623 :
コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k :2007/10/08(月) 02:19:35.04 ID:nuqAdhj4O
「あひゃひゃひゃひゃ! やあぁってやんぜ!」
「まだだ! まだやられんよ!」
部屋で二人でゲームをする日常。まったく不健康極まりないと言われる時間は、本人たちも十分に把握している。
いい歳して二人でゲームばっかりしないで外に出なさい。そんなの耳にタコが出来るほど聞いている。
俊明は俺の一つ上の先輩で、幼馴染だった。
ヤツは飄々としてて、サバサバしてる。 でもまじめなトコはまじめで、俺の兄貴分だった。
「おぅ。 親父ントコ引っ越すことンなった。 お前にゃ世話ンなったしお礼すっから一週間後ちょっくらこいや」
やっと・・・やっと俊明と同じ高校にいける、そう決まった直後のことだ。
いつもの冗談かと思った。 けれど俊明の声はいたって真面目で、嘘をつくような雰囲気でもない。
携帯の留守電に残されたそのメッセージに、俺は心底苛立っていた。
ふざけんな! なんでこのタイミングなんだ!
テメェがいるから高校決めたんだぞ!? 俺の努力はなんだったんだよ!?
連絡は一切取れないまま、時間ばかりが過ぎてゆく。
ぐるぐるとぶつけたい気持ちは空回りして、それは募っていくばかりだった。
そして・・・・・・
『P.M 19:00 皐月公園 滑り台下の祠にて待つ』
果たし状のようなメールが届いたのは、前日のことだった。
624 :コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k :2007/10/08(月) 02:20:16.47 ID:nuqAdhj4O
公園の桜の樹がほのかに色づき始めてきていて、でも今はそんなこと気にする気にもなれない。
俊明が、来ないのだ。 もう約束の時間はとうに過ぎていると言うのに・・・・・・
握り締めたメッコールの缶はもうすっかり温くなってしまっていた。
俺は缶をゴミ箱へと投げ入れると、滑り台へと戻った。
「お兄ちゃん、何してるの? さっきからため息ばっかりだけど・・・」
ふと、小学生くらいの少女に話し掛けられた。 さっきから滑り台で遊んでいた子だ。
「ちょっと待ち合わせなんだけど、ブン殴りたいヤツがいて・・・ね」
「ひっどーい! 殴っちゃうの!? 親父にもぶたれたことないのに!」
「・・・よぅしおk。 とりあえずそこ座れ」
「まぁまぁ、話せばわかる。 それよりまじめに時間無いから聞いてくれ」
「はぁ・・・・・・っだよ・・・ったく・・・・・・」
いつもそうだ。 俺はいいように言い包められて結局は俊明のペースにはまるんだ。
「・・・・・・で? その話はいつから?」
「ん~・・・一月前」
俊明の父親は世界的な通訳さんで、今はイギリスを拠点に活躍している。
で、要約すると事故ッたしホームシック気味だからちょっくらあっちに移り住む、と。
「ま、俺はどうせ他人だけどよ・・・・・・もっと早く言えよなぁ。 高校決めちまったじゃん」
「いや、多分あっちにゃ長くても一年くらいしかおらんからなぁ。 休学して行きゃ同学年! 俺素晴らしくね?」
「お前は・・・・・・」
かわらねえなぁ。 寂しくなるじゃねぇか。 その言葉は言えなかった。
言えないだろ。 かわらない笑顔で、こんなにも楽しそうに喋ってるのに。
625 :コゲ丸 ◆CI4mK6Hv9k :2007/10/08(月) 02:21:07.19 ID:nuqAdhj4O
「さて、んじゃ俺そろそろ行くわ。 明日出発だし準備せにゃ」
「ん、そっか」
話も途切れたところで、といった感じだろうか。 俊明は立ち上がってスカートの埃を払った。
ここでわかれてもどうせ一年もしないうちに戻ってくるんだ。 そしたらまたゲームやって盛り上がって・・・・・・
「あ、プレゼントやらなきゃな。 よっしゃ、目ぇ瞑れ。 んで手ぇ開いて立ってろ」
「んだよ、どうせすぐ帰ってくんだろ? べつにそん時でも・・・」
「まぁいいから、ほら!」
俺は本当にそんなものいらなかった。 だってなんか、こういうのってこっぱずかしいだろ?
でもそんな事も言えないまま、俺は突っ立ってた。
- 唇に、やわらかい何かが触れた。 目を開いても、俺の視界は手で覆われている。
「バッ・・・! 俊明!?」
「フフン、リアルJKの唇はどうだ? まぁ俺な訳だが」
「て、てめぇ・・・!」
「小悪魔な俺! 参上! ん、満足した! じゃあまたな!」
どうやら最後までヤツのペースらしい。 俺は俊明に手を振り返した。
「あ、一つ言い忘れた!」
「今度はなんだよ!?」
「お前にゃ俺が唾つけた! 戻ってきたらちゃんとしよーな!」
「・・・・・・と し あ き ぃ ~ !!!!」
おわり
最終更新:2008年07月21日 21:43