ずっと早起きは苦手だった。
朝起きて布団の中でウトウトするのが何より好きだった。
だから、ラジオ体操になんか行ったことなかったんだ。
首からカードをぶら下げて、欠伸をしながら眩しい朝陽を浴びて。
そんな僕をお母さんは叱ったけど、いつもお婆ちゃんだけが庇ってくれたんだ。
お婆ちゃんの匂いが大好きで、学校から帰るとずっとお婆ちゃんと一緒だった。
『たーくん』と呼んでくれて、いつも一緒に縁側で日向ぼっこしてたお婆ちゃん。
シワシワの手の平で僕の頭を撫でてくれたお婆ちゃん。
でも、そんなお婆ちゃんも、僕が中学生の時にいなくなってしまった。
白黒の写真のお婆ちゃんはいつものあの優しい笑顔だけど……
小さな白い箱になったお婆ちゃんはもう、僕に笑いかけてくれることはない。
お婆ちゃんがいなくなって暫く経って、僕は女の子になった。
でも驚きとか悲しみなんてのは無くて、休みもとらずに学校には行っていた。
「バァちゃんたーくんがお嫁さん貰うまで生きてられるかなぁ?」
「あぁ、でもたーくんが女の子になっても可愛いだろなぁ」
まだ小学生だった僕が覚えている昔のお婆ちゃんの言葉。
いつも僕を気にかけていてくれた大好きな、優しいお婆ちゃんの言葉。
この大きな石の下に眠っているお婆ちゃんは、今の僕を見てくれているだろうか?
白い煙が立つ中、近くの公園からは子供達の元気な声が聞こえる。
真夏の朝早く、小さなラジオから響く変わらない音楽。
―――お婆ちゃん。僕、早起きできるようになったよ…?
最終更新:2008年07月21日 21:05