―――水……水が飲みたい………
世界が核の炎に包まれて3年。未だ残る生なる大地を求めて砂漠を歩く僕の体力は最早限界だった。
陽炎のたつ延々と続く砂による山々。容赦無く照る太陽は、日本のような優しいものではなかった。
水は切れ、食料も底をつこうとしている。水筒からの最後の一滴を口に含み、水筒を投げ捨てる。
これでもう長くは生きられない。そう、覚悟した時だった―――
無数に越えて来た砂の山の一つを越えると、そこは嘘のようなオアシスが広がっていた。
幾度見たであろう蜃気楼?いいや、もう蜃気楼でも何でもいい。
今はただ、その小さな幸福の中で果てるのも悪くない。
僕にはもう、何も無い。家も、家族も、帰るべき場所も、そして往くべき場所も―――
薄れゆく意識の中、僕は水に包まれる感覚を覚えていたんだ。
僕が目を覚ましたのは薄暗いテントの中だった。額のタオルが音も無く落ちる。
突然テントは開かれ、男が入って来た。
喉が掠れて声がうまく出ない。動こうとしても頭痛と吐き気も酷く、咳込むと同時に口を押さえた。
「おぉ、起きたか…無理はするな。脱水と熱射病が酷い。女一人でこの砂漠を越えたんだろう?」
―――女?あぁ、そうか……僕はもう、15歳になるのか……
見知らぬ土地の見知らぬ街で、男の僕はいなくなった。
戦火から逃げ、歩き続けた僕はこんな形で新しい生を受けることになった。
「……こ……ここ…は…?」
掠れた声を無理矢理ひり出し、場所を尋ねる。男は入口を開き、僕に見せながら言った。
「此処は"鎖残の都リビア"。戦争のシェルターとして閉鎖され、唯一残った哀しみの都だよ…」
最終更新:2008年07月21日 21:21