207 名前:
コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k [>>152,157] 投稿日:2007/07/17(火) 20:59:37.94 ID:X3tzfsc/O
プールからあがって目を洗い、シャワーを浴びる。これが大切だって解ったのは、つい最近だった。
夏まではまだある5月も半ば。高校に入って初めて、近場の温水プールへと遊びに行った。
高校受験を目前に女体化を迎えてしまった俺は、勿論水着なんて持っている訳も無い。
だから友人のお古の水着を貸してもらった訳なんだけど……
「……アンタ着痩せするのね…負けたわ……」
うん、何が言いたいかというと、胸がスクール水着から必要以上に自己主張をしていた訳だ。
……と言っても他のサイズは概ね合ってる訳で、俺は気にせずはしゃいでいたんだ。
視線は確かに痛かった。見つめる側から見つめられる側になって初めて解ったよ。男恐ぇ。
何その血眼? チラ見どころかガン見? 自分もこうだったのかと思うと嫌気がさした。
友人からは「気にしない方がいいよ」なんて言われたけども。
……で、帰り。俺は男の感覚が抜けないまま、烏の行水よろしく素早い帰宅準備を済ませた。
友人が念入りにシャワーを浴びるのを見ながら、「女の子って長風呂好きだなぁ」なんて思いながら。
……でもその意味がわかったのは、友人の家に着いて髪を乾かした時だった。
髪が纏まらない。ゴワゴワする。ギシギシする。―――つまり、傷んでるんだ。
はっきり言って、この長い髪も、思いきり切りたかったんだ。けど母さんは許してくれなかった。
だからこそ苛ついた。友人の机から鋏を拝借し、髪を束ね、刃先を開いた。
208 名前:コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k [] 投稿日:2007/07/17(火) 21:01:01.24 ID:X3tzfsc/O
―――でも、止められた。鋏は引ったくられ、机にしまわれた。
友人が持って来たグラスの氷が、音を立てて崩れた。
「何やってんのよ!? 馬鹿な事してないで、コッチ来なさい! ホラ、早く!!」
手を引かれついていくと、俺は服を抜がされ、風呂場へと通された。友人も後を追って、入ってくる。
「座って、あとソレ取って」
女の子らしい柔らかな指使い、宝物を扱うような繊細で時間のかかる作業。
……髪を洗うっていうのが、こんなに気持ち良いものだったなんて、ね。
「まったく……『男だったから』なんて言い訳にしかならないの。わかった?」
温かいお湯を受けながら、俺の髪は彼女に委ねられていた。
リンス・トリートメントが終わる頃には体まで洗われて、俺は湯舟に浸かりながら友人を見つめていた。
「………と……ハイ、終わり! ホラ、全然違うでしょ?」
丁寧な心地良いドライヤーかけが終わると、先程とは全く違う俺の髪があった。
指通りも纏まりも、サラサラとした肌触りも―――
「わかんないことあったら教えてあげるから、さ。 なっちゃったんだから極めようよ、女道!」
こんなにかっこよくて男らしい友達は初めてで、なんだか俺は笑ってしまった。
そしたら「何よ! 笑わなくたっていいでしょ?」なんて首を絞められた。
そんな、男らしい女の子になりたいと思った夏の一日―――
おわり
最終更新:2008年07月21日 21:29