安価『百合』

何度目のキスだっただろう。
施設に育てられた俺の、唯一の恋。最初で最後の、恋。
物心付く前からの事だった。
檻越しに交わした言葉も、重ねた指先の感触も全て覚えてる。
彼女は貞操帯を外す事を許されず、俺は童貞でいる事を義務付けられた。
施設の兄貴達が中学を卒業する頃には、施設の人間は大部分が入れ代わっていた。
……売られて行くのだ。薄汚れた金持ちの所へ。
男として残ることは許されず、ただ買われるのを指をくわえて待っている。
皆綺麗になってしまうから、言葉遣いだって徹底されるから、売れ残りが出る事は無かった。
ただ一人を除いて……

隣の独房の彼女は、17になるのに買い手が付かなかった。
彼女は表情を表す事が少ないのだ。
センセイと話をする時の表情は、正に氷の華。凛としているけれど、どこか悲しげな蕾。
俺と話す時もそれは変わらなかったけど、物心付く前から共に育った彼女は、ひどく魅力的に見えたんだ。
俺達はセンセイ達の目を盗んではキスを交わし、指を絡ませ、時には互いの身体を愛撫した。
しかしそこに肉欲は無く、子猫達がじゃれ合うように、行為は繰り返された。
その永遠と思える時間にもやはり終わりが訪れた。
俺が女体化を迎えたのだ。当たり前のように、時は過ぎていたから。
女体化したから終わったという訳ではなく、俺にも彼女にも、買い手がついたのだ。
俺達は共に1日の猶予が与えられ、寝る間も惜しんでキスをした。
互いに互いを刻み込むように、深く、深く、手を取り合って。

別々の車に乗せられて、俺達は離れていった。
俺の恋は唯その時だけ……あれ以来俺は、与えられた仕事を熟す毎日を送らされている。
そして今日も、戯れに新入りを玩ぶのだ。
似ても似つかない、あの人を思い出しながら……


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最終更新:2008年07月21日 21:38
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