも僕はなんだか眠れなくて、布団のなかでモゾモゾ動いてた。
そしたらお姉ちゃんが、「眠れないの?…おいで」って僕を抱っこしてくれたの。

お布団の中で色々お話したの。学校のお話とか、お友達のお話とか。
そしたら、「勇気は好きな人はいるの?」って聞かれたから「お姉ちゃんが一番好き!」って言ったの。
お姉ちゃんはそのまま、「ありがと」って僕にちゅーしてくれたんだ。





―――――4年後―――――

僕は中学生になってて、お姉ちゃんは大学生だった。
お姉ちゃんは、最近ますます綺麗になったんだ。
そんなお姉ちゃんに会うのが何だか恥ずかしくて、たまに会っても簡単に挨拶をするくらいだった。
まともに顔を合わせると、僕真っ赤になっちゃいそうだったから。

でも、今考えると本当に馬鹿だよね。
突然避けられるようになったお姉ちゃんの気持ちなんて考える余裕が無かったんだから…

今日、部活が終わって帰ってくると、家の前でお姉ちゃんが待ってた。
「よっ…ちょっと、散歩にでも行かないか?」って言ってきた。
あんまり真剣な顔だったから、「うん、荷物…置いてくる」って言って一緒に歩き出したんだ。

しばらく歩いて、僕たちは近所の神社に着いた。
ここは、お姉ちゃんとお祭りによく来ていた場所…色んな思い出がある場所。
昔のたくましい体で、今よりずっと小さかった僕を肩車して歩いてくれたっけ。

でもそんなお姉ちゃんも、今ではもう、僕と同じくらいの身長になってた。
さっきから何も話してはいないけど、僕の中の昔のおね…お兄ちゃんはもういなかった。
夕焼けに赤く染まるその後姿が、今のお姉ちゃん。
いつからだったかはわからない。でも、ずっと前から、僕の好きな人。

「なぁ、勇気…」僕がお姉ちゃんの姿に見とれていると、急に話しかけられた。
境内で俯くお姉ちゃんは、まるでドラマでも見ているかのように綺麗で、でも何だか悲しそうだった。
「俺のこと…嫌いになったか?」






「え…っ!?」そんな事ある訳ない。確かに僕は昔の好きじゃない…でも、今も好きだった。
僕が驚きを隠せないでいると、お姉ちゃんは更に続けた。
「中学校に上がったくらいからさ…急に話してくれなくなって…」僕は、お姉ちゃんから目が離せなかった。

目に涙を浮かべながら話すお姉ちゃんに、僕の心臓は壊れそうなくらい脈打っていた。
「たまに会っても素っ気なかったよな…」お姉ちゃんは目をこすりながら、止まらない涙を止めようとしているみたいだった。

僕のせいで、お姉ちゃんが泣いてる…?罪悪感で、潰れてしまいそうになった。
お姉ちゃんは、そんな僕の肩を掴んで僕の目を見つめながら、言った。
「…俺、何かしたか?なぁ、勇気…教えてくれよ!俺が何かしたなら謝るから!何でもするから!」
お姉ちゃんは、何も悪くなんか無いんだ。ただ、僕が一方的に避けていただけ。自分の照れ隠しのために。

「…だから…」お姉ちゃんは、消えてしまいそうな小さな声で続けた。
涙で濡れるお姉ちゃんの顔が、くしゃくしゃになりながら下を向いた。
一つ、また一つ、涙は境内の土に吸い込まれていった。
『僕が全部悪いんだよ…』その一言が言えなくて…僕は、お姉ちゃんを見つめる。

お姉ちゃんは涙で霞んでいるはずの両目を必死に開いて、僕を見つめてこう言った。
「…嫌いに…ならないで…」





お姉ちゃんの、細くなってしまった肩。
僕の感情が堰切ったように流れ出て、お姉ちゃんを抱き寄せる。
「…え?」耳の裏の方でお姉ちゃんの声が聞こえた。僕たちの影は、重なり合っている。

僕を担いでくれた、あの大きな、大好きな背中はどこにも無かった。
でも今僕の両腕に抱かれているこの人が…この小さな人が、僕の好きな人。
今までも、そして多分、これからもずっと大好きな人―――。

「お姉ちゃん」僕は一度お姉ちゃんを胸から放すと、お姉ちゃんに伝える。
「…ごめんね…」そうして僕は、お姉ちゃんの唇に、自分の唇を重ねた。

―――僕は卑怯だ。泣いて泣いて泣いて…勝手な気持ちを押し付けた。
面倒見がいい、優しいお姉ちゃんを泣かせた。挙句、無理矢理キスをして―――

そっと唇を離すと、お姉ちゃんは呆然と立ち尽くしていた。
「…ごめんね…僕、お姉ちゃんの事嫌いになんかなったこと無いよ。」
「僕のこと、弟みたいに可愛がってくれてるお姉ちゃんを、いつの間にか女の人としか見れなくなってた…」

―――僕は、逃げ出した―――。
お姉ちゃんを泣かせた。あんなにひどいことをした。気持ちを、押し付けた。

走って、走って、どんな道を通ったかなんて覚えてないくらい、罪悪感でいっぱいだった。

でも、それでも―――お姉ちゃんの事が、たまらなく好きだったんだ。


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最終更新:2008年07月21日 21:01
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