「…メグちゃん…僕は君が好きだよ」
「…松本君…帰って来てくれてありがとう…」
スクリーンに映る二人の男女。僕は席について二人の行く末を見守る。
青臭いような、初な二人の物語は、もう佳境を迎えていた。
僕にもあんな時代があったのだ。そして僕はその頃に、新しい人生と戦っていた。
自分が何のために此処にいるのか。幸せって何なのだろうか。
答えの無い問い掛けを繰り返し、傷付き、傷付けたあの鮮やかな時代は、今もはっきりと思い出せる。
大人になれば全てが解ると信じていた僕はどうしようもなく子供で。
ただ皆といるだけで暖かくて、楽しかった。
変わっていく事が嫌いで、寂しくて淋しくて、動けなくなっていた僕を連れ出してくれたあの人は、もういない。
ふと終末の曲が流れ始める。
見慣れないハッピーエンドのカタチをとるこの映画を観るのは、これでもう何回目だろう。
スタッフロールが流れる中、僕だけが劇場を出ようとはしなかった。
『監督』という位に落ち着いたその名前を見て、僕はようやく腰を上げる。
彼は夢を叶えたのだ。道を分かった甲斐があるというもので。
頬を伝うこの水は、オメデトウの涙。決して寂しいとかの涙ではない。
「……良かったね」
僕はスクリーン越しに、遠くにいるあの人へ向かって心からの賛辞を述べた。
終わり
最終更新:2008年07月21日 21:23